人妻 響子 (2)

女2人で一泊二日の温泉旅行。

美味しい物を食べて、温泉で疲れを癒そうよと、沙弥が誘ってくれた。正直凄く行きたい。

家族旅行には年に1度くらい行っていたが、自分が楽しむというより子供達を楽しませるための旅行だったから、殆どゆっくりできなかった。

しかも今年の家族旅行は夫の洋平が急な仕事で参加できなくなり、その代りに義理の両親がついてきたので、いつもより余計に気を使って疲れる旅行だった。

だから一年に一度くらいは家庭から離れてゆっくりしたい。

響子がお願いすると、洋平は意外にも二つ返事でOKしてくれた。(でも行き先とかは全く聞いてこなかったのでたぶん興味がないだけだと思う)

子供達は実家の両親が預かってくれる事になり、急な話だったにも関わらず、すんなり旅行には行ける事になった。


「やった!じゃあ決まりねっ!」


「うん、ありがとね沙弥、誘ってくれて。」


「ウフフ、響子が色々と溜め込んでるガスを抜いてあげようと思ってね。予約も私に全部任せてくれていいから、楽しみにしててね。」


「わぁありがとう!こんなにワクワクするの久しぶり!」

そして当日、2人は早朝に駅前で待ち合わせをした。


「響子ぉ!おはよー!」


「沙弥おはよー!」

2人ともウキウキ気分で笑顔で挨拶。

しかし沙弥が時間通りに来たのは良かったが、響子はすぐにある事に気付いた。沙弥が車ではなく徒歩で駅まで来たのだ。

事前の話では沙弥が車を用意してくれるという事になっていたはずだけど……。


「……あれ?沙弥、車は?」


「車?大丈夫だよ、ちゃんと用意してあるから。」


「用意って、レンタカーでも借りるの?」


「ウフフ、違うよ、もうすぐ迎えに来てくれるから心配しなくても大丈夫だよ。」

迎え?

てっきり沙弥が自分の車を乗ってくるものだと思っていた響子は、いまいち沙弥の言っている意味が分からなかった。

そして程なくしてその迎えの車とやらが到着した。


「あっ!来た来た!おーいこっちだよぉ!」

そう言って大きな四駆の車に向かって手を振る沙弥。

そして車が2人の前で止まると、中から2人の男性が降りてきた。


「お待たせー!」

と、2人の男性は沙弥と響子に笑顔を向けた。

――え?誰?――

見覚えのない男性2人の登場に、状況が読み込めない響子はただただキョトンとしていた。


「響子、紹介するね。こっちが私の彼、堂島武君で、そっちが武の友達の長岡良治君よ。」

訳も分からないまま、とりあえず
「は、初めまして…」

と頭を下げる響子。


「沙弥、この人がいつも話してる響子さん?」


「そうよ、美人でしょ?」


「いやぁ、正直想像以上だわ、なぁ長岡。」


「あぁ、驚いたよ、さすが沙弥ちゃんだね、お友達もこんなに美人さんとは。」

嬉しそうな表情で、品定めするように響子の方を見てくる男2人。

初対面でいきなり美人だのなんだの言われながらジロジロ見られて、響子は益々訳が分からなくなる。


「ちょ、ちょっと沙弥!」


「ん?何?」


「何じゃないでしょう?女だけの2人旅って話じゃなかったの?」


「ウフフ、響子にはしっかりガス抜きしてもらいたいって言ったでしょ?私なりに響子のためを想って準備したのよ。」


「だからってどうして男の人が来るって事前に教えてくれなかったのよ?」


「だってそうでもしないと響子は絶対来ないじゃない。ウフフ、ごめんね騙すようなことして。
でも大丈夫よ、長い付き合いだもの、響子の好みの男のタイプくらい私は熟知してるから。ほら、長岡君、良い感じでしょ?」

沙弥にそう言われてチラっと長岡という男の方を見る響子。

確かに背が高くて顔もカッコイイ。

響子が昔密かにファンだった芸能人だとか、学生時代に憧れていた先輩は、皆同じようなタイプの容姿をしていた。

一目見た限りでは長岡も同じ系統のイケメンだった。


「ね?響子のタイプにピッタリでしょ?」


「……そ、そうじゃなくて!沙弥、私こんなの困るよぉ。」


「ウフフ別にいいじゃない、今回だけよ、ね?今さら武と長岡君に帰れなんて言えないでしょ?車も2人に用意してもらちゃったし、宿ももう4人で予約取ってあるのよ。」


「……もぉ、沙弥ったら……」

沙弥の罠にハマってしまった。冷静に考えてみれば、沙弥ならあり得る事だ。

大学時代も同じように響子は沙弥に騙されて興味のない合コンに連れていかれた事が何度もあった。

長い付き合いなのに今回も何も気付かずに、沙弥を信じきってノコノコ来てしまった。

響子は嘘を付いた沙弥よりも、自分の鈍感さを悔やんでいた。


「じゃあお二人さん、そろそろ出発するから車に乗りなよ。」


「は~い!ほら響子、行くよ!」


「……。」

響子が納得できないような顔でムスッとしていると、長岡が響子に近づいてきた。


「響子さん、この荷物、車に乗せちゃいますね。」


「ぇ?あ、はい、ありがとうございます。」

まさかここまで来て自分だけ〝帰ります〟だなんて言えない。とてもそんな空気じゃない。

沙弥に言いたい文句は山ほどあれど、響子はついに観念して車に乗り込んだ。

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