「わぁ、おいしそう~。やっぱり秋絵先輩料理上手なんですねぇ!」
テーブルの上に色とりどりの料理が並ぶ。
フルーツトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ
お酒にもよく合う豚のリエットや鶏レバーのパテ
ルーコラのサラダ
魚のカルパッチョ
ボローニャ風のミートソースのペンネ
秋絵は得意のイタリア料理を前日から仕込んで当日仕上げるという手の込みよう。
そのかいあってか、果歩と知子からはおいしいおいしいと、絶賛だった。
「ほんとおいしいです、私の買ってきたワインにもよく合う。」
「そう言ってもらえると作ったかいがあるわ。」
「やっぱり秋絵先輩のこと尊敬しちゃいます、私も料理できるようになりたいなぁ。」
「じゃ今度はいっしょに作ろうか、このくらいの料理ならちょっと練習すればすぐ作れるようになるわよ。」
「え~いいんですか?わぁ、こんな料理作れるようになったら自慢できますよね。」
「果歩って意外と不器用だから、秋絵先輩、教えるの苦労しますよぉ。」
「もぉ~知子ちゃんに言われたくないよぉ。」
「私は食べる飲むが専門なの!」
しばらく話は秋絵が作った料理に集中していたが、女の子が三人集まったのだ、しだいに話は恋愛話に切り替わっていった。
まぁ恋愛話と言っても話題のほとんどは果歩と友哉のカップルの事で、秋絵と知子が果歩に聞きたい事を質問して、果歩がそれに答えるというかたちだ。
知子が
「友哉君、今頃金髪のおねえさんと浮気してるかもよぉ」
とからかったり、とにかく果歩は毎度の事だが、いじられ役だった。
「でもさぁ、果歩ってなんで友哉君好きになったの。言っちゃ悪いけど友哉君って外見は果歩のタイプじゃないわよねぇ?」
「ん~なんでだろう・・・?なんか気づいたら好きになってたの。友哉ってあぁ見えてしっかりしてるから・・・。頼りになるっていうか・・・。」
果歩の正直な言葉だった、外見がタイプではないというのは確かにそうだが、今の果歩にとってはそんな事は重要ではなく、とにかく友哉の事を好きというのは確かな気持ちだと思ったのだ。
「フフ・・・いいじゃない、男は外見より中身って言うし。・・・ところで、外見はタイプじゃないって言ってたけど果歩ちゃんは見た目だけならどんな人がタイプなの?」
「ん~外見ですかぁ・・・ん~どうかなぁ・・・」
少し考え込んでいる果歩を見て知子は笑みを浮かべて
「果歩は逞しいマッチョの人がタイプなんだよねぇ!友哉君とはまったく逆のタイプ。」
「え?私そんな事言ったことないよぉ。」
果歩は少し顔を赤くして慌てて言った。
「このまえお店でお酒飲んでる時言ってたじゃない、果歩覚えてないの?」
「ん~もう・・・そういう記憶だけはしっかり残ってるんだからぁ・・・。」
困ったような顔をする果歩。どうやらお酒を飲みながらそう言った事は果歩も覚えていたようだ。
「へぇ・・・それじゃ果歩ちゃんよかったわね、トミタスポーツはお客さんもスタッフも逞しい人ばっかりだし。」
秋絵もからかうように笑みを浮かべて果歩に言った。
「え~秋絵先輩までそんな事言わないでくださいよぉ!」
「ハハッ、じゃもしかして浮気するなら果歩のほうがしちゃうかもねぇ!」
「もう・・二人とも酔っ払ってるぅ!・・・・・・・あ・・・電話・・・」
♪~♪~♪~♪~
ふと果歩のバックの中の携帯の着信音が鳴った。
指定設定してある着信音を聞いて果歩にはすぐこれが誰からの電話なのかわかった。
果歩は携帯をバックから取り出した。
「・・・友哉からだ。」
携帯のディスプレイには友哉の文字が。それを見た果歩の表情は実にうれしそうだ。
「果歩ちゃん、隣の寝室の部屋使っていいわよ。私たちのことは気にしないでゆっくり話しておいで。」
「あ、すみません、ありがとうございます。」
秋絵に寝室に案内された果歩。寝室もやはり立派なつくりで、中央には大きなベッドが置いてあった。
「わぁ・・・大きなベッド・・・。」
「ベッドに座っていいからね、それじゃごゆっくり・・・フフ。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
秋絵が部屋から出て行った後、果歩は電話のボタンを押した。
「もしもし、友哉?・・・うん・・・今ね、秋絵先輩の部屋でね・・・・・・うん・・・・」
果歩は若干浮かれ気味な様子で友哉との会話を楽しんでいるようだった。
「うん・・・じゃあ・・・うん・・・友哉も身体には気をつけてね・・・うん・・・私も・・・うん・・・それじゃあね・・・。」
電話を切った果歩は実に幸せそうな表情をしていた。
電話は30分くらいだっただろうか、国際電話は割高であったし節約を心がけている二人、そう長電話はできない。
それに気にしなくていいよとは言われたが、自分の誕生日会をしてくれている秋絵と知子をあまり待たせるわけにはいかなかった。
(友哉・・・フフ、元気そうでよかったぁ)
果歩は心の底からそう思い、また友哉の声を聴いてホントに涙が出そうになるほどうれしい気持ちになった。
きっと自分では気づかないうちに友哉と会えない寂しさを心に溜め込んでいたのかもしれないと、果歩は思った。
「んしょ・・・それにしても大きなベッドだなぁ・・・ん?あれ・・・」
電話も終わり、座っていたベッドから立ち上がった果歩は広い寝室とベッドをあらためて見渡していた。
ふと、ベッド横にあった棚に目がいった果歩、そこには横に長い長方形の紙箱が、蓋が開いた状態で置いてあった。
その棚の一番上にあるのはその箱だけだったので、なんとなく果歩の目に止まったのだ。
果歩は特に何も考えずその棚に近づき、箱の中をそっと覗いた。
中には正方形のビニール製でできた袋がいくつか束になっていて、中に入っているであろう円形のものが少し浮かびあがっている。
それが何であるのか果歩にもすぐわかった。
箱には
・・・うすうす・・・BIGサイズ・・・60個入り・・・
などの文字が書かれていた。
「・・・これって・・・あれ・・・だよね・・・?」
果歩はボソっとそうつぶやいた。顔を赤くして少し動揺した様子の果歩。
(この部屋にあるってことは、これ・・・秋絵先輩が使ってるって事・・・かな・・・?)
心臓の鼓動がドキドキっと大きく早くなっていることに気づく果歩。
(だ・・・ダメだよ・・・何やってるの私・・・人の部屋のもの勝手に見ちゃだめじゃない・・・。)
そう自分に言い聞かせて、しばらく深呼吸をして心を落ち着かせると、果歩は部屋のドアに向かった。
棚に置いてあったコンドームの箱、60個入りと書いてあったが、その中身はほとんど空で5個くらいが束になって残っているのみであった・・・。
さらに大量の破られたコンドームの袋と、もう一箱同じ紙箱が空の状態で棚の横にあったゴミ箱に捨てられていた事も、果歩は帰り際に偶然目に付き、気づいてしまっていた・・・。
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