友哉は駅前のカフェに1人で居た。前に果歩とよく来ていたカフェだ。
果歩に勉強を教えたり、次の休日の予定を立てたり。2人で過ごした場所としては、ここは特別落ち着く所だった。
決まって毎回注文していたのは、友哉がアメリカンコーヒーで、果歩はキャラメルモカかフレンチヴァニララテ。果歩は甘い物好きでいつも甘いものばかり頼んでいた。
友哉
「アメリカンコーヒーを1つ・・・あっ・・・やっぱりフレンチヴァニララテを1つで・・・。」
トレーを持って友哉は窓際のカウンター席に座った。
トレーに乗ったマグカップからヴァニラの甘い香りが漂っている。
外は段々と薄暗くなってきていて、学校帰りや会社帰りの多くの人達が歩いていた。
友哉 「・・・ん・・・甘っ・・・果歩、いつもこんなに甘いのを飲んでたのか・・・」
ラテを飲んで思わずそう声を漏らした友哉。
口の中に広がる甘ったるい濃厚な味は友哉の好みには合わなかったが、果歩が好きそうな味だと思った。
友哉
「・・・・」
友哉はマグカップを置いて、再び外の景色をボーっと眺めていた。
〝あんな大人しそうな顔して大勢の男達に股開いてるんだからなぁ・・・〟
〝友哉も忘れた方がいいって、水野には関わらない方がいいよ〟
大学で後藤に言われた言葉が気になった。
後藤や裕子に言われた通り、あの噂は本当なのかもしれない。
果歩が多くの恋人でもない男達と身体の関係をもっているという噂。特に他のコミュニケーションは取らず、男達とSEXをするだけの関係だと。
友哉
「・・・はぁ・・・」
今でもとても信じられない。
もし事実だとしても、果歩が自らそんな事を望むはずがない。
・・・そんなはずは無いんだ・・・
しかしそんな考えと矛盾するような出来事が友哉の脳裏に過ぎる。
あの時の電話だ。
あの時確かに、果歩は富田という男とのSEXに悦びの声を上げていた。
それも友哉が電話の向こうでそれを聞いているのを果歩は知っていたはずだ。
果歩はあの時何を思ったのだろうか。
友哉
「・・・・・」
そんな事を考えていた時だった。
友哉
「・・・果歩?」
思わず席を立った友哉。
友哉は少しソワソワした様子で、窓の外を目を凝らして見ている。
カフェの窓からなんとなく外を眺めていたら、人混みの中を歩く果歩らしき女性の姿が偶然目に入ったのだ。
友哉は飲みかけのコーヒーを置いたまま、慌ててお店の外に出た。
・・・あの後ろ姿は・・・きっと果歩だ!
その女性が歩いて行った方に向かって走る友哉。
今は細かい事を考えられなかった。
とにかく、友哉は無我夢中で果歩を探した。
友哉
「はぁ・・はぁ・・・・・」
・・・果歩・・・どこだ・・・
・・・・・居た!
友哉
「果歩っ!!!」
その小柄な女性は友哉の呼び声に反応し、歩くのを止めた。
果歩
「・・・・・・」
友哉
「・・・果歩・・・」
しかし果歩は友哉の方へは振り返らず、再び歩き始めようとする。
友哉
「か、果歩!?待ってくれ、行かないでくれ!」
友哉は去ろうとする果歩に駆け寄り、思わず果歩の腕の掴んだ。
友哉
「はぁ・・・はぁ・・・果歩・・・」
果歩
「・・・離し・・」
友哉
「知子ちゃんも心配してる。」
果歩
「ぇ・・・」
前回同様、友哉から離れようとした果歩だったが、友哉の口から出た知子という名前にその動きを止める。
友哉
「辛い事があるんだろ?俺が・・・力になるから。」
果歩
「・・・・・」
果歩は友哉に腕を掴まれたまま、顔が見えないように下に俯いた。
友哉
「俺はもう・・・彼氏でも何でもないから、こんな事する権利ないかもしれないけど・・・でも・・・果歩が辛い思いをしているなら、助けたいんだ。」
果歩
「・・・・・」
心配そうに俯いている果歩の顔を見る友哉。
元気のない様子の果歩は、やはり以前よりも痩せている様に見える。相当なストレスを抱えているのかもしれないと、友哉は思った。
友哉
「・・・果歩・・・俺は・・・」
果歩
「・・・来て。」
友哉
「え?」
突然口を開いて小さな声でそう言った果歩。
人混みの中で果歩の小さな声を聞き取るために、友哉はさらに果歩に顔に顔を近づけた。
友哉 「何て言ったんだ?果歩・・・」
果歩
「付いて来て・・・」
そう呟いた果歩は、再び歩きだす。
友哉にはどこに行くのか、この行動が何を意味するのかさっぱり分からなかったが、果歩の腕を掴んでいた手を放して、歩き出した果歩の後を言われた通りに付いて行った。
コメント