祐二
「やっぱり、何か悩みでもあるのか?」
香苗
「……え?」
祐二がそう心配そうな顔で言ってきたのはある日の夜の事。
その日も祐二は夜遅くに帰ってきて、遅い食事をとっていた。
祐二
「さっきからため息ついたり、ボーっとしてたり。香苗最近そういうの多いぞ?」
香苗
「え……そ、そうかな…別に悩みとか無いし、大丈夫だよ。」
そう祐二に応えた香苗だったが、もちろんそれは本心ではなかった。
あれから数日間、昼間は毎日隣からの音や声に悩まされ続けていた香苗。
自分の身体に溜まっていくフラストレーション、やり場のないモヤモヤとした気持ち。
日々変わる女性の喘ぎ声に、中嶋はいったい何人の女性と関係を持っているのだろうと呆れていた香苗だったが、だからと言ってそれを聞くのを止める事はできなかった。
なぜ止める事ができないのかは、自分でもよく分からない。
最初は罪悪感を感じていたものの、段々と日常的になってきてしまった盗み聞きという行為。小さな罪を繰り返す内に自然とその罪悪感は少しずつ薄れていった。
それどころか最近の香苗は、むしろその声や音を積極的に聞こうとするような行動を取り始めていたのだ。
そしてその行動は徐々にエスカレートしていく。
今日は恭子の部屋側の壁に凭れ(もたれ)ながら窓際に座り、窓を少し開けて盗み聞き始めてしまった香苗。
やはり今回も中嶋達は窓を開けながら行為に及んでいたようで、窓を開けた事によってその声や音は格段に聞き取りやすくなった。
ヌチャヌチャという粘着質でリアルな音。
サディスティックに女性を責め立てる中嶋の声。
そしてあられもない喘ぎ声を発する女性。
中嶋
「ここか?お前ここが好きなんだろ?」
「ァァハァ!ハイ……ああ……スゴイィ!ァ…アッアッアッ!!」
中嶋のSEXは相変わらず激しいものだった。
パンパンッ!と、肉と肉がぶつかりあう音。
ベッドが壊れるのではないかというくらいに軋む音。
その激しい音にこちらまで震動が伝わってくるような錯覚さえ覚える。
そして、今日の女性も中嶋のその激しい責めによって絶頂へと導かれるのだった。
「ァアッアッアッンッンッ!!はあああッ!イクッ!イクイクイク!!ンあああ!!」
その声を盗み聞きながら、香苗も身体を熱くする。
壁一枚挟んで、きっと数メートルも離れていないであろう場所で行われている未知のSEXに、香苗は引き込まれていき、そして興奮を感じていた。
今となっては盗み聞きという行為に対する少しの罪悪感も、もはやその興奮をより増大させるスパイスになるだけだった。
いけない事をしている。こっそりといけない事をしている。その意識自体が、香苗の盗み聞きのという行為の依存性を高める原因になっていたのだ。
いつもの事だが、隣の行為が終わった頃には夕方近くになっている。あっという間だ。いつも集中してしまっているからか、香苗にはその時間が凄く短く感じられた。
香苗
「…ハァ………」
終わった後洗面所へ行き鏡で自分の顔をみると、そこには頬をピンク色に染めて目を潤ませている自分がいた。
……これが…私……?
イヤらしい顔をしてる。香苗は自分でそう思った。
鏡に映っているのは、普段の自分とは明らかに違う、発情した女だった。
……祐二とする時、私こんな顔してるのかな……してない気がする…だって……
今まで祐二とする時にこれ程までに興奮した事はない。
そんな事を考えながら、香苗は服の上から自分の下腹部をそっと触った。
香苗
「……」
今までになかった程、疼いている下腹部。
その疼きは日に日に増している気がするし、今日は身体が熱くなったままなかなか治まってくれない。
香苗
「……はァ……」
香苗は我慢をしている。
隣で中嶋が繰り広げている淫らな世界に引き込まれながらも、それでも香苗はあの壁を越えるような事はしなかった。
その壁とは、自慰行為の事である。
今香苗がそれをするとしたら、中嶋の事を想像しながらする事になってしまう。
そう、祐二を裏切る事に。
ここまできても香苗自身がそれを許させなかったのは、やはり祐二に対する愛があったからだ。
しかし、なんとか気丈にその一線を越えないようにしてきた香苗の我慢も、そろそろ限界を迎えようとしていたのであった。
それはある意味当たり前だ。日々解消されず溜まっていくものは、いつか決壊を迎える。
そう、真面目な香苗も、1人の人間であり、性欲も持つ女性なのだから。
その日の夕方、なかなか冷めてくれない火照った身体をなんとか治めようと、シャワーを浴びる事にした香苗。
……早く正気に戻らないと…晩御飯の準備もしないといけないし……
服を一枚一枚脱ぎ、最後の下半身に付けた下着だけの姿になった香苗は、その最後の一枚にも手を掛け、ゆっくりとそれを下げていった。
しかしその途中で香苗は思わず下着を下げる手を止めた。
香苗
「……ハァ…やだ…こんなに……」
一番大事な部分に触れていた下着の布が離れる時、アソコと布の間に香苗の愛液がトロ~っと糸を引いたのだ。
香苗は性的快感を欲して涎を垂らしている自分の性器を見た瞬間、頭の中で何かが切れるのを感じた。
香苗
「ハァ……ハァ……」
香苗の我慢はその時、決壊を迎えたのだ。
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