人妻 吉井香苗(87)

その日は昼食も摂らずに、香苗は自分の胸を揉みながらの妄想オナニーに没頭していた。

香苗にはやらなければならない事もある。

しかし何度か服を着て正気を取り戻そうとしても、数分も耐えられずに我慢できなくなって、再び寝室へ行き、また裸になる。

香苗はそれを1日中何度も繰り返していたのだ。

家事なんてやっていられなかった。

乳房を刺激するオナニーがマンネリになってくると、今度はリビングの方へ行き、壁に耳を当てる。

隣の部屋、恭子の部屋に中嶋が来ているのかを確認するためだ。

しかし、それだけでは音や気配を感じる事はできなかった。

すると次に香苗は貞操帯を付けただけの裸姿で、ベランダに出た。

もちろん外からは見られないように、しゃがみながら。

そう、前に隣の音や声を盗み聞きしていた時のように。

今はなんでも良いから中嶋を感じたい。

声でも、足音でも良い。

だがそれでも、何も聞えない。

今は隣の部屋には居ないのかもしれない。

落胆した気持ちで部屋の中に戻った香苗は、自分の携帯を持ってベッドの中に潜る。

香苗の携帯には中嶋からの着信履歴とメールが残っている。

つまり香苗の方からも連絡を取る事は可能なのだ。

香苗 
「ハァァ……」

貞操帯を取り付けられたのは昨日の事であるが、もう限界だった。

貞操帯の中、下腹部と陰部に、尋常じゃない程の疼きが広がっていた。

携帯の画面を見つめている今も、香苗の腰は無意識の内にクネクネと、まるでメスがオスを誘う時のように動いてしまっている。

そして、香苗の目には涙が溜まっていた。

嬉し涙でも悲しい涙でもない。自分でもよく分からないが、なぜか泣けてしまう。

香苗の中で、精神的な何かが崩壊し始めているのだ。

溜まった涙をポロポロと頬に伝わせながら、香苗はメールの文章を打ち始めた。

『もう許してください』

文章を作ってから送信ボタンを押すまでに10分以上掛かった。

このメールを見て、中嶋はどんな顔をしているのだろう。

あのサディスティックな目でメールを見て、イヤらしい笑みを浮かべているのだろうか。

そんな想像をすると、また下腹部が疼きだす。

香苗 
「ああ……中嶋さん……」

携帯をグッと握りながら、それをドキドキと高鳴る胸に当てる。

返信がくるのが待ち遠しくもあり、少し怖いような緊張にも似た気持ちも生まれてくる。

どんな返信が来るんだろう。何を言ってくるんだろう。

それは確かに〝期待〟という言葉で表現して良い気持ちだった。

しかし、30分、1時間と返信がないまま時が過ぎていくと、その期待は大きな不安に変わっていく。

……どうして……どうしてよ……メールしたのに……

そしてまた涙が溢れてくる。

香苗 
「ハァ……ハァ……ぅ……ぅ……」

結婚をしている大人の女が、子供のように泣いている。

香苗はしばらくそうやって泣き続けた後、それでも着信音の鳴らない携帯を再び開き、今度は中嶋に電話を掛けようとする。

眉をハの字にして、下唇を噛みながら、目を真っ赤にしているその表情は、切羽詰った心境を表していた。

プルルルル……プルルルル……

電子音が、耳の中で転がる。

携帯を持つ香苗の手は震えていた。

電子音が止んで、中嶋の声が聞こえる瞬間を想像する。それだけで過呼吸のようになってしまって苦しい。

しかし、その瞬間はとうとう訪れなかった。

それから、香苗は何度も何度も中嶋に電話を掛けた。

最初のメールは送るまでしばらく躊躇していたはずなのに、今はもう無我夢中で電話を掛けている香苗。

自分が人の妻である事とか、中嶋が友人の恋人である事とか、そんな事は頭にない。

病的なまでに、電話を掛けまくる。

これではまるで、中嶋のストーカーになってしまったみたいだ。

しかし今の香苗は、そんな自分を客観的に見れる程冷静ではない。

香苗 
「お願い……出て……お願い……お願いだから……ぅぅ……」

全てを捨ててこんなに求めているのに、逆に中嶋からは突き放されているような気分だった。

残酷な時間は刻々と過ぎ、香苗はその中で涙が枯れるまで泣き、そして結局中嶋の声を聞く事はなく、日は暮れた。

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