「あ、そういえば果歩、来週果歩の誕生日じゃない?」
急に思い出したかのように知子は口を開いた。
「え?・・・うん・・・。」
大学の食堂でいつものように果歩と知子はいっしょに昼食をとっていた。
「あ~友哉君いないもんねぇ、寂しいんでしょ?遠距離恋愛のつらいところねぇ。」
知子は窓の外へ向け遠い目をしながら言った。
「うん・・・でも誕生日の日は電話してきてくれるって約束なの。」
「へぇ・・・なんだかあんた達ってホント真面目なカップルよねぇ。」
「そう・・・かな・・・?普通じゃない?」
「なんか清く正しいお付き合いって感じ・・・ちゃんとやる事やってるの?」
「え・・・なに?やる事って・・・?」
「え~それは決まってるじゃな~い」
まったくそっち方面の話に疎い果歩、知子はそんな果歩にあきれ気味だ。
「あ~もしかして果歩、一年も付き合っててまだしてないの!?」
さすがの果歩も知子の言っている意味がわかってきたのか顔を赤くする。
「え、それは・・・・・・て、てゆうか知子ちゃん声大きいよぉ・・・。」
「今日も楽しそうね、お二人さん。」
その声を聞いて、果歩と知子は声のする方に顔を向けた。
「秋絵先輩!」
二人が声を合わせてそう言うと、秋絵はニッコリと笑顔をつくった。
「ここ、いいかな?いっしょに食べてもいい?」
「はい、もちろんです。」
秋絵はそう言って椅子に座ると、バックの中からお弁当箱を取り出した。
「あ、秋絵先輩の手作り弁当ですかぁ?」
「うん、簡単なものばっかり、詰めただけだけど。」
そう言って秋絵は弁当箱の蓋を開ける。
「わぁおいしそう!やっぱり秋絵先輩、料理上手なんですねぇ!」
尊敬の眼差しで目をキラキラさせながら言う果歩。
秋絵の弁当箱の中身は、おかずや野菜が彩り良く盛り付けされていて、実においしそうだ。
「ホント、おいしそう・・・これは私達には無理ね、果歩。」
知子は料理はまったくやらないので、手作り弁当など未知の世界と言った様子だ。
「フフ・・・案外簡単なのよ。・・・そういえば果歩ちゃん、もうすぐ誕生日なの?」
「は、はい。来週の土曜なんです。」
「秋絵先輩、果歩彼氏が海外だから今年は一人の誕生日なんですよぉ。」
「友哉君はそういえば留学中だったのね・・・それじゃ果歩ちゃん寂しいわね。」
「いえ、そんな・・・一年の辛抱ですから・・・。」
明るく振舞う果歩だが、正直誕生日を一人で過ごすのは寂しいと感じていた。
「そうだ、果歩ちゃん知子ちゃん、私の部屋で果歩ちゃんの誕生日会やらない?私が料理とかつくるし。」
秋絵は急に思いついたように二人に提案した。
「え!?誕生日会ですか!?いいんですかぁ!?わぁ・・・・・・あ、でも土曜日、アルバイト・・・」
明るくなっていた果歩の表情が一瞬曇る、土曜はトミタスポーツでのアルバイトを入れてしまっていた。
どうせ一人の誕生日、アルバイトで寂しさを紛らわして、夜友哉と電話しようと考えていたからだ。
「大丈夫よ、私がアルバイト休めるように富田さんに言っといてあげるから。」
秋絵は笑顔で果歩にウインクした。
「わぁ、ありがとうございます。秋絵先輩の手料理、楽しみですぅ。」
ぱぁっと果歩の表情が明るくなった、秋絵からの提案は本当にうれしかったのだろう。
「それじゃ知子ちゃんも、来週の土曜日大丈夫かな?」
「はい!もちろんです!それじゃ私はいっぱいお酒買って行きます!」
「知子ちゃんあんまりお酒買ってきすぎないようにねぇ・・・秋絵先輩の部屋でこの前みたいにならないでよぉ・・・。」
果歩が知子に釘を刺すように言った。
それは以前二人で食事に行った時に、知子がワインを飲みすぎて泥酔し、店や店員に迷惑をかけたという経験があったからだ。
「私の座右の銘はクジラのように飲んで馬のように食べるなの!大丈夫、秋絵先輩の部屋では加減するわよ。」
「ホントかなぁ・・・。」
少し不安そうな果歩、知子の酒癖の悪さをよく知っているのだ。
「フフ・・・それじゃ二人ともOKね。詳しい時間とかはまた連絡するわね。」
「秋絵先輩、ありがとうございます。ホント楽しみにしてます。」
果歩は本当にうれしそうにそう秋絵にお礼を言った。
(ホント秋絵先輩優しいなぁ・・・あ~なんだかすっごい楽しい誕生日になりそう!)
