祐二
「じゃあ、行ってくるよ。」
香苗
「うん、行ってらっしゃい。……あ、待って!ねぇ祐二、今日は何時に頃帰ってくるの?」
祐二
「そうだなぁ、早ければ8時か9時。あ~でも分からないなぁ、10時とか11時の可能性もあるなぁ。ごめんな、いつもバラバラで。」
香苗
「ううん、いいの。何となく聞いてみただけだから。」
今日から祐二は通常の仕事。
香苗は玄関で仕事に行く祐二を見送ると、部屋に戻りさっそく家事を始めた。
旅行から帰ってきて洗濯物も溜まっているし、晩御飯のための買い物にも行かなければならない。
香苗はそれらを午前中の間に終わらせようとしていた。
もちろんその理由は中嶋だ。
先週、中嶋は決まって正午を少し過ぎた頃に部屋にやってきていた。
それに合わせるようにして、香苗は事を済まそうとしているという訳だ。
早く家事を終わらせないと。
いや、終わらせないといけないというよりも、終わらせたいという気持ちだろうか。
今の香苗にとっては、好きだったはずの家事が何か面倒なもののように思えてしまっていたのだ。
掃除は適当に終わらせて、晩御飯の買い物も簡単に作れるものをと食材を選んでしまう。
いつもなら祐二のために栄養バランスを考えて、献立から食材選びまでじっくり考えてやっているのに、そんな意識は今日の香苗には全くないようだ。
香苗
「もう、作っちゃおうかな……。」
今日はシチューとサラダとパン。
シチューは作り置きできるし、パンは買ってきたもの、サラダは野菜を切るだけだから簡単だ。
買い物から帰ってきてからすぐに調理を始める。
そして1時間程で、香苗は晩御飯の準備は終わらせた。その時点で時間はまだ正午前。
香苗
「……。」
時計を見ながらエプロンを取った香苗は、少し考えるような素振りをした後、浴室へと向かった。
こんな昼間にシャワーを浴びるなんて、普段の生活ではあまりない事だ。
室内とはいえ、昼の明るさの中で裸になる新鮮さ。
それだけでも自分は今、非日常的な時間を過ごしているのだと自覚できる。
そして香苗は香りの良いボディソープで身体を入念に洗い始めた。
腕、肩、背中、脚、そして陰部と。
中嶋はまた身体中を舌で舐めてくるのだろうか。
そんな事を考えながら洗う。
中嶋との、3日ぶりのSEX。
たった3日、たった72時間。
しかし香苗にはそれが、途轍もなく長いように思えていた。
1週間ぶり。いや、1ヵ月ぶりではないかと思うくらい、その3日間が長く思えてしまう。
それだけ香苗は中嶋の事を欲していたという事なのかもしれない。
今日はどんな風に抱かれるのだろう。
ネットリとした中嶋のSEX。
あの逞しい身体。
的確に女のツボを突いてくる、あのテクニック。
考えただけで……
香苗
「ン……ハァ……」
数時間後には始まっているだろう中嶋とのSEXを想像して、香苗は無意識の内に浴室でオナニーを始めてしまっていた。
陰部を洗っていたはずの手が、クリトリスを刺激し続けている。
トロトロと溢れる愛液が、止まらない。
それを20分程続けたところで、香苗はハッと我に返る。
香苗
「ハァ……ハァ……いけない……。」
身体に付いたソープの泡を洗い流し、浴室を出た香苗は、身体にバスタオルを巻いて部屋へ戻った。
そして悩みながら下着と服を選び、顔に薄く化粧をする。
外に出かける訳ではないのだから、あまりオシャレにしても不自然だ。それでも香苗は、まるで恋人と初めてのデートに行く時のようにそれらに時間を掛けてしまう。
しかし鏡に映る自分の顔を見つめながら、香苗はふと気付く。
……私……凄い積極的になってる……
これから夫以外の男に抱かれる。この顔は、その事を喜んでいるんだ。
夫である祐二のための家事よりも、中嶋に抱かれる準備の方に意識を集中させ、時間を費やしている自分自身に幻滅する香苗。
胸が何かに締め付けられているみたいに苦しい。
しかし、それを感じながらも香苗は準備の手を止めなかった。
香苗
「ハァ……」
罪悪感と興奮が入り混じり、胸の鼓動が早くなる。
香苗は服も化粧も準備を終えたところで、もう一度鏡で全身を見直す。
そしてまたしばらく考え悩んでいるような顔をした後、やっぱりあの下着に替えようと、もう一度服を脱ぐ。
下着が並んでるその奥から、買っていたものの一度も身に着けた事のない下着を取り出す香苗。
Tバックで、中が透けるようなデザインの、大胆な下着。
まえに一度、興味本位でネットで買った下着。
しかし結局着るのは恥ずかしくて、この下着自体、祐二にも見せた事はなかった。
香苗
「イヤ……やっぱりこれ……イヤらしい……」
その下着だけを身に纏った状態で鏡を見ると、そこには乳首もヘアも透けてしまっている破廉恥な格好をした自分が立っていた。
香苗は恥ずかしそうに顔を赤くして、しばらく自分の身体を見つめていた。
そしてその下着を着けたまま、上に服を着始める。
自分でも信じられない程、積極的に大胆になっていく。
まるで、鏡に映る自分は違う人間のようだ。
いや、そうだ。違う人間なんだ。
祐二の妻じゃない。別の女になる必要が、香苗にはあったのだ。
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