人妻 響子 (4)

予約していた旅館に到着すると、まだ夜の食事までは時間があったので4人は温泉街を散策する事にした。

沙弥と堂島が先を歩き、少し距離空けてその後ろに響子と長岡が並ぶように歩く。


「良い所ですね。街並みは綺麗だし、自然も沢山あって。」


「癒されますよね。」


「……響子さん、俺なんかが一緒に旅行に付いてきて迷惑じゃなかったですか?」


「え?」


「あ、いや、武(堂島)は沙弥ちゃんの彼氏だからまだ分かるけど、俺は全然関係ないから、驚いたでしょ?」


「長岡さんは沙弥に何て言われて誘われたんですか?」


「それが実は……美人の人妻さんがいるから一緒に来ませんか?って。でも会ってみたら響子さんは真面目な方みたいだから、なんか迷惑だったら申し訳なかったなと思って。」


「迷惑だなんて、そんな事ないです。その……楽しいです、凄く。それに私、そんなに真面目じゃないですよ?」


「俺に比べたら凄く真面目ですよ。俺なんか、美人な人妻と遊べるならって馬鹿みたいに下衆な事を期待して付いて来た男ですから。」


「ウフフ、そうだったんですか。」


「何せこの歳で独身ですからね。それなのにまだ遊び足りないと思ってる。ろくな人間じゃないですよ。」


「長岡さんって遊び人なんですか?」

響子はクスっと笑いながら長岡に聞き返した。


「そうですよ、結婚して子供さんもいる響子さんとも、あわよくばって思ってるような危ない男なんです。」


「あら、ウフフ。危険な男かぁ……長岡さんって面白いですね。」


「そう思わせるのが遊び人なんですよ、響子さんも気を付けないとダメですよ。」


「ウフフ、はい、じゃあ気を付けます。」

自虐的に〝俺は遊び人です〟と言ってくる長岡は、なんだか可笑しかった。

しかもわざわざ響子の事を狙っていると本人に伝えてくるなんて、そんな事を言われたら警戒心が逆に薄れる。

でもどうしてこんなに気持ちが浮かれるんだろうと、響子は自分で自分が不思議だった。

きっと単純に男の人に好意を抱かれてるのが嬉しかったのだと思う。

それは〝愛〟なんて重苦しいものではない。

まだ出会ってから数時間しか経ってない〝あ、いいなこの人〟程度の軽い好意だから、逆に気楽で心地良いのかもしれない。

4人は旅館の女将さんが教えてくれた温泉街の中にある甘味処で美味しい白玉や抹茶を貰いながらまったりと時間を過ごし、日が落ち始める頃に旅館に戻った。

そして食事前に男女に分かれて、この旅館自慢の天然温泉に入る事にした。


「響子は相変わらずスタイル良いね、昔と変わらないじゃない、羨ましいなぁ。」


「そんな事ないわよ。沙弥だって綺麗な肌してる。」


「一応お金は掛けてるけどねぇ、エステ行ったりジム行ったりヨガやったり。」

脱衣所でそんな会話を楽しそうにする響子と沙弥。

女風呂はこの2人以外に人は居らず、貸し切り状態だった。

肝心の天然温泉は成分が響子と沙弥の肌に合っているようで、2人共スベスベになった肌を触って喜んでいた。


「はぁ……良いお湯だね。」


「私の旅館のチョイス、良かったでしょ?」


「うん、ありがとね沙弥。こんな楽しくて癒される旅行は久しぶり。」


「ウフフ、じゃあ長岡君にも満足してくれた?」


「え?」


「響子、長岡君と結構いい感じだったじゃない、もしかして惚れちゃった?」


「……惚れるも何も、長岡さんとは今日会ったばかりよ?」


「そんなの関係ないよ。相性の良い男女っていうのは、会ったその日からでも通じ合う事ができるんだから。」


「あのねぇ沙弥、私は結婚…」


「あっ!ダメよ!その言葉は今日と明日は禁句だって言ったでしょ。」


「そんな事言われても……」


「ねぇ響子、どうなのよ?長岡君の印象は。」


「印象?……印象は、素敵な人だなぁとは思うよ。」


「ウフフ、じゃあ男のチョイスも私は間違ってなかったって事ね。」


「でも、ちょっと軽い感じもするけどね。本人もそう言ってたけど。」


「軽いから良いんじゃない。こういうのは相手に本気になられたら面倒よ。」


「軽いから良い……か。なんだか別の世界で話してるみたい。私は沙弥みたいには生きれない人間だと思っていたのに……。」


「ウフフ、こっちの世界も悪くないでしょ?我慢するのも良いけど、やっぱり現実逃避する手段くらいは持ってないとダメよ。」


「現実逃避か……確かに必要だったのかもね。私、今凄く満たされてる気がするし。」


「じゃあそのまま今夜は、長岡君に癒してもらいなね?」


「え?」


「響子はスタイル良いし、きっと長岡君も喜んでくれると思うよ。」


「そ、それって……もぉ、沙弥ったら、変な事言わないでよ!」

沙弥のセックスを匂わす言葉に顔を赤くする響子。


「え~でも正直響子も考えてたでしょ?今夜は長岡君と、って。」


「ないない。」


「ウフフ、響子欲求不満溜まってるくせにぃ、無理しなくてもいいのよ?」


「もぉ……沙弥はエッチなんだから。」

そう言って響子は沙弥の顔にお湯をかけた。

しかし、話を流したつもりの響子だったが、内心は少し動揺していた。

〝欲求不満溜まってるくせにぃ〟

響子は夫とはセックスレスで、長い間していない。

正直夫とはもうセックスはしたいと思わなかったし、どうでもいいと思っていた。

でも今日、新たに素敵と思える男性と出会って、沙弥にその事を指摘されて、初めて響子は気付いた。

確かに自分は欲求不満だ、と。


「ウフフ、後で長岡君と2人きりにしてあげるからね。」

沙弥に本心を読み取られたようにそう言われてしまった響子は、嫌とも駄目とも言い返すことができなかった。


「……。」

響子にだって性欲はある。

響子は温泉につかりながら、その欲求が身体の奥から沸々と沸き上がってくるのを感じていた。

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