ボンヤリとした目覚めだった。
何かを焼いているような匂いと騒がしい音。
ゆっくりとベッドから身体を起こした香苗。
横を見ると、そこには寝ている間ずっと手を握っていてくれた夫・祐二の姿はなかった。
香苗
「祐二……?」
今日は確か土曜日だったはず。
匂いと音はキッチンの方から聞こえる。
何をやっているのだろうと思いながら、寝室を出てキッチンに向かうと、そこにはフライパンから黒い煙を出しながら悪戦苦闘している様子の祐二がいた。
香苗
「祐二……何やってるの?」
祐二
「おお香苗!起きてきたか!朝飯作ろうと思ってやってたんだけどダメだな!あ~あ、真っ黒だ……。」
香苗
「え、朝ご飯?祐二が?……あ、換気扇回さないと!」
祐二
「おおそうだったそうだった!」
香苗がキッチンに入ると、そこにはフライパンにこびり付き、真っ黒に焦げている卵が。
祐二
「しまった、火が強すぎたのかな。やっぱ俺じゃ香苗みたいに上手くできないな。」
香苗
「どうして急にこんな事……朝ご飯なら私が作るのに。」
祐二
「いやさ、たまたま香苗より早く目が覚めたから、偶には俺が作ってやろうかと思ってさ。でもやっぱりダメだな。俺料理の才能ないわ。」
その言葉と、卵焼きを作るだけなのにやたらと汚れてしまっている祐二のエプロン姿を見て、香苗は思わずクスっと笑ってしまった。
香苗
「フフッ、もういいから、私が朝ご飯作るわ。祐二何が食べたい?」
祐二
「悪いな。そうだなぁ、サンドイッチかな。」
香苗
「サンドイッチね、すぐに作るね。」
祐二
「あ、卵とツナと野菜たっぷりのやつがいいなぁ。」
香苗
「フフ、了解。」
そういえばサンドイッチはここの所ずっと作ってなかった。
祐二の好物の内の1つなのに。
香苗は慣れた手つきで朝食を作っていく。
祐二の要望通りのサンドイッチ、そしてトマトのスープ。
祐二
「うん、やっぱり美味しいな、香苗のサンドイッチ。」
満足そうにサンドイッチを食べる祐二の姿を見て、香苗も笑顔になる。
休日のゆったりとした朝。
こんなに穏やかな朝は、なんだか久しぶり。
そんな事を思いながら香苗はふとダイニングの壁に掛けてある時計を見た。
香苗
「……あっ、そこの時計、止まってる……」
祐二
「ん?時計?あ、ホントだ。後で俺が電池交換しておくよ。」
香苗
「うん。」
針は丁度朝の7時を指して止まっていた。
香苗はその止まった時計をボーっと見つめる。
……このまま……時が止まってくれたら良いのに……
遠距離恋愛をしているカップルでもないのに、そんな事を香苗が考えてしまうのは、この後に起きる何かを予感していたからなのかもしれない。
1日の長さは、その過ごし方によって大きく変わる。
前日に夜更かしをして休日を昼まで寝て過ごしてしまった人間は、とてもその1日が短く感じられるだろう。そしてその逆も。
香苗にとってこの日はとても長い1日になった。
ゆったりとした朝食が終わってすぐ、その始まりは祐二の携帯に掛かってきた電話からだった。
♪~~♪~~
香苗
「祐二、携帯鳴ってるよ。」
祐二
「おう、誰だろうな、こんな朝早くに……あ、母さんからだ。」
携帯画面を見て祐二はそう呟いた。
香苗
「お義母さん?」
祐二
「なんだろう……もしもし?母さん?」
祐二の両親は香苗達が住んでいる町から少し遠い地方に住んでいる。
香苗が祐二の両親に会うのは年に数回程度だが、その度に2人共香苗には良くしてくれている。
祐二の親だけあって、とても優しい。
祐二
「えっ!?今日!?」
何やら少し驚いている様子で電話をしている祐二。
それから数分程度祐二は電話していたが、あまり良い顔はしていない。
祐二
「わかった、わかったよ。じゃあ香苗にも伝えておくから、何時頃着くか後で教えてよ。はいはい。」
面倒くさそうな態度で電話を切った祐二。
香苗
「お義母さん、どうしたの?」
祐二
「なんか、今日母さんがこっちに来るんだってさ。何かのコンサートを見に。」
香苗
「コンサート?お義父さんもいっしょに?」
祐二
「いや、母さんが1人で来るらしい。でさ、今夜俺達の部屋に泊めて欲しいんだってさ。突然だよなぁ……ったく、もう少し前に言えっての。」
香苗
「でも、もう来る事は決まってるんでしょ?」
祐二
「あぁ、コンサートのチケットは用意してるけどホテルの予約は取ってなかったんだってさ。あ~ぁ、せっかく今日は香苗とのんびりできると思ったのになぁ。」
コメント
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愛読してます!!
どっぷりはまってしまって
毎日毎日更新を楽しみに何度も
除きに来てしまいます
これを読んでいるとムラムラしてきて
右手が勝手にイケないことを
してしまっています・・・笑
中毒性あります(;・д・)
更新無理せず
頑張ってください
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コメントありがとうございます。返信遅くなってすみません。
愛読して頂いているという事で、本当にありがとうございます。嬉しいです。
毎日来てくださっているのに、更新が疎らで申し訳ないです。
できる限り止らないよう頑張りますね。
右手が動いてしまいすか(笑)そうしてもらってると思うと自然と僕のモチベーションもあがりますので、どんどん右手使ってください(笑)