台風一過。
恵理の部屋に悠一郎が泊まった翌朝は、昨日の嵐が嘘のように街は静かになっていて、雲一つない清々しい青空が広がっていた。
その日2人が目を覚ましたのは午前中、と言ってもすでに昼の少し前であった。
「ん……」
先に起きたのは恵理。
「ん……頭痛い。」
軽い二日酔い。昨日摂取したアルコールがまだ少し残っている。
「あれ、私……昨日……え?」
起きたばかりでまだ頭の中の記憶がはっきりしないまま、ふと横を見ると、そこには同じ布団中に入って寝ている悠一郎の姿。
しかも布団から出ている悠一郎の上半身は服を着ていない。
「キャッ!……え!?どうして?えっ?これって……」
その状況が理解できなくて一瞬驚く恵理。
そして数秒後に気付く。隣で寝ている悠一郎だけではなく、自分自身も服を着ていないことに。
しかも全裸だ。下半身にもパンツさえ穿いてない。
「イヤッ……え、あ……」
そこで恵理はようやく昨晩の事を思い出した。
そうだった、昨日は台風で、それで悠一郎君が来て……それで2人でお酒飲みながら映画見て、泊まることになっちゃって……それで……
テーブルの上を見ると、そこには破かれたコンドームの袋が3つも。
ベッドの上での記憶が鮮明に蘇って、恵理は顔を赤くした。
『ああっ!イクっ!悠一郎君!ああんっ!』
結局あの後、2回目を終えても悠一郎の欲求は収まらなかったようで『もう1回いい?』と、それで恵理もそれを受け入れて3回戦目に突入。
しかも3回戦目はかなり激しくて、身体の感度も最高潮に達していて、正直何度絶頂したか覚えていないくらいに感じてしまった。
とにかく2人とも汗だくになりながら腰を振りまくって、身体を舐め合って沢山キスをして。
終わった頃には足腰が立てない程になってしまい、シャワーを浴びる力も服を着る力も残っていなくて、そのまま力尽きた状態で2人で眠りについた。
そんな昨日の記憶を思い出すだけで身体がカァっと熱くなる。
「ん……ああ、もう起きてたんだ?」
そこで隣の悠一郎も目を覚まし、身体を起こしてきた。
「え?キャッ!」
恵理は慌てて布団で裸体を隠した。
寝起きの悠一郎は目を擦りながらそれを見て笑う。
「ハハッ、何今更恥ずかしがってんの、昨日散々見せ合っただろ?」
「で、でも……」
恥ずかしそうに顔を赤くしながら布団の中に潜り込んで顔だけ出す恵理。
「ね、ねぇ、私の服どこ?」
「下の方にあるんじゃね?ていうかシャワー浴びて来いよ、俺もその後入りたいし。」
確かに少し身体がベタベタする。
「……うん。」
「あ、それとも一緒に入る?」
「一緒に……だ、だめっ!いやあの……い、いいよ、1人で入るから。」
「ハハッ、なに動揺してんだよ。恵理ってホント恥ずかしがり屋さんだよな、すぐ顔赤くなるし。」
そう言って悠一郎は恵理の頭を手でクシャクシャと撫でてみせた。
頭を撫でられた恵理の顔はさらに紅潮して耳まで赤くなった。
「ねぇ悠一郎君、ちょっとあっち向いてて。とりあえず服着るから。」
「え、別にいいじゃん、そのまま裸で行けば。」
「いいから、恥ずかしいの。その……見られるの……」
「ハハッ、分かったよ。」
悠一郎が背中を向けると、恵理は裸のままベッドが出て服を探した。
そして下着や部屋着を着ると、タオルと着替えの服も用意して浴室へ向かった。
恥ずかしがりながらも、悠一郎と朝を迎えた事が嬉しいのか、恵理は表情には笑顔が混じっていた。
朝起きて、隣に好きな人が寝ていたら、誰だって心の底では嬉しくなってしまうものだ。
脱衣所でもう一度裸になって浴室に入り、シャワーを出して、しばらく無心でぬるいお湯を浴びる。
あんなに沢山セックスをしたのは初めてだったし、あんなに沢山感じてしまったのも初めて。
だからやっぱり少し身体が重く感じる。
ザーという音を立ててお湯が流れていく。
頭の中が少しずつクールダウンしていって、次第に冷静さを取り戻していく恵理。
悠一郎と一緒にいる事も、朝少し驚いてしまった事も、一旦リセットされる。
そして、突然ハッと現実が頭の中に降りてきた。
「なにやってるの……私……」
自然とそんな言葉が口から出る。ふと客観的に自分自身を見つめてしまった。
そしてここで漸く恵理は自分が犯してしまった罪に気付く。
「……私……私……大変な事を……」
どうしよう……どうしたらいいの……
頭の中に降りてきた現実に、心が潰れそうになって、パニックになる恵理。
悠一郎がパンツ1枚の姿でソファで寛いでいると、浴室の方からドタバタと騒がしい音が聞こえてきて、髪を濡らしたまま慌てて服を着た恵理が出てきた。
「どうしよう!どうしよう!私どうしたらいいの!?ねぇ、どうしよう……ああ…やだもう……」
そんな常軌を逸した恵理の様子に悠一郎も驚く。
「おいおいどうしたんだよ、落ち着けって、なぁ、どうした?何があった?風呂でゴキブリでも出たのか?」
「違う!違うよぉ、ゴキブリなんかじゃないってもう……ああどうしよう……」
「え!?じゃあムカデか、刺されると大変だもんな。ちょっと待ってろ俺が退治してやるから。」
「だから違うって!……あーもう……どうしたらいいの、ねぇ私どうしたら……」
「おいどうしたんだよ恵理、俺には何が何だか……」
恵理の言っている事が全く理解できないでいる悠一郎は困惑した表情をしていて、恵理はその前でガックリペタンと床に座り込んでしまう。
「私……最低だ……奈々になんて言ったらいいの?どうしよう……奈々……ああ……」
恵理はそう言って両手で顔を覆うと、まるで小さな子供のように涙を流しながら泣き崩れた。
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