官能小説 人妻 吉井香苗(14)

祐二 
「それで?昨日はどうだったんだ?」

香苗 
「……え?」

祐二 
「昨日の食事会の事だよ、来たんだろ?恭子さんの彼氏も。」

翌朝、徹夜の仕事から帰ってきた祐二は、香苗が用意しておいた朝食を取りながらそう聞いてきた。

香苗 
「うん……まぁ、楽しかったわよ。」

祐二 
「ん?なんだよ、楽しかったって言う割には浮かない顔してるなぁ。恭子さんの彼氏はどんな人だったんだ?」

香苗 
「う~ん…それがねぇ、ちょっと想像と違ったんだよねぇ。」

祐二 
「へぇ、どう違ったわけ?」

香苗 
「なんて言うかなぁ、こう真面目で堅そうな感じじゃなくて、どちらかと言うと活発でスポーツマンタイプ?みたいな感じだったのよ。」

祐二 
「ふーん……いいじゃないか、真面目な恭子さんの相手ならそういう人の方が結構お似合いなんじゃないか?」

香苗 
「ん~でもなんかねぇ……。」

活発でスポーツマンタイプというだけならそのイメージは良いはずなのだが、あのセクハラ紛い言葉やイヤらしい視線を向けてくる男性としてのイメージがある香苗は、中嶋に対する印象は決して良くない。

しかし香苗は自分が中嶋にセクハラ紛いの言葉を掛けられた事を、なぜか祐二には言えないでいた。

祐二 
「仕事は?仕事は何してるって?」

香苗 
「え?えーっと……確か株のトレーダーをしてるって。」

祐二 
「トレーダー?企業の資産運用とかの?」

香苗 
「ううん、個人でやってるんですって。」

祐二 
「はぁ?個人で株のトレーダーって、株で生活してるって事か?」

香苗 
「う~ん、たぶんそういう事じゃないかなぁ。」

祐二 
「それは珍しいなぁ……珍しいっていうか普通じゃないよな、そんなのギャンブルみたいなモノだろ?」

香苗 
「私もそう思ったけど、それで暮らしていけるのかしらねぇ。」

祐二 
「なんか意外だなぁ、恭子さんがそういう生活してる人と付き合ってるなんて。」

香苗 
「うん、意外だよね……。」

仕事は何かと聞かれて〝株で生活してます〟なんて、一般的にあまり良い印象はない。
昨日は仕事の話をそれ程深くまで聞かなかったが、その事も香苗が中嶋に対して疑念を抱く要因になっている事は確かだった。

香苗 
「旦那さんに宜しくって言ってたわ。今度は4人で飲みましょうって。」

祐二 
「あぁ、まぁ俺としては会って見ないとどんな人か分からないし。あ~でも俺仕事忙しくなりそうだからしばらくは無理かもなぁ。」

祐二の話では、職場で少し厄介な事が起きて、しばらく残業や出張が多くなりそうだという事だった。

近頃責任ある役職についたばかりの祐二。やっと仕事にも脂がのってきて、男としては忙しいけれども働き甲斐のある時期でもあった。

香苗 
「そっかぁ…でも無理しないでね祐二。」

祐二 
「ハハッ大丈夫だって、まだまだこのマンションのローンもあるしな、頑張り時さ。」

香苗 
「昨日の夜ご飯はコンビニでしょ?これから残業長引きそうな時はお弁当作るから言ってね、栄養ある物食べないと。」

祐二 
「あぁ、ありがとう……なんだか妙に優しいなぁ香苗、何かあった?」

香苗 
「べ、別に私は主婦の仕事をちゃんとしたいだけよ、祐二にはいつも働いてもらってるんだし。」

実は香苗は普段あまり表には出さないが、仕事で頑張っている祐二に対して、自分の事で心配を掛けないように心掛けていたりした。それが夫を支える妻としての正しい姿勢だと思っていたからだ。

だから香苗は結婚してからは、少々の悩みなどは自分の中に閉じ込めて1人で消化していたり、少しばかり体調が悪くても祐二には気付かれないように笑顔を作っていたりしていた。

そのため一度だけ、香苗が風邪を患っていた時に、祐二にそれを隠して無理に家事をしていたためにダウンしてしまった事があり、その時は祐二に凄く怒られた。夫婦なんだから変な気は使わなくていいと。

そういうところは香苗の長所でもあり短所でもあるのだが、ある意味それが根は優しくて真面目な香苗らしい所でもあった。

香苗 
「祐二、少し睡眠摂った方がいいんじゃない?寝てないんでしょ?」

祐二 
「あぁ、そうだな、もう眠いわ。香苗はいいのか?昨日は遅かったんだろ?」

香苗 
「え?わ、私は大丈夫よ!昨日は結局祐二と電話した後すぐにお開きになったし。」

正直に言えば香苗も眠かった。

実は昨日はベッドに入ってからも殆ど眠れなかった香苗。

その理由は、とても香苗の口から祐二に言えるようなものではない。

そう……昨日ベランダで隣の音を盗み聞きをした後、どうしようもなく熱くなってしまっていた身体を香苗は、ベッドの中で自分で慰めていたのだ。

香苗にとっては久しぶりの自慰行為であった。

思い出すだけで、香苗の頬はポッとピンク色に染まる。

祐二 
「ん?どうしたんだ香苗?顔赤いけど。」

香苗 
「……え?ううん!なんでもないよっ。」

恥ずかしい……余計な心配を掛けたくない……いや、それ以前の問題として香苗がそれを祐二に言える訳がないのだ。

なぜなら香苗は昨日の夜、祐二以外の男性の事を考えながら自分を慰めてしまったのだから。

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