友哉 『・・・果歩?・・・もしかして泣いてる?』
果歩
「・・・ぅ・・・・ぅ・・・・・」
友哉が心配そうに声を掛けるも、電話の向こうから聞こえてくるのは果歩のすすり泣く様な声だけだった。
ここで初めて友哉は気付いた、数週間も彼女である果歩に連絡をしなかった事がどんなに果歩にとって辛い事だったのかを。
初めての海外留学、現地に着いたその日から、とても忙しいながらも充実した毎日。
外国人との交流は考え方の違いや、共感できる部分を発見できて刺激を貰える。
それに苦労はするけど徐々に自分の英語が上達していくのを日々実感することができて、それには満足感もある。
楽し過ぎるほど楽しかった。
しかし、果歩との久しぶりの電話で友哉は気付いた。
自分はその充実感に浮かれていた。
日本にいる大切な彼女の事を少しの間とはいえ、忘れかけていた自分が情けない。
かと言って友哉の果歩に対する愛情が薄らいだ訳ではない。
果歩は友哉が惚れ込んだ大切な女性だ。
こんなに人を好きになったのは友哉の人生で初めての事であったのだから。
一目惚れだった。
大学に入り、初めて果歩を見た瞬間、友哉の胸は熱くなった。
整った顔はどこか幼さを残した印象で、透き通るように白く綺麗な肌。そして艶やかな黒髪。
一言で言えば日本人らしさのある清純な美少女というイメージだろうか。
友哉は別にそれまでアイドルなど、そういう所謂美少女的な女性には興味がなかった。
いや、なかったというより、興味を持つ余裕がなかった。
中学高校時代は、部活と受験勉強、生徒会に打ち込んでいた友哉は、女性にそういった気持ちを抱く余裕がなかったのだ。
もちろん恋愛がしたいという願望はあった。特に高校生の男子といえば、一番性欲盛んな時期でもある。女性の身体にも興味はあった。
だから念願の第一志望の大学に合格した時には、決めていた。充実した大学生活にしたいと。
その充実というのはもちろん女性と付き合って、恋愛面で充実した大学生活を送りたいという意味だ。彼女がほしいと。
そして一目惚れした相手が幸運にも同じ学部の生徒であると知った時には、友哉は果歩に対し運命のようなものさえ感じた。
そんなこんなで大学生活のスタート時点で、友哉の頭の中は果歩の事でいっぱいになっていた。
勉強にも身が入らず、いつもチラチラと果歩の後姿や表情を見つめる日々。
果歩に本格的に話し掛ける事ができたのは大学生活がスタートして1ヶ月ぐらい過ぎてからだった。
緊張して頭を真っ白にしながら一生懸命話し掛けた友哉、きっとどうでもいいような話だったが、果歩は笑顔で友哉と会話してくれた。
笑顔の果歩は天使のように可愛く、明るく、そして優しかった。
そんな果歩に対する友哉の気持ちは日に日に大きなものになっていく。
しかし、そんな果歩はやはり他の男子生徒からモテた。この学部だけではない、大学内では多くの男性が果歩を狙っていたのだ。
友哉は半分諦めていた。
俺なんかが果歩のような女の子と付き合えるわけがないと。
果歩はよく話しかけてきてくれるし、気が合った。果歩と話す時間はこれ以上ない程幸せだった。
だが同時に友哉には心配事があった。
いつか果歩に
「私彼氏できたんだぁ」
と言われるのではないかと。いや、必ずその時は来てしまうだろうと。こんなに可愛らしく、魅力的な女性なのだから。
そんな事を考え始めると、悩んで夜も眠れない日々が続いた。
初めて経験する好きな人の事を思い、胸が締め付けられる感覚。
もう自分の気持ちが抑えられなかった。
そして悩んだ末友哉は決めたのだ。果歩に気持ちを伝えようと。
自分はきっとフラれるだろうと、友哉は覚悟していた。
自分は顔は良くないし、女性と付き合った経験だってない。
そんな未熟な男に果歩が振り向いてくれるはずがない。
自分の気持ちを伝えるだけ、伝えたいだけなんだ…。
そして学部内の友達グループでキャンプに行った時、夜、星空の下で友哉は果歩にありのままの自分の気持ちを伝えた。
フラれる覚悟でした告白。
しかし果歩の口からは言葉は、友哉の予想を覆すものだった。
果歩
「・・・私・・・私も友哉君の事が好き・・・。」
それからは、夢のように幸せな日々だった。
お互いに異性と付き合うのは初めてで、周りから見る2人は実に初々しいカップルであった。
最初は果歩の前では緊張気味だった友哉も、お互いに〝友哉〟〝果歩〟と呼べるようになり、元々高校時代は生徒会長もしていてしっかりしている友哉は、徐々に果歩をリードできるお付き合いができるようになっていった。
友哉が海外留学を決意したのは、そんな素敵な果歩を守るため、社会に出てもしっかりとやっていける男になるためと思っての事だったのだ。
果歩を愛していた。
いずれ果歩と結婚したいと、友哉は本気で思っていたのだ。
その気持ちは今でも変わらない。
電話越しに聞こえてくる果歩の悲しそうにすすり泣く声に、友哉はただ戸惑っていた。
友哉 『・・・ごめん果歩・・・俺・・・』
果歩
「・・・ぅ・・・ううん・・・違うの・・・私が悪いの・・・」
やっと聞こえた果歩の小さな声に、友哉は心配そうに耳を傾けた。
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