女子大生 水野果歩(109)

・・・どうしよう・・・

果歩は部屋に鳴り響く携帯の着信音に戸惑い、どうしたらいいのか悩んでした。

急に現実世界に引き戻されたような気持ち。

ここ数週間忘れかけていた存在と、あの出来事。

♪~~♪~~♪~~・・・

服を着なおして、ベッドに座り携帯を握りしめたままディスプレイを見つめ続ける果歩。

画面には【友哉】の文字。

以前は聞けば嬉しい気持ちが込み上げていた着信音。しかし今は苦痛にも似た音にしか聞こえない。

それはやはり富田や山井としてきた自分の行為が原因である事は確かだった。

急激に果歩の心の中で膨れ上がってきた罪悪感。

卑猥な事と、快感で頭が埋まっていたここ数週間は心の奥にしまっていた、或いはどこかに忘れていた罪悪感が、今一気に襲い掛かってきているようだった。

果歩 
「・・・・・・・。」

果歩の目に涙がジワっと溜まる。

しかし、果歩は思い出す。あの時、メールをしても何の返事も返ってこない友哉に電話した日の事を。

『あ~ごめんねぇ、今友哉ちょっとシャワー浴びにいってるからさぁ、電話コール長かったからでちゃ・・・』

携帯から聞こえたのは日本語を話す女性の声だった。

ショックだった。

まさかあの友哉が・・・信じられなかったし、今思い出しても胸が痛む。

しかし落ち込み始めると、とことんマイナス思考になる癖がある果歩は、考えれば考える程友哉が浮気をしていたとしか考えれなくなった。

♪~~♪~~・・・・・

果歩 
「・・・ぁ・・・」

果歩がしばらく思い悩んで電話に出れずにいると、着信音は止まってしまった。

しかし、少ししてからすぐにまた携帯はなり始めた。ディスプレイには再び友哉の名前が。

♪~~♪~~♪~~

果歩は想像する。

電話に出たら、きっと友哉は暗い声で〝別れよう〟と言ってくる。

それが怖くて怖くて仕方なかった。

友哉を忘れるために果歩は富田や山井と性行為をした、それも何度も何度も。

でも友哉と別れるという事がこんなに怖いなんて・・・。

果歩は今気付いたのだ、忘れたつもりでいた友哉の存在は、まだ果歩の心の中にしっかりと残っていた事を。

友哉の事を思い出した今、果歩はどうしようもなく友哉の声が聞きたくなっていた。

聞きたい・・・友哉の声が聞きたい・・・でも怖い・・・友哉から聞くのはきっと別れの言葉だから・・・

心の中でそんな葛藤をした後、果歩は決心する。

・・・出てみよう・・・

友哉に別れを告げられるのは怖いが、悩み続けるのはもっと辛い。

何より、どんな内容であれ、やっぱり友哉の声が聞きたかった。

果歩 
「・・・ふぅ・・・。」

緊張しているのか、少し指を震わせながらも、ひとつ深呼吸をしてから携帯のボタンを押す果歩。

・・・ピッ・・・

そしてゆっくりと携帯を耳に当てる。

果歩 
「・・・・・ぁ・・・・もしもし・・・・?」

・・・・・・・・・

友哉 『・・・あ!もしもし!?果歩?』

・・・この声・・・

果歩 
「・・・ぁ・・・あの・・・友哉・・・?」

友哉 『はぁやっと繋がったよぉ!・・・ごめん果歩!ずっと連絡できなくて。心配しただろ?』

久しぶりに聞いた声に、果歩は心をキュン締め付けられるような気持ちになった。

果歩 
「え・・・?う、うん・・・連絡・・・。」

しかし、別れを告げられると思っていた電話の向こうの友哉の声は予想外に明るいもので、むしろ久しぶりの果歩との電話に喜んでいるかの様な感じだった。

友哉 『ホントごめん!信じられないようなトラブルが偶然重なっちゃってさぁ、連絡できなかったんだよ。・・・果歩元気にしてた?』

果歩 
「・・・ぇ・・・・」

友哉 『・・・果歩・・・?聞こえてる?』

果歩 
「え?う・・・うん・・・でも、私友哉にメールも電話もしたけど・・・。」

友哉 『いや実は携帯もパソコンも同時に調子悪くなっちゃってさ、受信はできても発信ができなくなっちゃったんだよ。ホントごめん、今日やっと直ったからさ。』

果歩 
「・・・携帯とパソコン・・・壊れてたの?本当?」

友哉 『うん、それですぐに直ればよかったんだけど、日本の携帯とパソコンだからこっちじゃいろいろと時間が掛かっちゃって。』

予想していたのとは違う友哉の話に、果歩は戸惑うばかりであった。

果歩 
「でも・・・でも、私1回友哉に電話して・・・そしたら・・・。」

友哉 『あ~あの時、女の子出てビックリしただろ?あの時こっちの学生の家でホームパーティしててさ、そこで酔っ払った韓国の学生に俺ワインかけられちゃってさ、汚れたからシャワー借りてたんだけど、その間に果歩から電話あって、それも酔っ払った日本人の女の子が勝手に出ちゃったんよ。・・・でも、もしかして何か勘違いさせちゃったか?その時まだ携帯直ってなくて、掛けなおせなかったんだよ。』

携帯を耳にあてた果歩の目はフローリングの床の一点を見つめたまま動かなかった。

果歩 
「・・・うそ・・・・そんなの嘘だよ・・・・」

ボソっと小さな声でそう言った果歩。

友哉 『・・・え?果歩?どうした?ごめん、もしかして本当に勘違いしてた?』

果歩 
「そんなの・・・うそだよ・・・だって・・・そんなの・・・。」

果歩の目からはポロポロと涙が流れていた。

果歩は誰よりもよく知っているはずだった、友哉は嘘をつけない人、浮気をするような男性じゃないという事を・・・。

なのに・・・なのに私・・・

友哉 『もしもし?・・・果歩?どうした?・・・もしもし?』 

果歩 
「・・・ぅ・・・ヒック・・・ぅ・・・・」

涙が止まらない。

耳に友哉の声が届いても、果歩はなかなか声を出す事ができなかった。

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