駅前で車の中から祐二を探す香苗。
どうやら電車はまだ着いていないようだ。
到着すれば、人が一気に出てくるはず。
香苗
「……。」
祐二がまだ来ていない事を確認すると、香苗は運転席にもたれて身体の力を抜いた。
1週間ぶりに夫に会うというだけで、こんなにも緊張してしまうなんて。
……祐二……どんな顔するんだろう……
あの日の電話、今思い返してみれば自分の話し方は明らかに不自然だった。
風邪をひいているという事にして誤魔化したが、もしかして祐二は何かを勘付いてしまっているかもしれない。
あの日の事について何か聞かれるかもしれない。
そうしたら、何て答えればいいんだろう。
正直に言ったら、許してくれるだろうか。
……そんな訳……ないよね……
運転席に座ったまま服の裾をギュッと握り締める香苗。
まだ、身体に余韻が残っている。
数十分前までアソコに入っていた、中嶋のペニスの感覚が。
そして中嶋の精液の味、それが喉を通る感覚が。
急いで終わらせた激しい性交。
30分程で3回絶頂に導かれ、あれ以上長ければ、また気を失ってしまっていたかもしれない。
……でも……気持ちよかった……
脳髄まで届くような強烈な快感。目を閉じればすぐに思い出してしまう。
射精した中嶋のペニスから残った精液を口で吸い取っていた時、時間が無いのは分かっていたのになかなか咥えた口をペニスから離す事ができなかった。
この味を、一秒でも長く味わっていたい……無意識の内に香苗の中にそんな感情が芽生えていたのだ。
後処理のはずが、夢中になって本格的なフェラチオ始めてしまっていた香苗。
それを中嶋に制止されてやっとペニスを口から出した。
でもその瞬間は口の中がなんとなく寂しくなって、そう思っていたら中嶋が舌を入れる濃厚なキスをしてきた。もちろん、その時は香苗も積極的に舌を絡めた。
一分間ほどディープキスを続けた後、中嶋に
「メールしますから。携帯は肌身離さず持っていてください。俺から連絡があったら必ず10分以内に返信するんですよ、いいですね?」
と言われた。
この1週間の内に、香苗はすっかり中嶋に対してノーと言えない女になってしまっていた。
香苗の携帯を手に取り、勝手に自分のアドレスを登録する中嶋。
……少し前まで嫌いだったはずなのに……
……嫌いだったはずなのに……私……
……コンコンッ!!
香苗
「……えっ?」
車の窓を叩かれたその音にハッとした香苗。
外をを見ると、祐二が笑顔でこちらを見ていた。
車のロックを開けると、祐二が助手席側のドアを開けた。
祐二
「よっ!ごめん、結構待った?電車少しだけ遅れてたみたいでさ。」
香苗
「う、ううん、さっき来たとこだよ。」
車に乗り込んできた祐二の方から、フワッと祐二の匂いが漂ってきた。
なんだか久しぶりに感じる匂い。
中嶋とは違う匂い。
祐二
「なんか考え事でもしてたのか?」
香苗
「……ぇ?何?」
祐二
「車の外から見た時、香苗凄い難しそうな顔してたからさ。」
香苗
「そ、そう……?別に……そんな事ないと思うけど。」
祐二にそんな事を聞かれた香苗は、動揺を隠すように慌てて車を走らせ始める。
祐二
「そういえば身体、本当にもう大丈夫なのか?ほら、風邪ひいてるって言ってただろ。」
香苗
「え?あ、うん大丈夫、ちょっと微熱が出ただけだから……寝たら治ったよ。次の日治ったって電話で言わなかったっけ?」
祐二
「そうだけどさぁ、俺に心配させないように無理してるんじゃないかと思ってさ。香苗、あの時辛そうな声してたから。」
香苗
「……ごめん……」
祐二
「謝る事ないよ。まぁ、治ったなら良かったよ。」
香苗
「……うん……」
祐二は、何も疑っているような様子はなかった。
ただただ香苗の身体の事を心配していて、もう治った事を再度伝えると、安心したような表情を浮かべていた。
しかしそんな祐二の純粋さが、香苗を苦しめる。
祐二
「そういえばさ、明日から2日間有休取ったんだけど、久しぶりに2人でどっか行くか?」
香苗
「え?有休?……なんか、急だね……。」
祐二
「あぁ、正直出張でちょっと疲れててさ、駄目もとで頼んだらOK出てさ。うちの会社、有休なんて言ってもあんまりいい顔されないんだけど。今回はたまたま運が良かったよ。」
香苗
「そっかぁ……良かったね、ちゃんとした休みなんてホント久しぶりだね……。」
祐二
「で、どこ行きたい?香苗が行きたい所連れて行ってやるよ。」
香苗
「……」
夜の車内、暗くて祐二からは見えなかったかもしれないが、香苗の目には薄っすらと涙が滲んでいた。
笑顔で楽しそうに話してくる、優しい祐二。
祐二に優しくされればされる程、香苗の心は罪悪感で押し潰されそうになる。
……ごめん……ごめん祐二……私……
香苗
「……祐二……私……」
祐二
「ん?どこかある?」
香苗
「ぇ……ううん、何でもない……」
祐二
「2日間あるからな、泊まりでも行けるぞ。」
香苗
「……うん、どこがいいかな……」
そんな会話をしながら、2人は自分達のマンションへと帰る。
夫婦2人の思い出が詰まった、安心できる温かい我が家に。
いや、この1週間中嶋と香苗が禁断の関係を結んでいた、あの部屋に。
コメント
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一体この小説がどの様な完結を迎えるのかが、今から楽しみです♪前作の終盤のストーリー自体は本当に良かったと思います(ただもう少し葛藤を描いて欲しかった)。この小説の結末はどの様な終わり方になるかわかりませんが、前作同様ストーリー性を重視した終わり方にして欲しいなぁと個人的には期待しています。
それと前作よりは短めにw。これは個人的な要望ですがw。
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コメントありがとうございます。
香苗の物語、楽しみにしてくださっているようでありがとうございます。
そうですね、僕としても香苗の物語は果歩よりは短くしたいと思ってます。
あの、それでキャンディさんのように香苗の物語の更新を楽しみにして頂いている方には、大変申し訳ないのですが、実は新しい記事でお知らせしたように、これから香苗の物語については更新ペースを落とす事にしました。
もちろん、完結に向けてこれからも連載は続けていくのですが、今までよりもゆっくりとした更新頻度になります。少しでも良い作品が書けるようにという想いで今回そう判断しました。
毎日楽しみにして下さっているのに、こんな事になってしまって本当に心苦しいのですが、長い目でこの作品を見守って頂けたらと思います。
そして香苗の更新ペースは落ちますが、新しく別の物語を連載していきたいと思っていますので、もしよかったらそちらも読んで頂けたら嬉しいです。