1時間後、俺はコテージのベッドの中に居た。
「もぉ……やっぱりお医者さんが言ってた通りにまだ安静にしてなきゃいけなかったんだよ。」
「……うん……ごめん。」
まさかまた亜紀のこの表情を見る事になってしまうとは……。
俺の事を心配しつつも、同時に凄くガッカリしてる表情。
そりゃそうだよな。今日は最高の1日になるはずだったのに、海に入ってすぐにこれだもんな。
俺は結局、あの岩場から亜紀が使ってた浮き輪に入れられ、牧原、篠田、坂本の3人に順番に引っ張ってもらいながらなんとか陸地に戻ってきた。
(亜紀もそんなに泳ぎは得意ではないので、俺が入った浮き輪の後ろに掴まってた)
つまり、俺はまたあの3人に助けられてしまったんだ。
「でも私も悪いよね、直樹に泳がせちゃったんだし。無理させちゃったよね……。」
「いやそんな事は……俺が悪いんだよ。」
外の天気はあんなに晴れ渡っているのに、俺達2人の間の雰囲気はこれ以上ない程暗くなっていた。
「また熱上がっちゃったね。」
亜紀が俺の額に手を当てながら言った。
体調はまた昨日の夜の状態に戻ってしまったような気がする。
「おーい、氷買ってきたぞぉ!」
そう大きな声で言いながら両手に買い物袋を持った牧原達が部屋に入ってきた。
「わぁ、ありがとうございます。熱も上がってきちゃって、今丁度欲しかったんです。すみません、何から何まで……」
「ハハッ、気にする事ないよ亜紀ちゃん。あとさ、飲み物も買ってきたから。」
「ありがとうございます。あの……いくらくらい掛かりました?」
「いいよいいよそんなの、大した事ないから。」
亜紀はやたらと親切な牧原達に何度もお礼を言っていたが、俺はコイツらに対してそこまで感謝の気持ちは抱けなかった。
助けてもらったのは事実だけど、そもそも牧原達があんな沖の岩場に行こうなんて言い出さなければここまで体調を崩すことはなかったんだ。
それに牧原達の目は、なんだか倒れた俺の事を嘲笑っているようにも見えた。
亜紀には分からなくても俺には分かるんだ。
コイツらは口では親切ぶった事ばかり言っているけれど、本当は心の中では俺を馬鹿にしてるんだ。
「まぁとにかく直樹はちゃんと寝て、しっかり風邪治せよ。俺達もそのためなら何でも協力するからさ、な?」
「……。」
俺は牧原に声を掛けられても不貞腐れたように布団の中に潜って黙り込んでいた。
「それより亜紀ちゃん、俺達これから美味しいハンバーガ屋に昼飯食べに行こうかと思ってるんだけど、亜紀ちゃんも一緒にいかない?」
「え、美味しいハンバーガー屋さんですかぁ。」
「そうそう、その店のハンバーガーはここに来たら絶対食べといた方いいよ。直樹ももう寝てるみたいだし、亜紀ちゃんもここにずっと居てもつまんないでしょ?だから行こうよ、ね?」
まだ寝てねぇよ。
でも美味しいハンバーガー屋か、亜紀は行きたいだろうなぁ……
亜紀、行っちゃうのかな……
「でも……うーん……まだちょっと直樹が心配だから。もうちょっとここに居ようかな……。」
亜紀……
俺は亜紀のその優しさに感動すら覚えていた。
こんな彼氏でも、まだそんなに心配してくれるなんて……
「そっか、いやぁ亜紀ちゃんは優しいなぁ。分かった!じゃあ俺達が持ち帰りで買ってきてあげるよ!」
「え、でもそこまでして貰ったらなんだか悪いような……さっきは直樹の飲み物や氷も買ってきてもらって、昨日も色々してもらったし……」
「いいよいいよ、そんなの気にしないで。あそこのハンバーガー本当に美味しいからさ!亜紀ちゃんには絶対食べてもらいたいんだよ。」
「そんなに美味しいんだぁ……じゃあ、お願いしようかな。あ、でもお金は払いますから。」
「いいよそんなの、俺達が食べてもらいたいだけだし。ちょっと待っててよ、すぐ買って帰ってくるからさ!」
そう言って牧原達は部屋を出て行った。
しかしその後、2人だけになった静かな部屋で亜紀は俺がもう寝ていると思ったのか、口から小さな声でこう漏らした。
「あ~ぁ、もう……嫌になっちゃうなぁ……」
重い言葉だった。
胸にグサッときた。
たぶん、俺が聞いていないと思って亜紀は本音を漏らしてしまったのだと思う。
これだけ優しい亜紀でも、さすがにもう俺との付き合いに嫌気がさし始めているんだ。
俺はショックで布団から顔を出すことすらできなかった。
それからしばらくして牧原達が帰ってきた。
「亜紀ちゃーん、買ってきたよ!」
亜紀はそれまで考え込んだように何度も溜め息をついていたが、牧原達が帰ってくると明るい声で返事をして隣の部屋へ行ってしまった。
「わぁこんなに沢山!」
「いろんな種類あったからさ。ここで皆で食べようよ。」
「すごーい、美味しそう!」
「ハハッ、亜紀ちゃん好きなの食べていいよ。たぶんこの店のやつ全部美味しいから。」
隣の部屋は昨日の夜よりも盛り上がっていて、亜紀も打って変わって楽しそうにしていた。
ハンバーガーも好みに合っていたようで、何度も
「美味しい~!」
という亜紀の声が聞こえていた。
「そういえば亜紀ちゃん、午後からバナナボート行く?」
「あ、そっかバナナボート……どうしようかな……」
「行こうよ、せっかくだし。」
「そうそう、俺達も亜紀ちゃんがいないと楽しくないしさ、行こうよ。」
「う~ん……でも……」
「直樹はもうしばらく寝てるんだろ?折角ここまで来たのにコテージに籠りっぱなしじゃ勿体無いよ。」
「う~ん……そう…ですね。うん!じゃあ行こうかなっ!」
「よし!決まりだな!」
俺は独り布団の中からそんな亜紀達の会話を聞いて落ち込んでいた。
俺はもうダメだ。ダメな男なんだ……。
コメント
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…直樹君辛いなぁ…
でも優しい彼女でもさすがにつまんない思いはしちゃいますね
だから彼らについていっても仕方ないかな(*^_^*)
彼らがいつ豹変するのか楽しみです(笑)
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コメントありがとうございます。
そうですよね……でもそれでも現実だったら亜紀のような女の子は羽目を外すような事はしないだろうと、ついつい思ってしまいますが、どうなるんでしょうかね笑
牧原達もそろそろ化けの皮が剥がれてきそうです。