食事を終え、食器を片づけられたテーブルの上には日本酒やワイン、チーズやクラッカーなどのつまみが並んでいた。
この時点で4人共それなりに酔っていたが、中でも沙弥はかなり酔っぱらっていて、誰とも構わず抱き付いたり、そこからさらに暴走して響子に対しては浴衣を脱がそうとまでしてきていた。
「キャッ!沙弥何するのよ、あっダメだって!」
「ウフフ、響子ってスタイル良いんだよぉ、オッパイなんてこんなに大きいし。」
沙弥が響子の浴衣を無理矢理引っ張り、響子の胸の谷間を露出させると、堂島と長岡が
「おー!」
と嬉しそうな声を上げた。
「しかもこのオッパイ凄い柔らかいんだよねぇ、私のとなんか違うの、ほら、こんなプ二プ二フワフワなんだよ。」
子供のような口調でそう言って響子の胸を指で押して見せる沙弥。
「こらっ、沙弥ダメだって言ってるでしょ!」
響子はまるで子供を叱るようして沙弥から離れて乱れた浴衣を直した。
「あ~ん響子が冷たいよぉ、折角私が元気にしてあげようとしてるのに。」
「もぉ……沙弥ったら、酔っぱらうといつもこうなんだから。」
「アハハ、2人共仲が良いんだね。」
響子と沙弥のやり取りを見て笑う長岡。
「響子は私じゃダメなのね~、分かった!もう響子の事は長岡君に任せる!」
そう言って沙弥はのそのそと移動して彼氏である堂島武に抱き付いた。
「武ぃ~チューしよっ!」
そして響子と長岡に見せつけるようにして堂島とキスをしてみせる沙弥。
「ちょ、ちょっと沙弥……」
「ウフフ、響子も長岡君とキスしちゃいなよ、長岡君はOKなんだからさ。」
「な、何言ってるのよ……そんな事……」
長岡と顔を見合わせて気恥ずかしそうにする響子。
しかし沙弥の挑発は止まらない。
「ねぇ武、私我慢できなくなってきちゃった。ねぇ、しよ?」
「ハハっ、しょうがねぇなぁ沙弥は。」
堂島は苦笑していたが、沙弥の狙いはもう分かっているようだった。
「ねぇ、隣の部屋行こ。」
「隣の部屋?まぁ俺はいいけどさ。」
「なら早く行こうよぉ、ねぇ。」
「分かった分かった。じゃあ悪いけど俺達行くわ。」
「響子と長岡君は朝までこっちの部屋使ってていいからね。私達は朝まで向こうの部屋にいるから。」
そう言って立ち上がり、部屋を出て行こうとする沙弥と堂島。
「えっえっ……ま、待ってよ沙弥、困るわよそんなの……」
「長岡君、響子の事お願いねっ。あ、そうだ、これ渡しとかないとね。」
困惑している響子を尻目に、沙弥はバックからある物を取り出し響子と長岡の目の前に置いた。
そのある物とはコンドームの箱だった。
「こ、これって……」
「ウフフ、じゃあ響子、しっかり楽しんでね。」
そして沙弥と堂島はそそくさと部屋を出て行ってしまった。
取り残された響子と長岡。騒がしかった沙弥が居なくなって急に部屋がシーンと静まり返る。
「……。」
「アハハっ、沙弥ちゃんは強引だなぁ。」
「もぉ……沙弥ったら……」
長岡は明るく笑っていたが、響子はチラっとコンドームを見た後気まずそうに黙り込んでしまった。
響子はどうしたらいいのか分からなかった。ハメを外すと言っても、その外し方が分からないのだ。
それに当然、貞操観念からくる迷いもある。
――やっぱり私は沙弥のようにはなれない。どうしてもブレーキが掛かっちゃう――
すると、そんな風に思いつめた様子で俯いている響子を見て、長岡はこう優しく声を掛けてきた。
「じゃあ響子さん、折角だから2人でもうちょっと飲みましょうか。」
「……え?」
「俺は沙弥ちゃん程強引じゃないですから、安心してください。」
「……は、はい……」
響子の心境を察した長岡のスマートな言葉に、響子は少し気持ちが楽になったような気がした。
2人きりになっても余裕のある長岡の表情をしている。
――長岡さんはこういう状況にも慣れているのね、きっと――
自分の事を遊び人だと言っていたけれど、全然ガツガツしていない。
そしてそんな長岡がグラスにワインを注いで響子に渡してきた。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
こうして、響子と長岡の2人きりの長い夜は始まった。
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