裕二
「たった1週間だったのに、凄く久しぶりに帰ってきた感じがするなぁ。」
香苗
「うん、1週間って結構長いよね。」
裕二
「やっぱり香苗もそう感じてた?」
香苗
「……うん。」
裕二
「それにしても、マンションとはいえ、やっぱ我が家が一番だよなぁ。早く部屋でのんびりしたいよ。」
車を降りて、マンションのエレベーター内に2人はいた。
出張帰りで疲れが溜まっているはずなのに、裕二は随分と楽しそうに香苗に話し掛けてくる。
香苗もそれに笑顔を作って受け答えをしていた。
なるべくいつも通りにしないと。そう自分自身の胸に言い聞かせながら。
裕二
「香苗は1週間何してたんだ?実際、結構暇だっただろ?」
香苗
「う……うん……ずっと、部屋に居たよ。」
裕二
「引きこもってたのか、どうせなら友達なんかとどこかに出掛けてこればよかったのに。恭子さんとか誘ってさ。」
香苗
「……恭子さんは、ダメよ。裕二と同じで出張って言ってたでしょ?」
裕二
「え?あ~、そういえばそうだったな。」
そんな会話をしていた頃に、エレベーターは香苗達の部屋の階に到着する。
そしてドアが開いて、部屋に向かって裕二と香苗が並ぶようにして歩き出した時だった。
隣の部屋、恭子の部屋の前に男女の人影が見える。
それに気付き、香苗は思わず目を丸くしてその場に立ち止まった。
裕二
「あれ?恭子さんじゃないか。」
裕二がそう声を発すると、向こうの男女もこちらに気付く。
恭子
「あっ!裕二さんと香苗さん、今帰ってきたんですか?」
裕二
「あぁ、恭子さんも今出張から?おい香苗、どうしたんだよそんな所に立ち止まって、恭子さんだぞ。」
香苗
「う……うん……。」
香苗は俯き加減でそう答えると、重そうな足取りで恭子達の方へ歩み寄る裕二の後をついて行った。
香苗が不安そうにしている理由はもちろん、恭子と顔を合わせる事、そしてその恭子の隣に笑みを浮かべながら立っている男、中嶋の存在があるためだ。
恭子
「お疲れさまです。」
裕二
「行きも帰りも一緒なんて奇遇だね。あ……こちらは?もしかして恭子さんの?」
裕二が中嶋の存在に気付き、そう尋ねる。
もちろん、恭子の部屋の前で2人でいたのだから、その男と恭子がどういう関係なのか、すぐに予想がつく。
裕二と中嶋が対面するのは、これが初めてだ。
中嶋
「初めまして、中嶋といいます。」
裕二
「あ、どうも、吉井です。あの……先日はうちの香苗がお世話になったみたいで、本当は私もあの食事会には参加する予定だったんですが、仕事が入っちゃって、申し訳なかったです。」
中嶋
「いえいえ、奥さんからお話聞いてますよ。働き者の良い旦那さんだって。」
香苗
「……。」
香苗は裕二の後ろで、目線を決して中嶋の方へ向けないようにと努めながら、2人の会話を聞いていた。
中嶋は動揺や焦りを隠せないでいるそんな香苗を他所に、まるで何も無かったかのように裕二と話をしている。
香苗には中嶋のその堂々とした態度が信じられなかった。
どうしてそんなに落ち着いていられるのか。
どうしてそんなに楽しそうに裕二と話せるのか。
1時間、いや、ほんの数十分前、中嶋と香苗はSEXをしていたというのに。
中嶋
「いやぁ本当に俺の方こそ、吉井さんの奥さんにはお世話になりっぱなしで。」
裕二
「え?お世話になりっぱなし?」
中嶋のその言葉に香苗は焦り、咄嗟に中嶋の顔を確認するようにして見てしまう。
そしてその焦りから胸の鼓動は早くなる。
この男は、いったい裕二に何を言うつもりなのだろうと。
中嶋
「えぇ、実は恭子が居ない間、俺ここの部屋に泊まってたんですよ。まぁそれは珍しい事ではないんですけど、いつも通りコンビニで弁当買ってたら、それを奥さんに見られてしまいましてね。コンビニばかりでは栄養も偏るでしょうって、わざわざ俺に晩御飯を作って持ってきてくれたんですよ。」
裕二
「え……そうだったのか?香苗?」
香苗
「う、うん……。」
そんな事は電話でも一言も香苗は言っていなかっただけに、裕二は少々驚いたような顔をしていた。
中嶋
