貞操帯という言葉を聞いても、それが何のための物なのか、香苗はすぐには理解する事ができなかった。
装着された貞操帯の感触を手で確かめる。
中嶋の言うとおり、痛みは無いし違和感も殆ど感じない。布ではないが、柔軟性のある素材。穿き心地は少し厚い下着を穿いているような感覚だった。
中嶋
「奥さん、貞操帯ってどういう物か知ってます?」
その質問に香苗は小さく首を横に振る。
妙に楽しそうにしている中嶋だが、香苗は正直こんな事よりもさっきの続きをしてほしくて堪らなかった。
身体は火照ったままだし、特に下腹部の疼きは香苗の理性を吸い取ってどんどん大きくなってきている。
本当は〝早くして!〟と叫びたい。しかしそれを我慢して言えないのが香苗である。
中嶋
「へへ……そうですか、じゃあ奥さん、自分で自分のアソコを触って確認してみてくださいよ。」
香苗
「ぇ?」
中嶋
「アソコですよ、奥さんが大好きなオナニーをする時に刺激する所です。」
香苗
「……」
オナニーが大好き……そう言われても香苗は否定する事ができない。なにせ香苗はここ最近でかなりの回数の自慰行為をしてきたのだから。
オナニーが好きだという事を香苗は顔を赤くしながら無言で認める。
恥ずかしい、恥ずかしいけど、なぜかそれが気持ちイイ。
恥ずかしくて身体がカァっと熱くなる。その感覚が気持ちイイ。
そんな羞恥的な興奮を覚えながら、香苗は中嶋に言われたとおり、手をゆっくりと自分の股間へと移動させる。
香苗はその時思っていた。今自分でここを刺激し始めたら、きっとその手を止められない。
きっと恥ずかしいって思いながら、中嶋の前でオナニーを始めてしまうに違いない。
それくらいに身体は快感を欲してる。
クリトリスは残り僅かの理性を全て弾き飛ばすボタンだ。
それに触れれば、香苗は間違いなくあの言葉を発するだろう。
〝抱いてください〟〝入れてください〟と。
中嶋に抱かれるためならきっとどんな卑猥な言葉だって口に出せる。
淫乱な女になっちゃう。いや、淫乱な女になりたがっている自分がいる。
香苗
「ハァァ……」
自分の股間に刺激を与えようとしている香苗の吐息は、色気がたっぷり入ったものだった。
中嶋もその様子から香苗の心身が今どういう状態なのかを充分に理解していた。
主婦から女に、そして今は女から〝メス〟になろうとしている。
それを理解しているからこそ、中嶋は楽しくて仕方なかったのだ。
そして身体の芯から燃え上がる興奮とある種の期待を抱きながら、自分の陰部に触れた香苗。
しかし、それは寸前のところで阻まれる。そう、中嶋に取り付けられた貞操帯によって。
香苗
「ハァ……ハァ……ぇ……?」
濡れたアソコ。勃起したクリトリス。そこを刺激すればあの電流のように痺れる快感が得られるはずだった。
だが、香苗の指に伝わってきたのは無機質なツルツルとした感触だけだった。
少し強めに力を入れてみても、全く陰部に刺激を与える事はできない。
そこに立ちはだかる薄い素材が、香苗がしたい事を完全に無効化するようにして陰部をガードしていたのだ。
香苗
「中嶋さん……あの……」
中嶋
「理解できましたか?これが貞操帯です。これを着けている間、奥さんはSEXはおろか、オナニーもできないんです。」
香苗
「……ぇ……」
言葉を失う香苗。
一瞬中嶋が何を言っているのか分からなかった。しかしその言葉の意味を少しずつ理解し始めると、口を半開きにしてメスの表情を見せていた香苗の顔色が見る見る内に変わっていった。
次に中嶋が何を言い出すのか、自分がこれからどうなるのか、悪い予感が香苗の頭を不安にさせていく。
中嶋
「さっきも言いましたがこれは特注品の優れ物なんですよ。排泄行為は衛生的に行えるようなってますし、着けていても日常生活はある程度は普通に過ごせるんですよ。もちろんお風呂も入れます。まぁ生理がきちゃうと少し面倒ですけどね、そういう時は俺にメールしてください。対処の仕方を教えます。」
香苗
「メールって……どういう事ですか……あの……こんなの私……」
パニック気味の香苗。そんな香苗の問いに、中嶋は冷静な口調で答える。
中嶋
「遊びですよ、俺の。遊びに付き合ってくれるって、奥さん言ってくれたじゃないですか。」
香苗
「遊びって……そんな……」
中嶋
「言っておきますが、これは俺じゃないと絶対に外せないようにできてますからね、壊して外そうとしても無駄ですから。」
それから中嶋は
「それでは」
と言って鞄を持って立ち上がった。
そしてそのまま当たり前のように、裸に貞操帯だけを身に着けた香苗をおいて寝室を出ようとする。
香苗
「ちょ、ちょっと待ってください中嶋さん!」
中嶋の行動に焦った様子で思わずそう声を上げた香苗。
中嶋
「どうしたんですか?奥さん。」
香苗
「こ、こんなの困ります……こんな変なの……」
中嶋
「別にいいじゃないですか、SEXができないくらい。軽い遊びですよこれは。人間の楽しみは他にも沢山あるでしょ?家事にも集中できますし。まさか〝私は年がら年中SEXしか楽しみがないんです〟なんて、猿みたいな女なんですか?奥さんは。」
香苗
「そ、そんな事は……」
〝猿みたいな女〟
女性にとってはあまりにも屈辱的なその呼ばれ方を、香苗は受け入れる事ができない。
中嶋
「じゃあいいじゃないですか。近い内に外してあげますから、少しの間だけです。」
香苗
「……」
少しの間だけ。
……そうじゃない……私は今すぐにだって……我慢してきたのに……
もう喉まで出掛かっている言葉が出てこない。
あの刺激、あのボタンを触って理性を飛ばせば言える言葉。
でも触れない。言えない。
まだ理性が残ってる。
中嶋
「ほら、早く服を着ないと旦那さんが帰ってきちゃいますよ。」
そう言って中嶋は部屋を出て行き、玄関へと向かってしまった。
香苗はそんな中嶋を引き止める事ができずに、その場に立ち竦んでいた。
待って……待って!と心の中で叫ぶだけで声が出ない。
そして少しすると、ガチャンという玄関のドアが閉まる音が廊下に響いた。
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