女子大生 水野果歩(184)

・・・康介・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・

・・・お母さん・・・どこに行っちゃったの?・・・お母さーん・・・ぅぅ・・・

・・・・バサッ!

富田 
「ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・」

頭が痛くなるような不快感で、突然身体を起こし目を覚ました富田。

それを示すように呼吸は乱れ、額には汗がに滲んでいる。

なんと気分の悪い寝起きだろうか。疲れを取るための睡眠のはずが、なんだか逆にどっと疲れたような気がする。

富田 
「・・・ふぅ・・・」

じっと目を閉じてした深呼吸がため息に変わってしまう。

・・・どうしてあんな夢を・・・クソッ・・・

昔の記憶が夢の中で鮮明な映像として蘇ったのだ。

夢の中ではこれが夢だとは全く気付かなかった。

まるで本当に自分が5歳の子供に戻ったような感覚。

そして母・智恵が今さっきまで自分の目の前に居たかのような感覚。

過去の記憶とはいえ、妙にリアルな夢だった。

まだ夢の中で母・智恵に抱き締められた時の温もりと匂いが残っているような感じがする。

目を閉じれば浮かんできてしまう母親の優しい笑顔。

富田 
「・・・はぁ・・・・」

富田は自分の頭の中に侵入してくる母・智恵の存在を追い払おうと、頭を横に何度も振った。

子供の頃にはよく見た夢だ。

しかし、ここ何年もずっと見る事はなかったのになぜ今?と、富田は自分で自分に問う。

富田 
「・・・・・・。」

そんな疑問に頭を抱えながら、富田はベッドから降りて水分を取るためにキッチンへと向かった。

シーンと静まり返った、相変わらず生活感のない富田の部屋。

食事は殆ど外食であるため、ここにあるやたらと豪華なキッチンはまさに宝の持ち腐れと言ってよかった。

富田の部屋がこんな風になっているのには理由がある。

生活感のある温かい雰囲気の部屋が苦手なのだ。

昔母親と共に過ごしたような温かい部屋が苦手なのだ。

富田 
「・・・あんな母親・・・」

無機質なキッチンを眺めている富田の頭の中に、再び母・智恵の姿が思い浮かぶ。

夕飯の仕度をする母の後姿、決して得意とは言えない料理を一生懸命作る母の姿。

そして、出しの効いてない味噌汁。

あの出しの効いていない味噌汁が、富田にとって一番記憶に残っている味なのかもしれない。

富田 
「・・・・・・」

と、母・智恵の味噌汁を思い出した瞬間、同時に富田の頭の中に別の記憶が蘇る。

果歩 『・・・ごめんなさい・・・キッチン勝手に使っちゃって・・・』

富田 『何か、作ってるのか?』

果歩 『えっと・・・あの・・・味噌汁を・・・』

果歩 『ァ・・・・あの・・・秋絵先輩みたいに・・・上手じゃないですけど・・・。』

果歩 『・・・・どう・・・ですか?』

富田 『・・・・これ、だし入れたか?』

果歩 『え・・・?だし・・・?・・・あっ!・・・そっか・・・だし・・・』

果歩 『はぁ・・・ごめんなさい・・・美味しくないですよね・・・』

いつか身体を重ねた次の日の朝に、果歩が出し無しの味噌汁を作った事を思い出した富田。

あの時、果歩は何を思って自分にあんな事をしたのだろうか。

そしてあの時、自分は果歩に対してどんな感情を抱いていたのだろうか。

富田 
「・・・・・・。」

・・・俺は・・・安心・・・していたのか・・・?

・・・俺は・・・

母・智恵の優しい笑顔と、母が居なくなった日の感情、そして果歩の顔が、まるでフラッシュバックの様に富田の頭の中を何度も何度も駆け巡る。

グルグルグルグル・・・重い記憶が目が回る程のスピードで富田の感情を混乱させた。

富田 
「ハァ・・・ハァ・・・・・母さん・・・果歩・・・ああ・・・」

両手で頭を抱えてその場に蹲る富田。

それは誰にも見せた事のない、富田のなんとも弱々しい姿だった。

コメント

  1. メンメン より:

    SECRET: 0
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    コメントありがとうございます。

    そんな風に言ってもらえると凄く嬉しいです、有り難うございます!

    そうなんですよね、味噌汁は…果歩が味噌汁を作ったシーンは結構前なので皆さん覚えているかなぁって心配だったんですけど、ウランさんは覚えてくれていたのですね、よかったぁ(笑)

    さぁもう終盤です。明日からは急展開?ですよぉ、久しぶりにあの人が登場します☆

  2. メンメン より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    初コメントありがとうございます。

    水野果歩の物語はもう終盤ですが、最後まで満足してもらえるように頑張ります!

    水野果歩が終れば新作もどんどん書いていくつもりなので、またいつでもこっそり覗きに来て下さい(笑)

  3. ウラン より:

    SECRET: 1
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    いつも楽しみにしています!

    以前、果歩ちゃんが富田さんに作ったお味噌汁、なんだか印象的だなって思ってたんですよね!

    こういう展開だったのか!!って感動してコメントさせていただきましたー。

    富田さんの孤独を救えるのは果歩ちゃんなのかなーって勝手に想像してしまいました!

    長々とすいません(>_<)
    あと少し頑張ってください♬

  4. あすちむ より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    すっごく後半気になりいつもちら見してます壁|_-)ジィ~

    応援してます!頑張ってください

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