香苗
「……中嶋……さん……」
理性を失いかける程に大きくなってしまった性的な欲求と、中嶋に突き放されるようにして去られてしまった事への喪失感。
やり場のない気持ちと、苛立ちにも似た感情を持つと同時に、香苗は頭の中は混乱していた。
……ああ……どうして……意地悪だわ……
唇と口内に残った、中嶋とのキスの余韻。
香苗
「ハァァ……」
間違いなく、先ほど中嶋としていたキスは今まで生きてきた中で一番気持ちよかった。
身体が蕩けそうなほどに、濃いキス。
中嶋の温かい唾液。きっとどれだけの量を流し込まれても、全部飲めてしまったに違いない。
思わず自分の指を口にもっていき、咥える香苗。
1本、そして2本。
自分の舌に絡まってくる中嶋の長くネットリとした舌を想像する。
しかし、自分の指では到底それを再現する事はできなかった。
香苗
「ハァ……ハァ……」
咥えていた指を口から離すと、香苗はペタンと床に腰を下ろした。
そして陰部を覆った貞操帯を見つめる。
もう一度指で陰部を刺激しようとしてみるも、やはり香苗の願いは叶わない。
それを再認識して、香苗は落胆の色に染まったため息を吐き出す。
香苗
「……はぁァ……」
そして身体を丸めるようにして、両腕で自分自身を抱き締める。
静まり返った部屋の中で、なるべく何も考えないようにと努め、香苗は身体の中に溜まった熱がゆっくりと冷めていくのを待つ。
性欲を発散する方法が見当たらない状況である今の香苗には、これしか選択肢がないのだ。
10分程そうしていただろうか。疼きと熱はまだ大分残ってはいるものの、少し治まり始めていた。
理性を失いかけていた時とは違って、思考する力が少しだけ戻ってくる。
〝ほら、早く服を着ないと旦那さんが帰ってきちゃいますよ〟
中嶋の言葉が蘇る。
そうだ、早く服を着ないと祐二が帰ってきちゃう。
そう思って立ち上がった香苗は、急いで部屋着の服を着る。
貞操帯が薄い仕様であったから、服は難なく普通に着ることができた。
鏡の前で服装と自分の顔を確認する。
一見はいつも通りの自分がそこに立っているように思える。しかし下半身には明らかに貞操帯を着けられているという感覚がある。
中嶋といる時間、そして祐二の妻である時間は今まで別世界のものだった。
しかしこの貞操帯は、それが実は同じ世界で起きている事なのだと香苗に教えてくる。
中嶋に性行動を無理やり抑えられている。コントロールされているのだと、香苗は常に自覚しながら生活しなければならなくなってしまったのだ。
まだ、中嶋とのプレイは続いているんだ。
そんな事を考え始めるとまた、
香苗
「ァァ……ハァ……」
少しでも中嶋の顔を想い浮かべるだけで身体が熱くなってくる。性衝動が暴走しそうになる。
折角着た服を、再び全部脱ぎたくなってしまう。
裸になって自慰行為に没頭したい。めちゃくちゃになりたい。だらしない程に淫らな女になりたい。
でも、それができない事は分かっているから、服に掛けた手はギリギリのところで止まる。
そしてまた熱が静まるまで香苗はじっと耐えるのだ。
結局、祐二が帰ってきたのは中嶋が部屋を出て行ってから1時間後の事だった。
いつも通り香苗は
「おかえり」
と言って、祐二は
「ただいま」
と言う。
祐二
「あ~腹減った、今日何?」
香苗
「……え?何って?」
祐二
「ご飯だよ、今晩の。」
香苗
「あ、そっかごめん……えっと、何作ったっけ……あ、そうだ、シチューだよ。」
祐二
「おお良かったぁ、ちょうど温かいスープ系食べたかったんだよ。」
祐二は晩御飯のメニューを聞いただけで凄く嬉しそうな笑顔を香苗に見せていた。
きっと〝ささやかな幸せ〟というやつを感じているのだろう。
待ってくれている妻がいて、温かい食事を用意してくれている。そういう幸せ。
祐二
「大盛りな、大盛り。すげぇ腹減ってるからさ。」
香苗
「うん……わかった。」
そう小さく返事をして、香苗は祐二に背中を向けてキッチンへと入っていく。
いつも通りに振舞おうとしても、やはりどこか元気のない香苗。
でもその原因は前のように祐二に対する罪悪感があるからではない。
今はもう違うんだ。
中嶋との時間と、祐二との時間が繋がってしまっている今、香苗にとって祐二との
時間は物凄く退屈なものになってしまっていたのだ。
いつも通りに過ごせる祐二との時間は、幸せを感じる時間だったはずなのに……。
今はどうしようもなく、つまらない。
コメント
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初めまして。ポケットさんから来ました~。
ココロとカラダ…、じゅわぁ~っと、解放させて頂きました~♪香苗に大共感ですっ。。一瞬、自分かと思いましたもん(笑)
続きを楽しみに待ってます♪
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コメントありがとうございます。
心から感じられる官能小説を目指しているので、そう言ってもらえると嬉しいです。
やっぱり官能小説の場合、共感とか感情移入できるかが一番大切だと思いますので、これからもそこを意識して書いていきたいと思います。
最近ちょっと更新速度が落ちてますが、できる限り頑張りたいと思います。