「だいたい、斎藤君は私にそんな事聞いてどうするつもりなの?」
「そりゃ、もし優子さんが欲求不満なら俺が少しでも手伝って解消してあげようかなぁと思って。」
「な……や、やだぁ斎藤君……」
「どうです?俺で良かったらいつでも相手になりますけど。」
斎藤君のその言葉を聞いて、優子は顔が赤くなります。
「も、もぉ……何言ってるのよ、斎藤君、酔っ払ってるでしょ?」
「そんなに酔ってないですよ。結構冷静です。」
「冷静にそんな事言うなんて、やっぱり危険だね、斎藤君は。」
「危険な男と付き合うのも、結構楽しいかもしれませんよ。」
「……斎藤君は、もっとちゃんとした相手を探したら?ほら、さっき本当は一途だって自分で言っていたじゃない。このままずっと独身でいるつもりなの?」
「結婚の話ですか。まぁそうですね、独身の方が気楽ですし。」
「気楽だろうけど、寂しくない?」
「うーん……そりゃ俺だって寂しい時くらいありますよ。部屋で1人でいる時にそう思う事もありますし。」
「でしょ?」
「だからこの前風邪を引いた時に優子さんが来て料理とか洗濯してくれたじゃないですか、あの時俺凄く嬉しかったんですよ。」
「ウフフ、そうだったんだ。やっぱり斎藤君も何だかんだ言って人の子なんだね、寂しがり屋さんなんだ。」
「寂しがり屋かぁ……確かにそうかもしれませんね。優子さん、また俺が風邪引いたら料理作りに来てくれますか?」
「え~どうしようかなぁ、斎藤君は油断すると危ないからね~」
「そう言いながらも来てくれるんでしょ?優子さんは優しいからなぁ。俺みたいな寂しがり屋の人間をほっとけないでしょ?」
「え~なにそれ、そんな事ないよぉ。」
クスクス笑う優子。
すると斎藤君は急に真剣な顔つきになって、こう言いました。
「優子さん、俺が本気で優子さんに惚れてるって言ったらどうします?」
「え~またそんな……」
笑っていた優子も、斎藤君の表情に気付いて少し気まずそうな顔になりました。
「……こ、困るよ、そんな事言われても……」
「はっきりとは断れない感じですか?やっぱり優子さんは優しいですね。」
「優しい優しいって、そんなに褒めても何も出てこないよ?」
「だって実際優しいじゃないですか。」
「……そう……かな。」
「俺は優子さんのその優しさが……」
そしてついに斎藤君は、そこから仕掛け始めました。
「……優子さん、1つだけお願いしてもいいですか?」
「お願い?なに?」
「もう一度だけ、キスさせてくれませんか。」
その言葉を聞いて、もちろん優子は驚いていました。
「えっ、キス?」
「はい。俺、この前の事が忘れられなくて。ダメですか?」
「……キスはもうダメって言ったじゃん。」
「どうしてもダメですか?」
「そんなにしたいの?」
「したいです。俺今、そういう気分なんです。優子さんにも分かるでしょ?そういう事がしたくなる気持ち。」
「……でも……ダメたよ……キスとかそういうのは。」
「キスしたいなぁ、優子さんと。」
「だーめ。」
「……分かりましたよ。じゃあ代わりに抱きしめてもいいですか?」
「え~……う~ん……」
「寂しがり屋の俺を、少しは慰めてくださいよ。」
「……本当に抱きしめるだけ?」
「はい。」
「もぉ……しょうがないなぁ……」
「お、じゃあいいんですね?」
「……ちょっとだけだよ?」
人の頼みを断るのが苦手な優子。
斎藤君はそんな優子の心の隙を、逃しませんでした。
おそらく斎藤君はキスを断られる事は最初から分かっていたのでしょう。最初に高いハードルを見せておいて、妥協案を出す作戦です。
優子はまんまと斎藤君のペースに乗せられています。
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