官能小説 人妻 吉井香苗(30)

香苗 
「……え?出張?」

祐二 
「あぁ、突然なんだけど、来週からな。」

相変わらず仕事で忙しい日々を送っていた祐二。

毎日帰りが遅いのはもう当たり前にになっていたが、今度はそれに加え出張だという。

香苗 
「来週から?何日くらいの出張なの?」

祐二 
「たぶん1週間くらいかなぁ。地方の工場で色々とやらないといけない仕事があってさ。」

香苗 
「1週間も……。」

香苗は思わずそう小さく声を漏らした。

祐二 
「ごめんな、最近。構ってやれなくて。」

香苗 
「えっ?ご、ごめん、そんなつもりで言ったわけじゃないけど……祐二は一生懸命お仕事頑張ってるんだもん。でも、あんまり無理しないでね。」

祐二 
「うん。……そうだ、この忙しさが一段落したら、久しぶりにどこか旅行にでも行くか。年休でもとってさ。」

香苗 
「え~いいの?でも休みなんて取れるの?今会社色々と大変でしょ?」

祐二 
「まぁたぶん大丈夫だと思う。香苗が行きたい所に連れて行ってやるよ。」

香苗 
「祐二……ありがとう。」

香苗は祐二の心遣いが嬉しかった。

いつも祐二の優しさを感じた時、この人と結婚してよかったと思う。

香苗 
「……。」

しかし最近の香苗は、そんな幸せを感じた後、どうしても心を押し潰されるような辛い感情を抱いてしまう。

自己嫌悪。

今の自分の普通ではない精神状態に、香苗は大きな不安を覚えていた。

……絶対おかしい……こんなの私じゃない……私……正気じゃなくなってるんだわ……

香苗がこんなにも苦しむのは、祐二が1週間出張すると聞いた時、一瞬心がスーっと楽になるような気持ちを抱いた自分が居たからだ。

1週間、祐二は家に帰って来ない。晩御飯の仕度や家事に、時間を縛られる事はない。
だからその1週間は思う存分にあの世界に浸れるのではないか。

あの世界から帰ってきて、毎晩祐二の顔を見る度に辛い思いをしないで済むのだ。

そんな事を心の片隅で香苗は思ってしまっていたのだ。

香苗 
「祐二、忘れ物無い?」

祐二 
「あぁ、ちゃんとチェックしたから大丈夫だよ。」

祐二が出張に行く当日の朝。

結婚してから今まで、祐二が出張に出掛ける事は何回かあったが、1週間も家を離れるのは初めてだった。

香苗 
「食事はちゃんと栄養のあるもの食べてね、カップラーメンで済ませちゃダメよ。」

祐二 
「ハハッ、なんか母さんみたいだな。そんな事まで心配しなくても大丈夫だよ、ちゃんと食べるから。」

香苗 
「だって祐二の独身時代の食生活って酷かったもの、インスタントばっかりで……。」

祐二 
「まぁなぁ、でもお陰様で毎日香苗の手作り料理食べてるから舌は肥えちゃってるよ。インスタントじゃなくて、ちゃんと店で栄養ある物食べるよ。」

香苗 
「ホントは外食ばっかりも良くないんだけどねぇ。」

祐二 
「じゃあ香苗も付いてくるか?俺専属の栄養士として。」

香苗 
「フフッ、ホントに付いて行っちゃうよ?」

祐二 
「そんな事したら同僚にすっげぇ冷やかされそうだな。」

香苗 
「フフッ……祐二、帰ってくる日はご馳走作って待ってるね。」

祐二 
「うん。よし、じゃあ行って来るわ。」

香苗 
「気をつけてね……あ、下まで荷物運ぶの手伝うよ。」

大きなバックをそれぞれが持って、仲良さげに部屋から出る2人。

祐二 
「大丈夫だって、1人で持てるからぁ。」

香苗 
「いいのぉ!私に持たせてっ。」

祐二と香苗が部屋から出た所でそんなやり取りをしている時だった。

ガチャっという音が聞こえ、隣の恭子の部屋のドアが開いた。

香苗 
「……っ!?」

その瞬間、香苗は一瞬ドキっとして動きを止める。

恭子 
「あっ……香苗さん、祐二さん。おはようございます。」

香苗 
「……。」

部屋から出てきたのが恭子だと分かると、香苗はホッと胸を撫で下ろした。

香苗 
「お、おはよう恭子さん。」

祐二 
「おぉ、恭子さん久しぶり!……あれ?もしかして恭子さんも出張とか?」

祐二の言葉で香苗も恭子が大きなバックを持っている事に気付いた。

恭子 
「そうなんですよ、って事は祐二さんも出張ですか?」

祐二 
「えぇ、一週間程ね。お互い忙しい時期みたいだね。」

3人はそのまま共にマンションを降りていく。

話によると、恭子も1週間程の出張らしい。

祐二と恭子が
「大変だねぇ」

などと話している間、香苗は何やら考え込んでしまっているような表情をしていた。

香苗 
「……。」

祐二 
「そっかぁ、じゃあ香苗はしばらく1人ぼっちだな?」

香苗 
「う、うん……。」

恭子 
「そうですよねぇ、祐二さん居ないと寂しいですよね、香苗さん。」

香苗 
「え?ま、まぁ別にそんな……私は私で1人の時間を楽しもうかなぁ、なんてね。」

香苗はそう強がって見せる。しかしもちろん、香苗の不安は1人で寂しいからという事ではない。

もっと別の事を、この時の香苗は想像してしまっていたのだ。

……祐二も、恭子さんも居ない……1週間……

1週間。

まさかこの1週間で、香苗の人生が大きく狂わされてしまう事になるなんて、この時の香苗はそんな事思いもしていなかった。

コメント

  1. nona より:

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    メンメン様、今晩は。

    お返事ありがとうございました。とても嬉しかったです^^

    「富田」って名前は、スポーツマンっぽさはあまり感じなかったんですけど、大手企業の御曹司の名字としてリアルに存在していそうだな、と思いました。

    でも今思えば、スポーツマンらしく感じなかったことが実際の富田さんとのギャップとなって(私の中で)、逆にドキッとさせられる要因の一つだった気がします。

    私はメンメンってお名前、好きです。
    メンメン様にはずっとメンメン様でいて欲しいです!!

    私も、自分の小説を掲載しているサイトでの管理人名を、悔いることがたまにあります。

    この名前失敗したかなぁって思ったりします。

    でも、サイトを開設した時に決めた名前なんだよね…って考えると、その時の気持ちを忘れたくない、残しておきたいって思いが沸いてきて、結局は今の名前ままでいいんだ、って結論になります。

    メンメン様も、どうか名前を思いついた時の気持ちを忘れないでいて欲しいです。

    私も、「メンメン様」って名前に出会えた時の気持ち、忘れたくありません。

    長文失礼致しましたm(_ _)m

  2. メンメン より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    nonaさん、お返事ありがとうございます。

    nonaさんに〝メンメン〟という名前を好きと言って頂けてなんだか嬉しかったです。

    思い返してみれば、ネットの世界で僕が初めて〝メンメン〟と名乗ってからもう5年が経っていました。
    そうなってくると、なんだか〝メンメン〟という名前に愛着の様なものを感じてきましたし、あ~やっぱりこれからも〝メンメン〟でやっていこうという想いになりました。

    そういう事を考えるとnonaさんの言うとおり、なんだか初心に戻れますね。

    nanaさんの言葉で、大切な事に気付けたような気がします。ありがとうございます。

    今、小説の更新止まってしまっているのですが、また新たな気持ちで頑張りたいと思います。

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