期待を膨らます果歩、寂しい誕生日を覚悟していた分、秋絵の提案は余計にうれしかった。
「果歩ちゃん、知子ちゃん、こっちよ」
「秋絵先輩、すみません、お待たせしちゃって・・・。」
「ううん、今来たところだから。・・・フフ・・・たくさん買ってきたわね。」
駅で待ち合わせした果歩、知子、秋絵の三人。
今日は予定通り、秋絵の部屋で果歩の誕生日会。
少し遅れてきた果歩と知子は両手に買い物袋をさげていた。
「も~・・・知子ちゃんがお酒選ぶの遅いからぁ・・・。しかもすごい量だし、重くてもう手が痛いよぉ・・・。」
「いいでしょ~好きなんだからぁ・・・せっかくの果歩の誕生日会なんだし。」
「知子ちゃんがほとんど飲むんでしょ~?」
「フフ・・・いいじゃない果歩ちゃん、今日はパア~っとやりましょ。」
秋絵はいつものように仲の良さそうな二人のやりとりを見て微笑みながら言った。
「はい!でも知子ちゃん飲みすぎてこの前みたいにならないでよぉ。」
「はいはい、わかってますって。」
三人はそんな会話をしながら駅から歩いて秋絵が住むマンションがある閑静な住宅街に入っていった。
「わぁ!秋絵先輩、こんないい所に住んでるんですかぁ!?いいなぁ!」
「ホント、すごいいい所ですね。」
秋絵が住むマンションに着いた三人、果歩と知子は驚きの声をあげた。
秋絵が住んでいるのはかなり立派なマンションだった。
そこは普通の大学生はもちろん、働いている若い社会人でも住める人は少なそうな家賃の高そうなマンションだった。
「両親が勝手に用意した部屋なのよ・・・セキュリティがしっかりしてないとだめだってうるさくって・・・。学生でこんな所に住んでるなんて逆に恥ずかしいわ・・・。」
「え~でもうらやましいです。私もこんな所に住んでみたいなぁ・・・。」
三人はマンションに入りエレベーターに乗って秋絵の部屋がある階に向かった。
「わぁ・・・すてきな部屋ですね、インテリアもオシャレですし・・・。」
秋絵の部屋にあげてもらった果歩と知子はまたも驚きと羨ましそうな声をあげた。
「なんだか、できる女性の部屋って感じねぇ・・・。」
たくさんの難しそうな本が並べられた本棚を見て知子は言った。
秋絵の部屋は、いわゆる女の子らしいかわいい部屋ではなく、シンプルでシックなデザインのインテリアで、広々とした部屋、特にキッチンは立派なもので、ちゃんとしたオーブンまで付いていて、何を作るにも不便はなさそうだ。
「それじゃ私、料理仕上げちゃうから、知子ちゃんと果歩ちゃんは座って楽にしてて。」
「あ、私も何か手伝います!」
こうして果歩の誕生日会は始まった・・・・。
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