「いやぁ、美味しかったなぁあのカレー。今まで食べたカレーの中で一番でしたよ。こんな料理上手の奥さんがいて羨ましいです。恭子は全然、料理はできませんから。」
恭子
「もう、一言多いわよ。でも、私も香苗さんが作った料理大好きです。ホント、どうやったらあんなに上手に作れるのかしら、やっぱりセンスかな。」
裕二
「まぁ妻は料理が唯一の趣味みたいなものですし、人に食べてもらうのが好きですから。そうだよな?」
香苗
「……うん。」
中嶋
「人に食べてもらうのが好きなんですか。へへ、そうですか。それならまた食べてみたいなぁ、奥さんの手料理。俺はそんなに食に拘る方ではないのですが、あの味は忘れられくて、本当に美味しかった。」
そう言って意味深にニヤニヤと笑う中嶋。
もちろん、裕二はその意味を全く分かっていない。
恭子
「ところで裕二さんは、明日はお休みですか?」
裕二
「そうだよ。明日から2連休さ。」
恭子
「え?偶然!私も明日から連休とってるんですよ。」
また話題が切り替わって話は続く。
正直、香苗は早く裕二と自分達の部屋に帰りたかった。
中嶋がいつ何を言い出すのか怖かったし、これ以上、この苦しい時間が続くのは耐えられない。
裕二
「折角だから温泉旅行にでも行こうかと思ってるんだけどね。」
中嶋
「へぇ、温泉旅行ですかぁ、それは良いですねぇ。」
裕二
「お2人は?恭子さんも連休なんて久しぶりでしょう?」
恭子
「私達は特に……部屋でのんびりしようかなぁって。ね?」
中嶋
「あぁ、そうだな。俺達結構インドア派なんですよ。部屋でダラダラするのが好きなんです。」
裕二
「そうなんですかぁ、まぁそれも良いですよね。」
香苗
「……。」
休日を部屋で過ごすという中嶋と恭子の会話を聞いて、香苗は思わず想像してしまう。2人がベッドで身体を重ねている光景を。
ついさっきまで自分と寝ていたこの男は、きっと何の抵抗感も無く、当たり前のように恭子と繋がるのだろう。
それからしばらく立ち話を続けた後、4人はそれぞれの部屋に戻った。
中嶋は別れ際に
「では良い休日を。」
と香苗の顔にじっと視線を送りながら言ってきた。
その時、一瞬だけ中嶋と目を合わせてしまった香苗は、顔を赤くしながら慌てて顔を背ける仕草を見せた。
そんな香苗の様子を見て、中嶋はまた笑みを浮かべるのであった。
コメント
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いろんな意見を書いて頂けるブログで 良かったですね★
メンメンさんの人柄ゆえ、皆さん思ったまま、コメントされて スゴいなって思います(^-^)
私、意外と 祐二と恭子の2人もあやしいと思ってます(笑)
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いよいよこちらも再スタートですね。
どんなふうに展開するんでしょうか(*^_^*)
ワクワクします。
わたしも恭子さんも怪しいと思ってます?
メンメンさん、頑張ってくださいね。
寒いので風邪やインフルエンザには気をつけてくださいね(*^^*)
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あーちさんこんにちは。
コメントありがとうございます。
沢山の方からコメントやアドバイスを頂いて、僕としては本当にありがたり限りです。
裕二と恭子ですかぁ……どうかなぁ、どうなるのかなぁ(笑)
更新頑張りますね☆
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ゆりさんこんにちは。コメントありがとございます。
千佳の話を終えて、香苗は再スタートですが、今凄く新鮮な気持ちでいます。
香苗の物語、ご期待になるべく応えられるように頑張りますね。
身体は丈夫な方なのですが、最近一段と冷えたからなのか、お正月に怠け過ぎたのか、実は少し前まで体調を崩してました。もう治りましたけど、ゆりさんもどうかお気をつけてください。インフルエンザは要注意ですね。
※前回のコメントにも返信しましたので、最新コメントからまたチェックして頂けたら嬉しいです。