官能小説 人妻 吉井香苗(45)

香苗は言葉を失っていた。

……中嶋さんと……

それは香苗が隣の部屋の声を聞きながらずっと妄想してきた事。

現実ではない、別世界での話であったはずの事。

しかしそれを今、中嶋の口から直接言われたのだ。

中嶋 
「どうです?1回だけ試してみませんか、旦那さん以外の男の身体を。」

香苗 
「……な……何を言ってるんですか……そんなの……。」

できるはずない。

……私には……祐二がいる……

結婚式も挙げて、これまで幸せに暮らしてきた。

そんな事をしてしまえば、それが全て崩れていってしまう。

香苗 
「お……おかしな事言わないで下さい……だ、大体、中嶋さんには恭子さんがいるじゃないですか。」

中嶋 
「恭子?あぁ恭子の事なら気にしなくていいですよ。恭子は知ってますから。」

香苗 「知ってる……?」

中嶋 
「俺がこういう男だって事をですよ。」

香苗 
「そんな……そんなのおかしいですよ……。」

中嶋 
「何がおかしいんです?価値観は人それぞれ、男女関係もそれぞれじゃないですか。」

香苗 
「……だけど……」

香苗には全く理解できない事だった。

いやもちろん実際学生時代などでも浮気癖のある知人はいたが、その時から香苗はそういう人達の価値観が理解できなかった。

恋人ではない人と身体の関係を持つなんて全く理解できない事。

だから香苗はずっとそういった人間と世界からは距離を置いて生きてきた。

そんな事をしたら自分が自分でなくなってしまう。

中嶋 
「奥さんも一度体験してみましょうよ、俺達の世界を。」

香苗 
「……私は……違いますから……私はそんな……」

中嶋 
「そんな女じゃない?よく分かってますよ、奥さんは真面目な人だ。旦那さん一筋ですもんね。」

香苗 
「……。」

中嶋 
「だけど、1日だけ別の世界を体験するのも良いんじゃないですか?別に減るものじゃないし。」

香苗 
「……そんなの……」

中嶋 
「誰にもバレませんよ。」

香苗 
「……ぇ……」

中嶋 
「さっきも言いましたがこれは俺達だけの秘密ですから、大丈夫です。」

香苗 
「……。」

中嶋 
「明日になればまた日常が戻ってきます。ね?少し味見するだけくらいの気持ちで。ちょっとしたお試し体験ですよ。」

中嶋は香苗の耳元で呪文のようにそう語りかける。

抵抗を止めた香苗は中嶋の腕の中で、それを聞いて少し考え込んでいる様子だった。

明日になれば戻ってこれる。そんな都合の良過ぎる中嶋からの提案が、頭の中を駆け巡り、香苗を誘惑していた。

あの世界に少し足を踏み入れてしまったがために中嶋に知られてしまった、香苗の痴態。

しかし後悔の念を感じている今でも、その世界が香苗の身体の奥にある、性への好奇心を刺激している事は確かだった。

一度その世界に入っても、帰ってこれる。祐二との幸せな生活も壊す事はない。

性の快楽に憧れるもう1人の香苗にとって、それはとても魅力的な事であるのかもしれない。

まさに普通ではありえない夢のような話。

しかし今の香苗は普通ではありえない話であっても乗ってしまいそうな程、冷静さを欠いていた。

中嶋 
「奥さんは今までもこれからもずっと旦那さんを愛している。それでいいんです。今日の出来事は夢だと思えばいい。」

中嶋は香苗の肩を抱いたまま、香苗の髪を大きな手でそっと撫でる。

香苗は自然と目線を上げ、中嶋の目を見つめる。

中嶋の目は、まさに獲物を狙う、飢えた猛獣のような目だった。

しかしそんな目が、香苗の女としての本能を熱くさせていた。

身体の奥から沸々と沸いてくる、欲望。

香苗 
「……夢……?」

中嶋 
「そう……夢です。夢から覚めれば、奥さんが昼間やっていた事も今晩の事も、全て消えてなくなる。」

香苗 
「……でも……」

中嶋 
「でも?」

香苗 
「でも私……あなたの事、嫌いですから……。」

自分が愛しているのは夫の祐二で、中嶋ではない。

その事を再度香苗は声に出して中嶋に伝えた。

そしてそれは同時に、香苗が自分自身に言い聞かせた言葉でもあった。

自分の心に、祐二との決して切れる事のない愛を再確認させたのだ。

中嶋 
「ハハッ、いいですよ、嫌いでも。今日は心を外しておけばいいですから。」

香苗 
「…………きゃっ……」

そう言って中嶋は香苗の身体をさらに近くに抱き寄せる。

そして片手を香苗の顎に添えて自分の顔の方へ向かせる。

中嶋 
「俺に身を委ねてくれればいいですからね。」

香苗 
「……ン……イヤ……」

中嶋 
「大丈夫です。すぐに嫌だなんて言えなくしてあげますから。」

ゆっくりと近づく二人の唇。

魅惑的な世界への扉が開いていく。

ついにその世界に入っていく自分を許してしまう香苗。

そして中嶋は、香苗の震える唇を奪った。

コメント

  1. きのこ より:

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    27日、誕生日を迎えました!!
    祝ってもらえてとっても嬉しかったのですが……彼氏はHしてくれず、そのまま寝てしまったのです!!
    この情熱はどこに向けたらいいのさ~~!(笑)
    ま、レスだからしょうがない[i:63917]
    というわけで、官能小説を覗きにきました★
    展開が気になります~(ウズウズ)

  2. メンメン より:

    SECRET: 0
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    きのこさんこんばんは。

    お誕生日おめでとうございます☆

    あ~そうでしたかぁ、それはちょっと寂しいですよねぇ。
    誕生日はやっぱ、ねぇ……燃えないと(笑)

    小説のHシーンはちょっとジリジリした感じにはなっていますけど、楽しんで頂けたら幸いです。

    今後の展開、濃厚に描けるように頑張ります!

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