その日は昼食も摂らずに、香苗は自分の胸を揉みながらの妄想オナニーに没頭していた。
香苗にはやらなければならない事もある。
しかし何度か服を着て正気を取り戻そうとしても、数分も耐えられずに我慢できなくなって、再び寝室へ行き、また裸になる。
香苗はそれを1日中何度も繰り返していたのだ。
家事なんてやっていられなかった。
乳房を刺激するオナニーがマンネリになってくると、今度はリビングの方へ行き、壁に耳を当てる。
隣の部屋、恭子の部屋に中嶋が来ているのかを確認するためだ。
しかし、それだけでは音や気配を感じる事はできなかった。
すると次に香苗は貞操帯を付けただけの裸姿で、ベランダに出た。
もちろん外からは見られないように、しゃがみながら。
そう、前に隣の音や声を盗み聞きしていた時のように。
今はなんでも良いから中嶋を感じたい。
声でも、足音でも良い。
だがそれでも、何も聞えない。
今は隣の部屋には居ないのかもしれない。
落胆した気持ちで部屋の中に戻った香苗は、自分の携帯を持ってベッドの中に潜る。
香苗の携帯には中嶋からの着信履歴とメールが残っている。
つまり香苗の方からも連絡を取る事は可能なのだ。
香苗
「ハァァ……」
貞操帯を取り付けられたのは昨日の事であるが、もう限界だった。
貞操帯の中、下腹部と陰部に、尋常じゃない程の疼きが広がっていた。
携帯の画面を見つめている今も、香苗の腰は無意識の内にクネクネと、まるでメスがオスを誘う時のように動いてしまっている。
そして、香苗の目には涙が溜まっていた。
嬉し涙でも悲しい涙でもない。自分でもよく分からないが、なぜか泣けてしまう。
香苗の中で、精神的な何かが崩壊し始めているのだ。
溜まった涙をポロポロと頬に伝わせながら、香苗はメールの文章を打ち始めた。
『もう許してください』
文章を作ってから送信ボタンを押すまでに10分以上掛かった。
このメールを見て、中嶋はどんな顔をしているのだろう。
あのサディスティックな目でメールを見て、イヤらしい笑みを浮かべているのだろうか。
そんな想像をすると、また下腹部が疼きだす。
香苗
「ああ……中嶋さん……」
携帯をグッと握りながら、それをドキドキと高鳴る胸に当てる。
返信がくるのが待ち遠しくもあり、少し怖いような緊張にも似た気持ちも生まれてくる。
どんな返信が来るんだろう。何を言ってくるんだろう。
それは確かに〝期待〟という言葉で表現して良い気持ちだった。
しかし、30分、1時間と返信がないまま時が過ぎていくと、その期待は大きな不安に変わっていく。
……どうして……どうしてよ……メールしたのに……
そしてまた涙が溢れてくる。
香苗
「ハァ……ハァ……ぅ……ぅ……」
結婚をしている大人の女が、子供のように泣いている。
香苗はしばらくそうやって泣き続けた後、それでも着信音の鳴らない携帯を再び開き、今度は中嶋に電話を掛けようとする。
眉をハの字にして、下唇を噛みながら、目を真っ赤にしているその表情は、切羽詰った心境を表していた。
プルルルル……プルルルル……
電子音が、耳の中で転がる。
携帯を持つ香苗の手は震えていた。
電子音が止んで、中嶋の声が聞こえる瞬間を想像する。それだけで過呼吸のようになってしまって苦しい。
しかし、その瞬間はとうとう訪れなかった。
それから、香苗は何度も何度も中嶋に電話を掛けた。
最初のメールは送るまでしばらく躊躇していたはずなのに、今はもう無我夢中で電話を掛けている香苗。
自分が人の妻である事とか、中嶋が友人の恋人である事とか、そんな事は頭にない。
病的なまでに、電話を掛けまくる。
これではまるで、中嶋のストーカーになってしまったみたいだ。
しかし今の香苗は、そんな自分を客観的に見れる程冷静ではない。
香苗
「お願い……出て……お願い……お願いだから……ぅぅ……」
全てを捨ててこんなに求めているのに、逆に中嶋からは突き放されているような気分だった。
残酷な時間は刻々と過ぎ、香苗はその中で涙が枯れるまで泣き、そして結局中嶋の声を聞く事はなく、日は暮れた。
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