香苗
「……ふぅ……。」
1つ深呼吸をしてから香苗はインターホンのボタンを押した。
中に中嶋が居る部屋のドアの前で香苗は返答を待っている。
手にはカレーが入っているタッパとサラダとフルーツが入ったタッパを持って。
最後まで迷いながらボタンを押した香苗の胸は、若干の緊張で高鳴っていた。
もしかして余計な事だったのかもしれない。
でもカレーは大量に作ってしまったわけだし、1人ではとても食べきれない。
どうしてこんな事をしているのか自分でもよく分からないが、香苗の中で、カップラーメンばかり食べていると言う中嶋が、なんだか昔の祐二と少し重なっている様な感じがして、ほっとけなくなったのかもしれない。
とにかく香苗は世話好きというか、そういう性分なのだろう。
香苗 「……。」
しかしインターホンで呼んでから少し経つが、部屋の中からの反応が無い。
……どうしたんだろう……もしかして出掛けちゃったのかなぁ……
2分程経過してから、もう一度ボタンを押してみたがやはり反応は無い。
香苗
「……ふぅ……留守かぁ……。」
そう呟き諦め、香苗が自分の部屋に戻ろうとしたその時だった。
中嶋 『は~い、どちらさん……あっ!奥さん!』
小さなスピーカーから中嶋の声が聞こえた。
インターホンに付いているカメラで香苗の顔を確認した中嶋が、威勢のいい声で部屋に戻ろうとした香苗を呼び止める。
香苗
「ぁ……あの……吉井です……あの……」
中嶋 『ちょ~っと待っててくださいね、今出ますから。』
香苗
「は、はい……。」
一度居ないと思って、せっかく料理を作ったのに残念だったという気持ちと、緊張が切れて少しだけホッとしたような気持ちが芽生えていただけに、中嶋が居たのだと分かるとまた妙に緊張感が増してくる。
香苗
「……。」
ドアを開けて中嶋が出てくる姿を思わず想像してしまう。
中嶋は自分が持っているものを見て、どんな反応をするのだろう。喜んでくれるだろうか。
それとも、またあの持ち前のネットリとした視線で身体をジロジロと見てくるのだろうか。
しかしこれまでの事を考えると、恐らく中嶋の女性を見る目というのはいつもああいった感じなのだろうから気にする事はない。
友人である恭子の恋人が隣の部屋に1人で居て、カップラーメンしか食べる物がないと聞いたから、自分はごく自然な善意でその人に料理を持ってきただけなのだ。
今まで恭子にだってそうしてあげた事はあるし、以前隣に住んでいた人にもよく料理を持って行く事があったのだから。
いつものように笑顔で料理を渡し、さっさと部屋に戻ればいいだけの話。何も緊張する事なんてない。
香苗はそう自分に言い聞かせて中嶋が出てくるのを待っていた。
香苗
「……。」
ドタドタとして少し慌てているような足音が近づいてくる。
……来る……
そしてそのドアはガチャっという音と共に勢いよく開いた。
中嶋
「いやぁお待たせしてすみません!ちょっと風呂に入ってたもんですから。」
香苗
「……えっ!?キャァッ!!!」
しかし部屋から出てきた中嶋の姿を見た瞬間香苗は、思わず悲鳴に似た声を上げてしまった。
そして身体ごと顔を横に向け、視線を中嶋から逸らす。
中嶋は香苗にとってあまりに衝撃的な姿で現れたのだ。
中嶋
「あ~すみません、慌ててできたもので、へへっ……。」
自分の姿を見てすぐに拒否反応を示した香苗に軽い感じで謝りながら中嶋は笑っていた。
香苗
「あ……あの……困ります……そんな格好で……。」
顔を真っ赤にする香苗。しかしそれは仕方の無い事かもしれない。
なんと中嶋は腰にバスタオルを巻いただけの、ほぼ裸に近い格好で香苗の前に出てきたのだから。
中嶋
「ハハッ、そんな奥さん、今時上半身裸の男の姿なんて珍しくもないでしょう。結構純情なんですねぇ。」
香苗
「そ、そんなの……普通服着るじゃないですか……。」
香苗は依然赤い顔のまま目を逸らして、そう言い返した。
中嶋
「そうですかねぇ、俺っていつも部屋の中じゃあんまり服着てないですから。いやでも、驚かせてしまってすみません。」
香苗
「……」
言葉では謝っていてもなんら反省の色がない様子の中嶋に、香苗は言葉を失っていた。
中嶋
「で?どうしたんです?何か用があったんじゃないですか?」
香苗
「……ぇ……あっ……あの……これ……。」
中嶋の問いに、香苗は顔を背けたまま手に持っているものを中嶋の方へと差し出した。
中嶋
「ん?これは……?」
中嶋は不思議そうな顔をしながら香苗の手から料理の入ったタッパを受け取る。
香苗
「あの……お口に合うか分かりませんけど……。」
香苗の言葉を聞いて中嶋はタッパを開けて中を確認した。その瞬間、中嶋の顔は一段と嬉しそうな笑顔に変わった。
中嶋
「おお!カレーじゃないっすか!これ奥さんが作ってくれたんですか?俺のために?」
香苗
「……ハイ……あ、じゃなくて……ちょっと作り過ぎちゃって……それで……」
中嶋
「マジっすかぁ、うわぁ美味そうだなぁ、ありがとうございます。」
香苗
「……ハ、ハイ……ぁ……」
中嶋の声があまりに嬉しそうにしているから、思わずもう一度中嶋の方を見てしまった香苗だったが、再度その上半身裸の姿を見て慌てて目を逸らす。
中嶋
「へぇ、こっちはサラダかぁ美味そうだなぁ、こんなまともな食事は久しぶりですよ。」
香苗
「あの、お口に合わなかったら捨ててもらっても結構ですので……。」
中嶋
「ハハッ何言ってるんですか、こんな美味しそうなものを俺は残しませんよ、絶対に。しかも奥さんがせっかく作ってくれたものなんですから。」
香苗
「そ、そうですか……それなら良かったです……じゃあ私はこれで……。」
香苗は顔を背けたままそう言うと、突然そそくさと自分の部屋へと戻って行ってしまった。
中嶋
「えっ?あ、ちょ……」
中嶋が何か言う前にドアを開けて部屋に入って行ってしまった香苗。
中嶋
「……。」
中嶋からしてみれば、その香苗の様子は明らかに不自然なものであった。
しかし慌てた様子で部屋へと戻って行くその香苗の姿を見て、中嶋の口元はニマァっとイヤらしい笑みを浮かべるのであった。
中嶋
「へへ……やっぱりあの奥さん、いいねぇ……そろそろ仕掛けてみるかぁ……フフッ…。」
コメント
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いつも、ホントに言いたい放題ですみません(≧∀≦;)
前回コメントの返事ですが…
たぶん…他の読者の方は、様子見なんじゃないでしょうか?
物語が展開していくと、きっとコメント増えると思いますよ♪
これから動きがありそうな予感ですね♪
楽しみにしています。
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返信ありがとうございます。
今週からやっと盛り上がっていくかなぁって感じですから、ここから勝負ですね。
正直今作品はちょっと自信ないんですけど、できるだけ読者さんを引き込めるような濃厚なシーンが書けるように頑張りたいと思います。
そのためにはやっぱり書いていて自分も盛り上がってくるような感じじゃないと駄目ですね。
気持ちを高めて頑張ります。