「え~スゴ~イ!ホントにいい部屋じゃん!」
「だろ?ここ昼間は俺の自由に使えるからよ。」
微かに聞こえる、男女の声。
せっかくよく眠っていたのに、どうしてこんなに小さな声が耳に入ってきてしまうのだろう。
「いいなぁ私もこんな部屋に住んでみた~い。」
「ハハッだったら金持ってる男でも捕まえるんだな。」
どこかで聞いた事のある声。
香苗
「……」
まだ半分眠りの中、ボンヤリとした頭で香苗はその声が誰のものかを思い出そうとしていた。
……祐二……じゃない……祐二の声はもっと安心できる声だもの……
……じゃあ誰なの?……何……この感じ……
なぜかこの微かに聞こえる声に集中してしまう香苗。
香苗
「……ん……」
そして香苗はその気に掛かる声のせいでついに目を覚ましてしまう。
そっと目を開け、ベッドから顔を上げる香苗。
時計を見るとまだ昼前、あと1時間くらいは眠っている予定だったのに。
「へぇ~その人トミタで働いてるんだぁ、じゃあエリート?よくそんな人をモノにできたね。」
「そういう女程普段から色々と我慢して溜め込んでるからな。金持ってるだけじゃなくてそいつ結構いい身体してるしよ、最近の女の中じゃ1番だな。」
「え~じゃあ私はぁ?ていうか英治って最低な男ね、フフッ……」
声は微かに窓の外の方から聞こえる。
香苗
「……中嶋さんの……声…?」
隣のベランダで話をしているのか、それとも窓を開けたまま大声で話しているのか。このマンションはそんなに壁が薄くはないのだから。
声は中嶋のものともう1人、女性の声が聞こえるが、それは声質からして明らかに恭子のものではないように思えた。
……恭子さんは仕事のはずなのに、どうして中嶋さんがいるの……
そんな事を考えながらゆっくりとベッドから起きて寝室からリビングの窓の近くまで歩いていく香苗。
無意識の内にもっとその声がハッキリと聞こえる場所へと向かってしまう。
……この女性の声……誰なの?
初めて聞く声だし、それにその言葉使いなどから考えると随分と若い女性なのではないかと香苗は思った。
香苗
「……。」
香苗は窓の鍵をゆっくりと下ろして、窓を音がしないようにそっと数cmほど開けた。
寝る前にもう中嶋の事は気にしないようにと心に決めていたはずだったのに、まだ眠りから覚めたばかりの香苗は、ボンヤリとしたままそんな事は考えいなかったのかもしれない。
ただ、なんとなくこの女性の声が気になっていたのだ。
窓を開けた事で声はよりハッキリと聞こえるようになった。
中嶋
「まぁ正直恭子にも最近飽きてきたけどなぁ、でもアイツ金持ってるからなかなか捨てれねぇんだわ。」
「フフッ…ホント悪い人。」
中嶋
「へへ……でもそんなお前も俺に夢中なんだろ?」
「自惚れないでよ、英治とはこっちだけ……」
中嶋
「そんなに俺のコレが好きか?」
「……うん……」
中嶋
「彼氏のよりもか?」
「……うん……だって、英治って凄過ぎるんだもん。」
中嶋
「今までの男達と比べてもか?」
「うん…ダントツで……だから……ねぇ…」
中嶋
「おいおい、もう我慢できねぇのかよ、仕方ねぇなぁ。」
いつの間にか先日と同じように隣から聞えてくる声を盗み聞きしてしまっている香苗。
窓の近くにしゃがみ込んで耳を少し開けた窓の外へと向けている。
胸がドキドキと高鳴って、先日の記憶が蘇ってくるようだった。
……何…してるの…恭子さんの部屋で……
「うん……我慢できないよ…だって英治とは久しぶりだし……」
中嶋
「ずっと彼氏ので我慢してたのか?」
「もぅ……彼氏の事は言わないで……」
中嶋
「俺の代わりをできる奴はそうはいないからなぁ。」
「……なんかもう別れようかぁって最近思ってるし……」
中嶋
「SEXに満足できないから別れますってか?エロい女だなぁお前も。」
「……だってぇ……」
中嶋
「フッ…でも別れるなよ、これは俺の命令だ。人の女じゃないとあんまり興奮しないんだわ俺。」
「もぅ……ホント変態だよね、英治って……」
中嶋のその言葉を聞いて香苗は胸をつかれたような思いになった。
香苗
「……」
……人の女……
自分の事を言われた訳でもないのに、香苗がその言葉に反応してしまうのは、『人の女』という条件に既婚者である自分は該当してしまっているからかもしれない。
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