官能小説 喰われる人妻 菜穂(6)

3時間程掛けてようやく旅館に到着したバス。

バスから降りた菜穂は思わずそこで大きな溜め息をついてしまった。

ずっと肩が触れるほどの距離で天野の相手をしていて疲れてしまったのだ。

それにセクハラ行為も酷かった。

髪や手を触られるだけならまだしも、上に置いてあった荷物を取ろうと席から立ち上がった時に、なんと菜穂は天野にお尻を触られたのだ。

一瞬だったけれど天野の手は確かに撫でるようにして菜穂のお尻を触った。

菜穂はさすがにその瞬間
「キャッ」

と小さな悲鳴を上げてしまったのだが、天野は
「おっと失礼」

と、あたかも手が偶然当たってしまったかのように言って誤魔化していた。

菜穂はその時の天野のニヤついたイヤらしい目を見て確信した。

この人は性的な目で私を見ていると。

OL時代もセクハラ上司というのはいたけれど、本当に嫌だった。

まだ旅行は始まったばかりだというのに、一気に気が重くなってしまった。

しかしそんな自分に、菜穂は再び言い聞かせる。

ダメよ、このくらいの事は我慢しなくちゃ。今まで智明がしてきた苦労と比べたら、こんな少しのセクハラくらい大したことないわ。我慢我慢!

バスから最後に降りてきた智明は他の社員と楽しそうに話していて、菜穂がセクハラを受けていた事には全く気付いていないようだった。


「菜穂、なんともなかった?」


「う、うん。」

智明に余計な心配はさせたくないと思った菜穂は、笑顔でそう答えた。


「智明は乗り物酔いとかしなかった?一番後ろは結構揺れてたでしょ?」


「あぁ、でも大丈夫だったよ。隣の人と結構話し込んじゃってさ、あっという間だったよ。普段忙しく仕事してるとあんまり話したりしないから、こういう場ってやっぱり貴重だな。」


「……そっか、良かったね。」

智明は新しい職場の人と上手くやっている。

やはり智明にとっても、ここの会社で働いていくのが一番良いのだと、菜穂は感じていた。

一行はその後、旅館近くの施設でいちご狩りやバーベキューなどを開催。

その間は天野からセクハラされることもなく、菜穂も智明と共にそれなりにそのイベントを楽しんでいた。

そして日が暮れる頃には旅館に入り、各自温泉で疲れを癒した後は、浴衣姿で大宴会場へ。

しかし、ここからが問題だった。


「ねぇ智明、お酌に回った方がいいかしら?」


「え?ああ、そうだな。そうした方が良いだろうな。2人で回ろうか。」


「うん。」

近藤が電話で言っていた。今回の採用は人事部だけで決まるとは限らない。お偉いさん達への印象が大事だと。

自分達にとってここは貴重なアピールの場であり、うかうかと料理を楽しんでいる場合じゃないんだ。


「おお、あなたが小溝さんでしたか。噂で聞きましたよ、とても優秀な方だって。こちらこそ宜しく。一緒に頑張っていきましょう。分からない事とかがあったら私にいつでも聞いてくださいね。」

普段しっかり真面目に働いてたお陰か、他の社員からの智明の印象はかなり良いようだった。

中には
「君なら本採用間違いないと思うよ。君のような優秀な人材をうちが見す見す逃すとは思えないし。」

とまで言ってくれる者までいた。

しかし天野部長やその周辺に居たお偉いさん達の反応は全く違っていた。

その人達は天野同様、最初は智明に全く興味がないような態度で、その視線を菜穂の方ばかりに向けてきたのだ。


「いやぁ、天野さんから聞いてはいたが、まさかここまで美人だとは。」


「本当ですねぇ、まるで女優さんみたいだ。」


「そうでしょう?私も最初は驚いたんだよ。」

ここに座っている人達がそれぞれどんな役職についているのかは分からなかったが、その中でもやはり社長の息子だからなのか、天野が一番態度がデカかった。


「正直、知り合いの芸能事務所の社長さんに紹介したいくらいだよ。」


「おお、それは良いですなぁ。会社のCMにも使って貰うってのいうのはどうですか?」


「本当に考えてもいいかもなぁ。奥さんどうですか?奥さん程の美人なら広告代理店も喜んで使ってくれますよ。」


「そ、そんな、私なんて……」


「ハハッ、謙遜する事はないですよ奥さん。もっと自信を持って、それはある意味あなたの武器なんですから。どんどん使っていかないと。」


「は、はぁ……」

あまりにも突拍子もない話で、さすがに困惑した表情見せる菜穂。


「いやしかし小溝君、よくぞこれ程の美人をものにしたねぇ。君もさぞかし優しくて良い男なんだろうなぁ。」


「い、いえそんな事は……」


「それか余程あっちのテクニックがあるのか、じゃないとただの会社員にこんな美人は落とせないだろう?ハハハッ!」


「ワハハッ、さすが天野部長、ご冗談が上手い!」

天野が繰り出す下品な冗談に回りが汚く笑う。

〝ただの会社員〟という言葉に、智明と菜穂は沸き上がってきた感情をグッと抑え込んだ。

今は我慢の時だ。


「あ~そうだそうだ。皆さん、この小溝君なんだが、実は契約社員として今働いてもらっているんですよ。」


「ほぉ、契約社員。という事は近々本採用するという事ですか?」


「えぇ、まぁまだ決まった事ではないんだが。皆さんの意見もぜひ聞きたいと思ってね。」


「我々としては天野部長が、採用したいとおっしゃるのであれば……」


「そうかい?いやでも最近は中途採用で社員が増える事にあまり良い顔をしない人間も多いだろう?」


「確かにうちは現在人手不足という訳ではないですからね。」


「最近はずっとどの部署も中途採用は断ってきましたからねぇ。これ以上増えるのは困ると。」


「うむ、そうなんだよなぁ。という事だから小溝君、残りの契約期間の内にしっかり頑張ってくれたまえよ。私はなるべく君を採用したいと思っている。ここにいる全員に君なら本採用しても申し分ないと思わせてくれ。」


「は、はい!頑張ります!」


「ささ、君も飲みたまえ。」


「ありがとうございます。」

そう言って天野を始めとするお偉いさん達は次々と智明のグラスに酒を注いでいった。

それを断れない智明は、言われるがままに注がれた酒を喉に流し込んでいた。

智明が酒に弱い事を知っている菜穂は、天野達の話に付き合いつつも、アルコールで顔を真っ赤にしている智明を心配そうな表情で見ていた。

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