知子
「・・・果歩、遅いわねぇ・・・まさか今日も休むつもりかしら。」
朝の大学、講義室の隅っこの席でカバンからノートなどを出しながら独り言を呟く知子。
もうすぐ講義が始まるというのに果歩はまだ来ていない。
今週始めの3日間は休み、木曜の昨日、久しぶりに大学に来た果歩。
しかし今日も休んでしまえば果歩は今週一日しか講義を受けていない事になる。
アルバイト先の富田というオーナーと男女の関係になったと、昨日知子は果歩から知らされた。
やはり今日もその富田という男性が原因で休む事になっているのだろうか。
知子は頭の中でそんな事を考えながら、腕時計で時間を確認する。
知子 (果歩ったら意外とハマッちゃうと周り見えなくなるタイプだったのね・・・)
しかし時計の針が9時を指そうとする直前、知子の耳に聞きなれた声が届く。
果歩
「知子ちゃん!おはよっ!・・・ハァ・・・間に合ったぁ。」
知子
「果歩ぉ!・・・どうしたの寝坊?てっきり果歩今日も休みなのかと思った。」
走ってきたのか、果歩は内股の膝に手をつき息を切らしている。
果歩
「ハァ・・・ハァ・・・さすがに・・今日まで休めないよぉ、これ以上休んでお母さんにでも知られたら大変だし・・・。」
そう言いながら知子の隣の席に着く果歩。
知子
「果歩のお母さんてすっごい優しいのに、果歩だけには厳しいもんねぇ。」
果歩
「うん・・・だから大学は1人暮らしできてホント良かったよぉ。この歳でお母さんに怒られるのもうやだもん。」
ニコニコ笑みを浮かべながら話す果歩。いつも通りの果歩らしい可愛い笑顔だった。
知子
「フフッ・・・でもあんまりだらしない事してたら実家から通いなさいって言われちゃうわよね、きっと・・・・・あっ!」
会話の途中、何かに驚いたように知子が声を上げた。
果歩
「・・・ん?どうしたの知子ちゃん。」
知子
「え?あ・・・ううん、何でもない・・・。」
少々慌てた様子で何もなかったかのように取り繕う知子。
果歩は不思議そうに知子を見つめていたが、それ以上は聞かなかった。
知子
「・・・・・・。」
しかし知子は確かに何かに気付いて声を上げた。
知子は見つけてしまったのだ、果歩の白い首筋にあった数個の赤い痕を。
知子は知っている、あれはきっと俗に言うキスマークというものである事を。
遠目からは見えないかもしれないが、至近距離で見れば果歩のような白い肌ならすぐに分かる。
知子
「・・・・・・。」
カバンからノートを出す果歩の姿を横から見つめながら知子は頭の中で考える、果歩が今日遅刻しそうなった理由を。
果歩
「あれ?このペンもうインクないや・・・。」
ボールペンを見つめながらそんな事を呟く果歩の頭に、何かを確認するように顔をゆっくり近づける知子。
セミロングの果歩の艶やかな黒髪に鼻を近づる。
ふわっと香るシャンプーの匂い。
果歩
「・・・ぇ?何?知子ちゃん。」
知子
「・・・・果歩さぁ・・・シャンプー変えた?」
果歩
「・・・ぇ?・・・えっとぉ・・・変えた・・・かな・・・変えたかも・・・。」
知子からの質問に明らかに動揺した様子を見せる果歩。
知子
「何よその変えたかもって・・・自分で分かるでしょ普通。」
果歩
「う・・・うん・・・。」
果歩の反応を見るなり、すぐに知子は今日果歩が遅刻しそうになった理由が分かった。
知子
「・・・ねぇ果歩・・・果歩、また例の富田さんって人の所に行ってたんでしょ?」
果歩
「え・・・・?」
知子の口から出た予想外の言葉に、果歩は驚きの表情を見せ、さらに動揺した。
知子
「ねぇ、そうなんでしょ?」
果歩
「・・そ、それは・・・・。」
知子
「・・・・・・・。」
じっと動揺する果歩の瞳を見つめる知子。
果歩
「・・・・・知子ちゃん・・・どうして分かるの?」
知子
「はぁ・・・果歩の事くらい何でもお見通しよぉ。」
果歩
「え~・・・なんでそんな・・・そうなの・・・?」
昨日も富田の所へ行った事を知子に見透かされ、顔を赤くする果歩。
シャンプーの匂いが違うという事は、つまりそういう事なのだから。
果歩
「・・・でも・・・凄いね知子ちゃん、私の事何でもお見通しなんて・・・。」
知子 「別に普通よ、果歩がボンヤリし過ぎてるだけよ。」
果歩
「ボンヤリって・・・そんなにボンヤリしてるかなぁ私・・・。」
知子
「してるしてる・・・ほらココ・・・。」
知子はそう言いながら自分の首筋を指差してみせる。
果歩
「・・・・?・・・首がどうかしたの?」
知子
「果歩の首よぉ・・・ほらココ・・・。」
今度は果歩の首を指してみせる知子。
知子
「そこ・・・キスの痕、付いてるわよ?」
果歩
「え?・・・うそ・・・ヤダ・・・。」
知子の指摘に果歩は慌てた様子で手で首を隠し、カバンから小さな鏡を取り出し確認する。
果歩
「・・・ぁ・・・ヤダ・・こんなに・・・。」
知子
「それって誰がどう見てもあの痕って分かるわよねぇ・・・ここの男の子達に見られたら変な想像されちゃうわよきっと。まぁその想像はきっと当たってるんだろうけどねぇ。」
果歩
「・・・もう・・・知子ちゃんたら・・・でもどうしよう・・・困ったなぁ・・・」
隣でキスマークを隠す方法を試行錯誤している果歩を、知子は面白そうに笑いながら見ていた。
知子 「いいわねぇ・・・果歩は若くて。」
しかし果歩が昨晩体験してきた事は、キスマークを見つけた時の知子の想像を遥かに超えるものであった・・・。
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
遅くなりましたが更新できました。
毎日更新時間がバラバラですみません。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
更新楽しみにしています。