居候と人妻 真弓(24)

いつものように深夜になってから、拓実の部屋のドアをノックする。


「どうぞ。」


「うん。」

部屋に入ると、母屋とは違う、拓実の部屋の匂いを感じる。

拓実の匂いは、なんだかホッとする。

そして拓実の部屋はいつも通り、少し汚くて、男の一人暮らしって感じがする。

でもこの部屋の雰囲気が、真弓は好きだった。


「今夜はちょっと暑いね。ねぇ拓実君、私飲み物欲しくなっちゃった、冷蔵庫開けていい?」


「いいですよ。好きなの飲んでいいですよ。」

真弓が冷蔵庫を開けると、中には冷えたお茶といくつかの缶ジュースが入っていた。


「色々あるね、どれにしようかなぁ。拓実君は何か飲む?」


「あ~じゃあ、ジンジャエールで。」


「ジンジャーエールね、私もそうしようかな。……ん?あ、これ……」

ジンジャーエールを取ろうとしたところで、その奥に一缶だけラベルの雰囲気が違う缶を見つけた真弓。


「これってビールじゃない。拓実君お酒なんて飲んでたの?」


「あ、いや、それは……結構前にコンビニに行った時に目に入ったので、試しに買ってみたんです。特に飲みたかった訳じゃないので、奥に入れたまま忘れてましたけど。」


「そっかぁ、お酒にも興味が出る年頃だもんね。今日で19歳なんだよね?」


「はい。」


「じゃああと1年だね。……ねぇ、これ私が貰ってもいいかな?なんか見てたら飲みたくなっちゃった。」


「いいですよ。じゃあ俺はジンジャエールにしておきます。」

そして改めて拓実の誕生日を祝う。



「カンパーイ!」


真弓にとっては久しぶりの酒。

よく冷えたビールを喉に流すと、身体にアルコールが染みていくのが分かる。


「はァ……」


「ビールってそんなに美味しいものなんですか?」


「うん、美味しいよ。……ちょっとだけ飲んでみる?」

真弓はそう言って拓実にビールの缶を渡した。


「じゃあちょっとだけ……」

ゴクゴク……と喉を鳴らしてビールを飲む拓実。


「ぷはァ……これ、美味しいですね。」


「うふふ、拓実君、お酒好きになりそうだね。」


「実は高校の頃にも友達の家でちょっとだけ飲んだ事があるんです。でもその時はただ苦いだけで正直不味いと思ったんですけど、今飲んだら不思議と美味しいですね。」


「味覚が大人になったって事だよ、きっと。」


「そうなんですかね。」


「それ、残りも飲んでもいいよ。」


「いいんですか?」


「今日くらいはいいんじゃない?誕生日だし。」

ビールの美味しさに感動している拓実の表情を見ていると、やっぱりまだ少し子供っぽさを感じる。

身体はしっかり大人になっているのに、表情だけは初々しくて、可愛らしい。

きっと若い拓実はこれから大人になっていく過程で、経験する全てが新鮮に感じるのだろうし、その度にこんな表情をするのだろう。

なんだかそんな拓実の初々しさが愛おしく感じてしまう。

それは親子でも姉弟でもない、そして恋人でもない、不思議な愛おしさ。

アルコールが入った身体が少しだけ熱い。

真弓がお酒を飲みたくなったのは、これから拓実とする事を考えて少し緊張していたからなのかもしれない。


「ビール美味しかった?」


「はい、もう一缶買っておけば良かったですね。」


「また今度、2人でこっそり飲もうか?ここなら他には誰もいないし。」


「いいですね、それ。」


「……」


「……」


「ねぇ拓実君、私に何してほしいか決まった?」


「え……」


「誕生日のプレゼント。」


「あ……それは……はい。」


「……で、何してほしいの?」

真弓が夕食後に拓実に言った〝誕生日プレゼントに拓実君がして欲しい事何でもしてあげるよ〟という言葉。

そのプレゼントの話になると、拓実は顔を赤くした。

話題を振った真弓の方も顔を赤くしている。

それは、拓実が何を言うのか大体予想ができているから。

恥ずかしさと緊張が入り混ざって、2人の間の温度が一気に上昇していく。


「……真弓さん、ホントに何でもいいんですか?」


「……うん、いいよ。」


「……」


「……」


「拓実君、いいんだよ。恥ずかしがらずに何でも言って。」


「……ま、真弓さん……俺……」

言い出し難いのか、そこで言葉に詰まってしまう拓実。


「うん、なに?……言って。」

そして真弓に優しく促された拓実が、ついにその願望を口にする。


「真弓さん……俺……あの……せ、セックス……したいです。」



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