今日は土曜。
朝、果歩は自宅アパートで掃除や洗濯物をしながら考えていた。
・・・今日でトミタスポーツのアルバイトをやめないと・・・
・・・富田さんに言えば分かってもらえるよね、きっと・・・
昨日の電話で果歩は友哉との交際を再スタートする事を誓ったのだ。
そして将来の結婚まで約束したのだから。
忘れていた幸せの感覚を、友哉は気付かせてくれた。
寂しがり屋の果歩に友哉は『果歩が寂しいなら、俺日本に帰ってもいいよ』とまで言ってくれたが、さすがに果歩は『嬉しいけど・・・大丈夫!私1人で待ってるから。友哉はそっちで勉強頑張って』と断った。
自分に対しそこまで言ってくれた優しい友哉がとても愛しい。
果歩
「ン~♪フフッ、今日はいい天気♪」
洗濯物を干しながらも、友哉の事を思うと自然と笑みが零れてしまう。
一難超えた果歩の中の友哉への【好き】という感情は、以前よりも増しているようだった。
果歩
「・・・・・・。」
しかし果歩のそんな笑顔も一転、富田の事、アルバイトの事を考えると憂鬱になる。
アルバイトとはいえ、突然辞める事になればトミタスポーツのスタッフの方達に迷惑が掛かるのは確かだ。特に最近のトミタスポーツは会員の急増で、ただでさえ人手不足なのだから。
富田との関係も今考えると、どうしたらいいのかよくわからない。
富田とは身体の関係はあっても恋仲ではない・・・はずだ。
・・・私って・・・富田さんの何なんだろう・・・
付き合っている訳ではないので、別れてください、では違うのかもしれない。
・・・どう伝えればいいのかなぁ・・・
アルバイトの事も、富田との事も、相手を気遣う優しい心の持ち主である果歩にとっては、気が重い話だった。
・・・でも・・・ちゃんと言わないと・・・
友哉との将来のためだと、果歩は心に強く決めるのであった。
そしてすぐに他のアルバイトを探して、新たなスタートを早く切る。それが今の果歩の目標だ。
果歩
「・・・しっかりとしないとね・・・友哉・・・。」
果歩の視線の先には、机の上に置いてある写真立てが。2人でディズニーランドに行った時にいっしょに撮った写真だ。
一度は引き出しに締まった写真だったが、昨日の夜からもまた果歩が出したのだ。
写真には幸せそうな笑顔を浮かべる2人の姿が写っていた。
その日の昼過ぎに、果歩は着替えをしてアルバイトに向かう準備をしていた。
これで最後になるであろうトミタスポーツのアルバイト。
果歩
「・・・はぁ・・・」
鏡を見て身なりを整えながらため息を付く果歩。
まだ富田に何という言葉で伝えるか悩んでいるのだ。
優柔不断な部分もある果歩の性格なら仕方ないのかもしれない。
そんな風に考え、悩みながら果歩はアパートを出てトミタスポーツへ向かった。
山井
「おぉ果歩ちゃん!今日は昼からだっけ?」
ジムに着いてスタッフルームに入ると、すぐに山井が声を掛けてきた。
果歩
「はい・・・あ、あの山井さん・・・富田さんはどちらに・・・?」
山井を見て顔を赤くしながら尋ねる果歩。
山井
「富田さんはぁ・・・たぶんオーナー室じゃないかな?何かあるの?」
果歩
「ぇ・・・はい、ちょっと・・・」
果歩は先日山井とも性行為をした。それを思い出すとなんだか気まずいし、こうやって職場で顔を合わすのも恥ずかしい。
山井に言われた通り、富田がいるというオーナー室に向かう果歩。
この部屋は果歩が初めてトミタスポーツに来て富田と面接をした部屋だ。
富田は普段スタッフルームにいるし建物の一番隅っこにあるオーナー室は、滅多に人は行かないし、果歩も来るのは久しぶりだ。
果歩
「・・・フゥ・・・」
1つ深呼吸をする果歩。
なんだか緊張する。
・・・ちゃんと富田さんに言わないと・・・
そう心の中で決心したあと、果歩はそっとドアをノックした。
コンコンッ・・・・・
富田
「はいよぉ!誰ぇ?入っていいよぉ!」
果歩
「失礼します・・・。」
ガチャ・・・
富田
「おぉ果歩かぁ、どうした?」
果歩
「あ・・・あのちょっとお話がありまして・・・。」
富田
「話?まぁとりあえずそこに座れよ。」
果歩
「ぁ・・・はい・・・。」
そう言って冨田はドアの前に立っていた果歩を祖ソファに座らせる。
富田
「で?話って一体何だ?」
富田は果歩のすぐ隣にドカンと座り、果歩の肩に馴れ馴れしく手を回しながら聞いた。
果歩は富田からの突然のスキンシップに顔を赤くして肩を竦める。
富田はそんな果歩の表情を覗き込みながら、笑みを浮かべている。
まるで自分の女を扱うような富田の態度。それは富田からすれば、ごく普通の事だった。この2人はすでに身体の関係を持っているのだから。
しかし果歩はそうではない、昨日友哉と再び交際していく事を決めた果歩にとって、他の男から肩に手を回される行為には抵抗があった。
・・・言わないと・・ちゃんと言わないと・・・
富田に見つめられるとなぜかドキドキと鼓動が速まる。
そんな自分に戸惑いながらも、果歩は一生懸命自分に言い聞かせる。
果歩
「ぁ・・・あの実は・・・」
そして俯き加減で富田の目から目線を外しながら、果歩はゆっくり口を開いた。
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