居候と人妻 真弓(3)

拓実が居候に来てから1ヶ月が過ぎようとしていた。

最初は正人と真弓に気を使い過ぎているような様子だった拓実だが、1ヶ月が経ってもう慣れたのか、居候として過ごす生活にすっかり馴染んできていた。


「真弓さん、今日燃えるゴミの日ですよね。僕出してきますよ。」


「わぁありがとう、助かる。」

今では〝正人さん〟〝真弓さん〟と親しげに拓実は名前を呼んでくれる。それは正人と真弓にとってとても嬉しい事だった。

まるで家族のようと言ったら言い過ぎかもしれないが、2人の夫婦とこの居候との関係は日々深まっていた。

特に真弓は拓実の事を弟のように可愛がっていて、食事も最初は晩だけ一緒にという話だったのが、結局今では三食とも拓実の食事は真弓が用意している。

そしてその代わりに拓実は庭の手入れや家の掃除を勉強の合間に手伝ってくれていた。


「拓実君、電球変えたいんだけど手伝ってくれない?私の身長じゃちょっと大変で。」


「もちろんですよ、高い所の作業は俺に任せてください。」


「背が高い人がいると便利でいいねぇ。」


「それ実家でも母によく言われてました。」


「あはは、やっぱりそうなんだ。」


「真弓さん、他に高い所でやって欲しい事とかあればやりますけど、何かあります?」


「う~ん、今はとりあえずないかな。ありがと。」


「高い所じゃなくてもいいですよ、俺がやれそうな事があったら何でも言ってください。」


「いいよそんな、拓実君は勉強頑張らなきゃでしょ?」


「あ~まぁそうですけど。」


「最近沢山家事手伝ってくれるのはありがたいんだけど、勉強もちゃんとしなきゃ駄目よ?拓実君はそっちが本業なんだから。」


「でも真弓さんのお手伝いするの、結構楽しくて良い息抜きになるんですよ。」


「息抜き多すぎ~、ほら、もう部屋に行きなさい。お昼ご飯できたら呼びに行ってあげるから、それまで勉強に集中だよ。」


「お昼ご飯何ですか?」


「ん~オムライスかな。拓実君どのくらい食べる?」


「じゃあ大盛りで。」


「ウフフ、分かった。じゃあお昼まで勉強頑張ってね。」

キッチンにバターの香りが漂う。

鶏肉、玉ねぎ、マッシュルームを炒めて、そこへご飯、ケチャップ、そしてチキンライスに少しだけウスターソースを入れるのが真弓流。


「うん、いい感じ。」

キッチンに立つ真弓は、鼻歌交りで気分良さげに拓実のためのオムライスを作っていた。

前まではいつも1人で昼食を取っていた真弓。子供もいない専業主婦だから仕方ないのだが、それが結構寂しかった。

生まれ育った地元から離れた土地に嫁いできたので、ランチに一緒に行けるような友達は近くにはいない。

家計は割かし余裕があったので働きに出る気にもなれず、いくつか習い事にも挑戦してみたけれど、主婦の集まりにはあまり馴染めなくてすぐに辞めてしまった。

結婚生活に幸せを感じつつも、どこか退屈だった専業主婦のそんな日々。

でも今は拓実のために昼食を作る事が凄く楽しい。

どうしてこんなに気持ちになるんだろう。もしかしたら一人っ子だったから弟みたいな人ができて嬉しいのかもしれない。そういえば私、子供の頃も家で1人でいる事が多かったから……。

兄弟がいるって、こんな感じなのかなぁ……と、真弓はそんな事を考えながらオムライスを作っていた。


「拓実くーん!お昼ご飯できたよー!」


「はーい!今行きます!」

オムライスを食べながら真弓と拓実は好きな音楽の話をした。

そしたら偶々2人とも好きなバンドが同じで大盛り上がり。

それが結構マイナーなバンドだったから真弓は嬉しくて思わず
「私達気が合うね!」

と言ったら、拓実はなぜか最初に真弓と顔を合わせた時のように顔を赤くしていた。

夜、帰って来た正人にその話をすると、
正人は
「じゃあ2人でライブでも行って来れば?」

と言うので、
真弓が
「いいの?」

と返すと、
「拓実君も偶にはどこか出掛けて気分転換した方が良いだろうし。」

と言ってくれた。


「そうだね、じゃあライブ調べてみようかな。」

それで偶々近日にライブがやっていたので、真弓は拓実を誘って2人でライブに出掛けた。

当日は真弓が
「今日は私とデートだね」

などと冗談ぽく言っていたが、拓実の方はライブに行くのも女性と2人きりで出掛けるのも初めてらしく、大分緊張していたのかどこかオドオドしていて、慣れている真弓が色々と面倒を見る事に。


「拓実君、始まる前にトイレ行っておいた方いいよっ。」


「拓実君、もっとノッた方が楽しいよ?ほら、リズムに乗ってさ、そんな恥ずかしがらなくていいし。」


「は、はいっ。」

そんな2人の光景は、やはり男女のデートと言うよりは、仲の良い姉弟だった。

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