夫がいない生活に欲求不満を抱え始めていた真弓だったが、もちろんそれは全く我慢できない程のものではなかったし、真弓も日々の生活で徐々にその解消法を見つけ始めていた。
分かったのは、この欲求不満は精神的なものよりも肉体的なものだという事。きっと年齢的に身体が欲求不満になりやすくなっているんだ。
だからまずはこれまで通り、健康的な生活を続けつつ、沢山運動もして沢山仕事をする。
専業主婦の真弓の仕事と言えば家事なのだが、掃除は毎日、広い敷地の隅々まで徹底的にやる。
料理も毎日手の凝ったものを作り、調理時間を長くする。スーパーへの買い出しも、今までは車で行っていたけれど、今は毎日自転車か徒歩で行っている。
そうやって、とにかく暇な時間を作らずに、休む事なく身体を動かしていれば、夜になる頃には丁度良い疲労感が溜まっていて、ベッドに入ってもモヤモヤムラムラする事なく、ぐっすりと眠りに入れる。それが真弓が見つけた欲求不満解消法だ。
今のところはそれが上手くいっていて、真弓は結果的に以前よりもさらに充実した日々を過ごせていた。
しかし、この家での生活に欲求不満を抱えているのは真弓だけではなかった。
今この敷地内に住んでいるもう1人の住人、居候の拓実もまた、欲求を溜め込んでいた。
それは当たり前と言えば当たり前かもしれない。
何せ、年頃の男である浪人生が、美人の人妻と2人だけで暮らしているのだから。
しかも拓実は昼間はずっと1人で部屋の中に閉じ籠り、缶詰め状態で受験勉強をしているから、ストレスも溜まる。その環境がさらに欲求が膨らませるのを助長していた。
10代後半の男の性欲は、まさに猿並だ。
人妻との2人暮らしという異常な生活環境の中で、若い男が最後までその欲求を抑え続ける事なんて、出来る訳がなかったのだ。
そしてある時、事件が起きる。
事の切っ掛けは、給湯器の故障だった。
「え?水しか出なくなっちゃった?」
「はい、昨日の夜から。」
「う~ん、給湯器が壊れちゃったのかなぁ。業者さん呼ぼうか。」
壊れたのは普段拓実が寝泊まりしている離れの部屋の給湯器。
この部屋には真弓がいる母屋とは別にシャワー室が付いており、拓実はいつもそこで入浴を済ませていた。
「え~全部取り換えですか?」
「はい、もう随分と古い給湯器ですし、修理するより新しい物に変えた方が安く済みますから、そっちの方がおススメですよ。」
「そっかぁ……」
「思い切って、シャワー室全部リフォームなんてのも、やれますけどね。中も随分と古いみたいですし、新しくすれば快適ですよ。どうですか?」
「う~ん……」
業者には浴室のリフォームを奨めれられたが、元々取り壊す予定だった離れの家を今更リフォームするのは気が進まなかった。
拓実も受験が順調に行けば来年には居なくなるわけで、コストを考えるとすぐに頷く事はできなかった。
「うーん……どうしようかなぁ。少し検討したいのでまた今度でいいですか?」
「我々はいつでもいいですけど、いいんですか?お風呂入れなくても。」
「はい、うちは母屋にもう1つお風呂がありますから。」
「あ、そうですか。分かりました、では連絡お待ちしてます。」
とりあえずその日は業者を帰した真弓。
お風呂はもう1つあるんだから慌てなくていい、それが真弓のごく普通の考えだった。他に考慮することなんてない。
「って事だから拓実君、今日からこっちのお風呂に入ってね。」
「えっ……でもいいんですか?」
「いいんですかって何が?」
「いや、真弓さんが使ってるお風呂を俺が使ってもいいのかなぁと思って。」
「あ~そんなの気にしなくていいよ。拓実君なら私は別に気にしないし。」
拓実が自分と同じ湯船に入る事に対して、真弓は全く抵抗を感じていなかった。
これも拓実の事を本当の弟のように考えていたからなのかもしれないが、真弓の頭には拓実を異性として意識するような考えは微塵も無かった。
赤の他人なら嫌だけど、拓実君なら全然OK!と。
そんな訳で、その日から拓実は真弓と同じ浴室を使う事になった。
夜の食事をして、2時間くらいリビングで2人でテレビを見たりして談笑、その後真弓からお風呂に入る。
今までは食事が終わったら拓実は自分の部屋に戻っていたから、お風呂が同じになった事で、必然的に真弓と拓実は一緒に過ごす時間がさらに長くなった。
「ふぅ、良いお湯だったよぉ、拓実君も入ってきなよ。」
濡れた髪をタオルで拭きながら夏用のパジャマ姿で出て来た真弓に、拓実は一瞬目を奪われて顔を赤くする。
「……」
「ん?どうしたの?お風呂まだ入らないの?」
「あ、いや……じゃあ入ってきます。」
「なーに?またオドオドしてるけど。」
「いや、別に……」
まだこの時は、意識しているのは拓実の方だけだった。
真弓はその辺りに鈍感なのか、まだ何も気づいていなかった。
お風呂上がりの自分の姿がどれだけの色気を醸し出しているのか、真弓は自覚がなかったのだ。
シャンプーの香り、ノーメイクの方が余計に綺麗に見える美人顔、しっとりと濡れたうなじ、ショートパンツから露出する白い生脚、薄生地のパジャマに透ける下着のライン……等々。
この共同生活には、若い男の理性を狂わすには十分過ぎるものが揃ってしまっていた。
そしてついにその事件は起きた。
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