居候と人妻 真弓(23)

それはある日、真弓と拓実が3時のおやつにと、ドーナツを一緒に食べている時の事だった。


「えっ!拓実君今日が誕生日なの!?」


「はい、俺もすっかり忘れてて、今そこのカレンダー見て気付きました。」


「え~どうしよう!何も用意してないんだけど!」


「別にいいですよ、そんな。」


「え~ダメだよ、年に一度の拓実君の大切な日じゃない。ちゃんと祝わないと。」


「そ、そんなもんですかね……でも俺の誕生日なんて親もずっと忘れてるくらいですから。」


「だったら尚更、祝ってあげたくなるじゃん。私、今から買い物行って来る!……と言っても今からだと近くのスーパーくらいにしか行けないけど……拓実君、何が食べたい?」


「本当にいいですよ、真弓さん。そんな気を使って頂かなくても……」


「だーめ、私が祝ってあげたいの。ねぇ、何が食べたい?」


「うーん……俺はなんでもいいですよ。」


「こらっ、何でもいいとかダメだよ、拓実君の誕生日なんだから。ほら、男の子が好きなのあるでしょ?ステーキとかフライドチキンとか、お寿司とか。」


「あ~ステーキ良いですね、あ、でもチキンとお寿司もなかなか……」


「よし!分かった!じゃあ全部ね!」


「えっ!?それ全部なんてできるんですか?」


「私に任せておきなさい!うふふ、ちゃんと素敵な誕生日にしてあげるからねっ。」

元々世話好きの真弓は、人を祝ったりするのが大好き。

だから今日が拓実の誕生日だと聞いて真弓は張り切ったし、料理上手な主婦としても腕が鳴った。


「おお!これ全部真弓さんが作ったんですか!?すげぇ……」

晩になり、テーブルに並べられた真弓の手料理の数々を見て、拓実は驚いていた。

希望通りのステーキにチキン、寿司は手巻き寿司で並べられていて、その他にもサラダや前菜になりそうな小料理が沢山並んでいた。


「うふふ、拓実君の喜ぶ顔が見たくて頑張ったんだよ。あ、でもさすがにケーキまで作る時間無かったから買ってきちゃったけどね。」


「……真弓さん、ここまでしてくれるなんて……凄く嬉しいです。俺、こんな風に誕生日を祝ってもらうのは初めてです。」


「わぁ良かったぁ、拓実君のその言葉が聞けて。頑張った甲斐があったよ。じゃあ冷めないうちに食べようか。」


「はい、頂きます!」

感激した様子で料理を食べていく拓実。


「でもこんなに沢山食べれるかな?さすがに作り過ぎたかも。」


「真弓さんの美味しい手料理ならどれだけでも余裕で食べれますよ。」


「うふふ、嬉しい事言ってくれるね。」

そして拓実は気持ち良いほど綺麗に真弓の手料理を完食。

さらにその後はケーキにローソクまで立てて、拓実の誕生日を祝った。


「拓実君おめでと~♪」


「ありがとうございます!」

その日は真弓にとっても、とても気分の良い夜だった。

今は拓実との生活が楽しくて楽しくて仕方ない。自分の料理を美味しそうに食べてくれる拓実の姿を見て、改めてそう思った真弓。

そしてそれは拓実も同じだった。

食後、2人はリビングのソファに恋人のように肩を寄せて座って話していた。


「ねぇ拓実君、来年大学合格したら、ここ出て行っちゃうんだよね?」


「そう……ですね。」


「あ~ぁ、寂しくなるなぁ……」


「真弓さん、まだ夏に入ったばかりじゃないですか。来年の春まで大分ありますよ?」


「でも1年もないんだから、きっとあっという間だよ?」


「まぁ、そうでしょうけど……」


「そしたらお別れだね?」


「そんな、別に一生会えなくなる訳じゃないですし。」


「そうだけどぉ……。ほら、今の私達って凄く特殊な時間を過ごしてるじゃない?だからきっとこういう時間って人生で二度と来ないと思う。」


「……確かに、特殊な時間ですね。」


「それが終わっちゃうのが、ちょっと寂しいなぁ。」


「……ですね。」

専業主婦と浪人生の2人暮らしという特殊な時間は、やがて終わる。

そしてきっと拓実がいなくなったら、あの離れの家も取り壊すことになるだろう。


「……」


「……」


「……ねぇ拓実君、今日も後で拓実君の部屋に行ってもいい?」


「え……も、もちろんですよ。」


「うん、じゃあ……そろそろ私、お風呂入ってこよっかな。」

そう言って真弓はソファから立ち上がると、着替えを持って浴室へ向かった。

きっと〝後で部屋に行く〟という真弓の言葉を聞いて、拓実はいつものように〝アレ〟をして貰えると期待しているだろう。

でも今日は……

真弓は脱衣所の鏡の前で裸になると、そこに映った自分の裸姿をしばらく見つめていた。

おろらく女性として一番美しい時期を迎えているであろう真弓の身体。

胸も、ヒップも、締まったくびれのラインも、張りのあるきめ細かな肌も。


「……」

そして浴室に入ると、真弓はシャワーのお湯を浴びながらずっと拓実の事を考えていた。

――今過ごしているこの時間は、いずれすぐに終わってしまう……だったら……――


「……ハァ……」

想像するだけで胸がドキドキして、身体が中から熱くなってくる。

今、自分の身体が何を欲しているのか、心が何を欲しているのかが、ハッキリと分かる。

そしてその欲求が奥の方からワーッと溢れ出てくる。


「……ハァ……」

真弓はもう、我慢できなかった。


「拓実君、お風呂空いたよぉ。」

風呂から出て来たパジャマ姿の真弓が、拓実にそう声を掛けた。


「分かりました。じゃあ……」


「……あっ、拓実君ちょっと待って。」

そう言って拓実の腕を掴んでもう一度ソファに座らせる真弓。


「どうしたんですか?」


「……」


「真弓さん……?」

真弓は拓実の横で少し黙った後、意を決したように口を開いた。


「……あ、あのね……私、今日拓実君に何もプレゼント用意してないの……」


「プレゼントですか?いいですよ、そんな。今日はあんな美味しい料理を食べさせてもらいましたし。俺は充分嬉し…」


「だ、ダメだよ……プレゼントはそれとは別なのっ。」


「そ、そうなんですか……」


「……うん……でね、プレゼント用意できなかった代わりに私……今日は拓実君がして欲しい事、何でもしてあげようかなぁって思って。」


「えっ……な、なんでもですか?」


「うん、何でもしてあげる。」

〝何でもしてあげる〟

真弓のその意味深な言葉を聞いて、拓実は何かを想像したのか、顔を赤くした。


「だ・か・ら、ちょっと考えておいてよ。あとで拓実君の部屋に行った時に聞くから、ね?いい?」


「真弓さん……本当に何でもいいんですか?」


「うん、どんな事でもいいよ、私が拓実君に出来る事だったらね。」


「……」


「……」


「……分かりました、じゃあ風呂入りながら考えます。」


「うん。」



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