中嶋
「……奥さんの携帯の音ですか?」
中嶋のその問いに小さく頷く香苗。
中嶋
「もしかして旦那さんですかね?」
香苗
「……たぶん……」
〝たぶん〟ではない。この着信音は祐二専用に設定しているものなのだから。
中嶋
「そうですかぁ。ちょっと、そのままで待っていてください。」
香苗
「え?……あの……」
中嶋は香苗にそう言って裸のままリビングの方へと出て行ってしまった。
香苗
「……」
一気に心に募る不安。
甘く溶けるような禁断の快楽の世界から、急に現実の世界に戻ってきたような感覚。
そしてその落差への絶望感。
ベッドの上についている香苗の手は震えていた。
祐二に知られてしまうのではないかと、怖かった。
程なくして中嶋が寝室に戻ってきた。手には香苗の携帯を持っている。
中嶋
「やっぱり旦那さんからみたいですね。」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら携帯の画面を見ている中嶋。
携帯の音はまだ鳴り続けていた。
そろそろ電話の向こうで香苗が出るのを待っている祐二が、どうしたのだろうと思い始めるくらいの長さだ。
……どうしよう……祐二が……どうしよう……どうしようどうしようどうしよう……
香苗の頭は混乱していた。
まだ祐二に今この状況を知られた訳ではないのだが、それでも香苗を呼び続ける着信音は心を焦らせる。
……今は、出られない……
香苗は今、寝室に他の男と裸で居るのだ。そんな状態で祐二と冷静に会話できる訳がない。
中嶋
「出張中は毎晩電話する事にしているんですか?」
香苗
「……はい……」
中嶋
「へぇ、いいですねぇ。ラブラブじゃないですかぁ。」
香苗
「……あの……中島さん、携帯を……」
香苗は中嶋に携帯を渡すように頼もうとした。
何か、中嶋が自分の携帯を手に持っている事自体が、何処と無く不安だったのだ。
しかし中嶋はそんな香苗の不安な気持ちに気付いていないのか、わざと無視しているのか、驚くべき行動に出る。
中嶋
「じゃあ、出てあげないと旦那さんが可哀相ですよ。」
……ピッ!
香苗
「……えっ!?」
いや、その瞬間は中嶋の行動に驚いている暇もなかった。
なんと、中嶋は携帯のボタンを押して祐二との電話を繋げてしまったのだ。
困惑している香苗に、中嶋は無言で携帯を手渡す。
祐二 『もしもし?香苗?もしも~し!……あれ?繋がってないのかな……』
携帯から聞えてくる祐二の声。
中嶋は香苗にそれに応えるように目で合図を送る。
それを見て、仕方なく震える手で携帯を耳へと近づける香苗。
香苗
「…………も、もしもし……」
祐二 『おぉ、やっと出た。どうしたんだよ、出るの遅かったな。何かしてたのか?今部屋?』
香苗
「う、うん……部屋だよ……ごめん、洗い物してて……」
香苗は顔を赤くしながら祐二との会話を始めた。
その様子を見て、そっと音を立てないようにして中嶋はベッドに上がる。
祐二 『そっか、もう飯食ったんだ?俺はこれからまた外食だよ。』
香苗
「そ、そうなんだ……」
祐二 『香苗はちゃんと食ってるのか?1人分だけ作るとか結構面倒だろ?』
香苗
「うん……今日はね……」
香苗の額からは汗がジワジワと滲み出ていた。
先程まで快楽に浸っていた頭を必死に回転させようとするが、パニック気味の頭ではなかなか言葉が出てこない。自分の口から何が出ているのかもよく分からないくらいだった。
祐二 『ん?……香苗?なんだか今日元気無い?』
香苗
「え?……そ、そんな事…………アアッ!」
祐二からの何気ない質問に答える途中、香苗は突然質の違う声を上げてしまった。
それは普段の香苗とは違う。そう、香苗が快感を感じている時のあの声。
ベッドの上で後ろからゆっくりと近づいて来た中嶋が、身体の前に手を回して香苗の乳首を指で摘んだのだ。
祐二 『香苗?どうした?』
香苗の後ろで悪戯っぽくクスクス笑っている中嶋。
香苗
「ご、ごめん!……あの……うん……ちょっと風邪気味かも……」
そう応え、顔をさらに赤くしながら、片手で中嶋の手を振り払おうとする香苗。
しかし香苗のか弱い力では中嶋の腕はビクともしない。
祐二 『え!?本当?大丈夫かよ?熱あるのか?』
香苗
「ちょ、ちょっとね……ァ……でも大した事ないから大丈夫だよ、心配しないで……ン……」
あっという間に固く勃起してしまった香苗の乳首。その感触を楽しむようにコリコリと刺激を続ける中嶋。
そして今度は乳首を責めると同時に、大きな手で乳房も大胆に揉み始める。
香苗から後ろにいる中嶋の表情は見えなかったが、明らかに中嶋がこの状況を楽しんでいるであろう事だけは分かった。
……や、やめて……お願い……お願いだから止めて!……
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