全身が強張って、身体が動かない。
ここ最近の香苗にとって、ずっと声と妄想の世界だけに登場していた男が、今目の前に現れたのだ。
自分の妄想の中で膨らみ続けていたその男のオーラに、香苗は一瞬にして包み込まれ、固まってしまった。
緊張とは違う、何か心臓をガシッと掴まれてしまったかのような気持ち。
香苗
「……」
中嶋
「……ん?」
恭子の部屋から出てきた中嶋は、開けたドアのすぐ目の前に人がいるのに気付き、一瞬少し驚いたような表情を見せた。
しかしそれが隣に住む香苗だと分かると、中島の表情はすぐにあのニヤっとした笑みに変わる。
中嶋
「あれぇ?奥さん、どうしたんですか?そんな所に突っ立って。」
香苗
「ぇ……ぁ……」
中嶋の声だ。
いつも壁越しにこっそり聞いていた中嶋の低い声が、胸の奥まで響いて身体の中にまで入ってくる。
その瞬間、香苗は自分の身体が急激に熱くなっていくのを感じた。
ドクドクドクドクドク……と、身体の芯から血液が沸騰していくかのように一気に熱くなっていく。
中嶋のオーラと低い声に自分の身体が侵食されていく、そんな感覚だった。
香苗
「…ぁ……あ、あの……えっと……」
パニック状態。
中嶋に今何を聞かれたのか、自分が今何を答えればいいのか分からない。
それどころか、どうやって声を出せばいいのか、どうやって呼吸をすればいいのかさえ香苗には分からなくなっていた。
それぐらいに動揺していたのだ。
中嶋
「ん?どうしたんですか?顔が真っ赤ですよ奥さん。」
香苗
「い……いえ……あの……」
額から汗がジワァっと噴き出してくる。
物凄くアルコール度数の高い酒を飲んだときのように、香苗の身体はある種の反応を示していた。
そう、頭で感じて起きる反応ではなく、つま先から脳髄までの全身が、香苗の意思とは関係なく大きな反応を示している。
そしてそれはもちろんアルコールのせいでなく、明らかに目の前にいる男、中嶋に対して香苗の全身が反応を示しているのだ。
……ハァ……ハァ……ハッ…ハァ……ハァ……ハァ……
香苗は中嶋の顔を見る事ができない。香苗は顔を下に向け、その視線は中嶋の手をジッと見つめていた。
中嶋のゴツゴツとした男らしい大きな手、太い指。
中嶋
「……だ、大丈夫ですか?」
……ああ……何これ……熱い……身体が熱い……
なんだか身体が熱くなると同時に聴覚が急激に狭くなっていくようだった。
外の街の音などは全く聞えなくなり、香苗の身体を熱くさせる中島の声だけがダイレクトに身体に入ってくる。
香苗
「……ぁ…あの……ハァ……」
一気に火照っていく身体の中で、香苗は下腹部でいつも感じていた、あのモヤモヤムラムラとした感覚が身体の中から一気に溢れ出て決壊してしまうような怖さを感じた。
そしてジンジンと身体の熱がその下腹部へと集まってくる。
……ハァ……ハァ……ハァ……
香苗のアソコが、ヴァギナが、尋常じゃない程に疼いている。
……イヤ……どうなってるの……私の身体……ああ……もうダメ……
中嶋
「体調でも悪いんですか?」
そう言って中嶋が香苗に一歩近づいた瞬間、香苗はハッと何かに気付いたようにして口を開いた。
香苗
「ぇ……ぁ……ご…ごめんなさいッ!」
そう声を発すると、香苗は慌てた様子で自分の部屋まで駆けて、そそくさとドアを開いて中へと入っていってしまった。
香苗が居なくなった場所で呆然と立っている中嶋。
中嶋
「……なんなんだ?今の……。」
中嶋は香苗の自分に対する振る舞いに、不思議そうな顔をしていた。
ごめんなさいとは、何を謝ったつもりだったのか。
中嶋
「なんであんなに慌ててたんだ?」
先程の香苗の様子を見れば当然浮かんでくるような疑問だ。
香苗の様子は明らかに不自然であり、変だった。
火照った顔、潤んだ瞳、少し開いた口。
今考えて見るとあれは明らかに体調が悪いといった表情ではない。
まるであれは……女のあの時の表情……
中嶋
「……。」
少しその場で考え込むように腕を組む中嶋。
頭の中で先程の香苗の表情を思い出す。
そして中嶋はその香苗の表情から、すぐにある事を察した。
それが分かった瞬間、中嶋の顔はニヤっとなんともイヤらしい、そして不気味な笑みを浮かべた。
中嶋
「……フッ……ハハッ、もしかしてあの奥さん……へへ…いいねぇ、久しぶりに楽しめそうだな……。」
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