裕二
「明日から仕事かぁ。」
香苗
「運転お疲れ様。」
それから夜に自宅マンションに帰宅した裕二と香苗。
香苗は旅行の荷物を片付け、運転の疲れがある裕二はソファでしばらく寛いでいた。
香苗
「裕二もう眠いんじゃない?お風呂入れようか?」
裕二
「ん、あぁ頼むよ。温めがいいな、向こうで散々入ったから軽く身体温めるだけにしたいんだ。」
香苗
「うん、分かった。」
そう言って香苗は風呂場に向かった。
しかし、リビングから香苗が居なくなってすぐの事だった。
♪~~♪~~♪~~
部屋に鳴り響く電子音。
テーブルの上に置いてあった香苗のバッグ、その中に入っていた携帯が鳴り始めたのだ。
裕二
「ん?香苗の携帯か?」
寝ていたソファから起き上がり、何の気なしに香苗のバッグから携帯を取り出す裕二。
携帯の外側のディスプレイにはメール着信とだけ出ている。
裕二
「……。」
裕二はその画面を見つめながら少しの間考えた後、携帯をバッグの中に戻した。
……いくら夫婦でも勝手に見るのはダメだよな……
夫婦にも最低限守らなければいけないプライバシーというものはある。
きっと相手は香苗の大学時代の友達か、もしくは恭子さんだろうなと、裕二は思っていた。
香苗
「あと少ししたらお風呂入れるからね。」
裕二
「香苗、携帯鳴ってたぞ。メールっぽかったけど。」
香苗
「え?メール?」
裕二の言葉を聞いて一瞬ハッとしたような表情を見せた香苗は、少し慌てた様子で裕二の前にあった自分のバッグを手にとって、裕二から少し離れてから携帯を取り出した。
裕二に携帯が鳴っていたと言われて香苗が少し動揺していたのはもちろん、ある人物から連絡が来るような心当たりがあったからだ。
そして恐る恐るゆっくりと折りたたみ式の携帯を開くと、そこには案の定、あの中嶋からのメールが一件届いていた。
裕二
「誰から?」
香苗
「……ぇ?」
裕二
「友達?」
香苗
「う、うん…友達だった。大学の時の……。」
裕二
「ふーん。」
咄嗟に裕二に対して嘘をついてしまう香苗。
動揺する心を隠そうと必死に平静を装う。
裕二
「そっか。あ、風呂のお湯入ったみたいだな。じゃあ俺先に入るよ。」
香苗
「う、うん。」
一般的に見れば香苗は嘘を付くのが下手な方だと言えた。
どうしても感情が顔に出やすいタイプなのだ。
しかし信頼する妻を微塵も疑う事をしない裕二は、疲れもあるのか、香苗のその嘘に全く気付いていなかった。
裕二が浴室へ消えていくと、香苗は携帯を持ったままトイレの中に入り鍵を閉め、何回か深呼吸をした後、中嶋からのメールを確認した。
〝旅行から帰ってこられたみたいですね。俺は今恭子の部屋に居ます。だけど俺明日から暇なんです。良かったら明日また前みたいにそちらの部屋に遊びに行ってもいいですか?あ、返事は10分以内の約束、守ってくださいよ。少しでも遅れたらもう遊んであげませんからね。〟
という文章。
それを香苗は胸をドキドキしながら何度も読み返していた。
あまりの動揺に、一度読んだだけでは内容が頭に入ってこなかったのだ。
そしてやっとその内容を理解した香苗は、その場で悩み込んでしまう。
〝また前みたいにそちらの部屋に遊びに行ってもいいですか?〟
その言葉の意味は、香苗ももちろん分かっている。
先週中嶋とここで過ごした時間が、頭の中に蘇ってくる。
熱くて濃厚な、男と女の時間。
そして休みが終わって再び裕二が仕事で居なくなる明日、中嶋はまたこの部屋に来てもいいかと聞いてきているのだから、つまりそういう事だ。
先週に引き続き、俺に抱かれたいのかと、香苗は問われている。
頭の中を様々な葛藤がグルグルと巡る。
旅行からの帰り道も、ずっと同じ事で悩んでいた。しかし悩んで悩んで悩んでも、答えには辿りつかない。
理性と欲望との間を行ったり来たり。
旅行先で膨れ上がった、裕二とのセックスに対する不満。そしてそれと同時に中嶋とのSEXがいかに魅力的なものかを認識した夜。
正直、香苗は中嶋とのSEXを欲していた。旅行先でも、その帰り道でも、そして今も。
中途半端なセックスと中途半端な自慰行為のせいで、あの絶頂への憧れは大きくなるばかり。
一秒でも早く、この身体の中に溜まったものを解放してもらいたい。
悩みはしているものの、ある意味香苗の心は決まっていたのかもしれない。
ただ、簡単に中嶋に抱かれる事を選択してしまう自分が嫌だったのだ。
自分は悩んでいるんだ、葛藤しているんだ。そう思い込むことで、不貞な事をしてはいるけれど、まだ裕二の妻であるのだという自覚も保っていたかったのだ。
本当はこんなんじゃないの、私は……という罪に対する矛盾した気持ち。
なんと都合の良い考え方だろう。
しかし無意識のうちに心がそう思い、考えたがっていたのだ。
だらしない女だなんて、自分自身で認めたくない……でも。
香苗
「……。」
ガチャっという裕二が浴室から出てくる音が聞える。
色々と考えていたら、いつの間にか時間は過ぎていた。
〝返信は10分以内の約束、守ってくださいね〟
もう時間がない。
早く返信しないと。
震える手で携帯のボタンを押す香苗。
ディスプレイには短く〝はい〟という返事が書かれていた。
あとは送信ボタンを押すだけだが、それを香苗はなかなか押す事ができないでいた。
裕二
「あれ、ああトイレか……」
外から聞えてくる裕二の小さな独り言が、香苗の気持ちをギリギリまで迷わせる。
もう10分まで数十秒しかない。
下唇を噛む香苗。
香苗
「……ん……」
そして最後に息を止めて目をグッと閉じ、香苗は親指で送信ボタンを押した。
コメント
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今回の話、押しても押さなくても、今後の展開が楽しめそうで、ぞくぞく?わくわく?( 死語?)しながら読んでしまいました。
毎回、楽しませてもらってます。
ますます頑張っちゃってください
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素晴らしい寝取られ小説。。最後は是非香苗、恭子を中島が同時に征服セックスし、二人を競わせ服従の言葉を誓わせる展開に。自分の妻を体だけでなく、心まで支配する中島になす術なく敗北感を味わう裕二が見たい。
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最初は高級マンションを購入したって書いてたのに,自宅アパートになってしまっていますよ。。
細かい設定はともかく,今後の展開は期待しています!葛藤に悩みながらも本能の欲求に正直な香苗がいいです。
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ご指摘ありがとうございます。修正しました。
ちょっと更新が止まってますが、ご期待に応えられるように丁寧に書く事を意識していこうと思います。