裕二
「眠かったら寝てていいよ。着いたら起こすからさ。」
香苗
「ううん、大丈夫。」
温泉旅行からの帰り、香苗は車の助手席から窓の外を眺めながら、昨晩の事を思い出していた。
裕二とのセックスに、確かな不満を抱いた夜。
あの後、香苗は眠っている裕二の横で密かに自慰行為にしてしまった。
もちろん、すぐ隣に裕二がいるのでそこまで大胆に激しい事はできないから、絶頂に達するようなものではない。
自分の手を下着の中に入れて、裕二とのセックスでずっともどかしく感じていた部分を刺激していった。
膣の中にも指を入れる。1本、そして2本と。
クチュクチュと小さな音を立てながら指を動かす。
はぁ……と熱い吐息を漏れる。
でも、これだけじゃ足りない。
中嶋のモノはもっと太くて固くて、自分の細い指では決して届かないような奥深くまで入ってくる。
身体のあらゆる箇所に触れてくる愛撫も、絶妙な力加減で、裕二とのセックスのようにもっとこうして欲しいのにと思う事がない。
それどころか、中嶋のSEXは香苗の身体から生まれる性的欲求と期待を、いつも大きく上回る快感を与えてくれる。
だから一度始まってしまえば、夢中になって何度も抱かれたくなってしまう。
今しているSEXよりも次のSEXはもっと気持ち良い。そしてその次はさらにもっと……と。
あの快感が忘れられない。
理性が吹き飛ぶくらいに淫らに乱れてしまう中嶋とのSEX。
女として生まれてから、ずっと気付かなかったもう1人の自分の姿。
……あれが本当の私……
裕二といっしょにいる時や裕二に抱かれている時は、私達は夫婦で、私はこの人の妻なんだとごく普通に感じていた。
でも中嶋に抱かれている時は違う。
あの強烈な快感に貫かれて、乱れる姿を中嶋の目の前で披露している時、香苗は〝私は女なんだ〟という事を強く実感していた。
裕二といる時は、夫と妻。
でも中嶋と寝ている時は、〝男と女〟になれているような気がする。
中嶋に教えられた女の悦び。
きっと中嶋に出会わなかったら、一生知らないまま年を取っていってしまったに違いない。
……私、主婦である前に、ひとりの女なんだ……
昔2人でよく聞いていた音楽を車内に流しながら、充実しているような表情で運転する裕二。裕二の中ではきっと、この旅行は満足したものだったのだろう。
しかしその横顔を見て、香苗は思っていた。
この人は何も気付いていないんだ、と。
私が感じている不全感に。
昨日の裕二と身体を重ねた時の事を考えると、もはや裕二とのセックスに何の意味があるのだろうとさえ思ってしまう。
裕二と中嶋は同じ男でも、全く違う。
裕二の前では私は女になれない。
でも、私は裕二と結婚した。一生この人と生きていく事を誓ってしまったんだ。
あまりに自分勝手な事を考えているという事は、香苗自身も分かっている。
結婚している身、本来自分には選択肢など無いはずなのも分かってる。
しかし自分の女としての人生を考えると、その葛藤をどうしても拭い去ることができなかったのだ。
しかも香苗はもうすでに、真っ当な結婚生活から足を踏み外してしまっている。
香苗の葛藤は、その足を戻すかどうかという事なのだ。
片方の足はまだ裕二の方にある。
こんな中半端な人間は、香苗自身が一番嫌っていたはずのに。
何事にも真っ直ぐで、清々しい程ハッキリしている女性。それが裕二の妻、香苗の魅力であったはずなのに。
今は自分自身がこんな事になってしまっている事が信じられなかった。
考えれば考える程、香苗の悩みは深くなっていった。
コメント
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男ですが,この香苗の気持ちすごくわかります…。
男として,好意のある女性を抱いて,メスの部分を見れたというのは生きていてよかったという実感を持てる瞬間です。
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途中、香苗が千佳になってましたよ~
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ご指摘ありがとうございます。修正しました。