高度1万メートル以上の上空から見る地球は相変わらず美しい。
窓から見るその景色は何度見ても飽きる事がない。
友哉
「・・・・・。」
運良く取れた、窓際の席。
しかし今の友哉に、窓の外に広がる素晴らしい景色を楽しむ心の余裕など無かった。
目は窓の外を眺めているものの、友哉の頭の中は全く別の事で埋まっている。
それは数ヶ月前まで恋人であった、水野果歩の事だ。
自分が留学するにあたって恋人の果歩とは遠距離恋愛になった。
遠距離恋愛は難しいとはよく聞く。
しかし留学と言っても1年という期間であるし、日本を離れるまでは2人の関係は良好だったため、遠距離になったからといって2人の関係が崩れるとは友哉は思っていなかったし、然程心配もしていなかった。
ところが留学生活を始めて数ヵ月後、友哉にとって信じられない出来事が起きる。
果歩から別れたいという趣旨の電話が掛かってきたのだ。
とても信じられなかった。
あれ程上手くいっていた2人の関係が数ヶ月会わなかっただけで崩壊してしまうなんて。
果歩は新たに好きな人ができたのだと言うのだ。
しかも驚いた事に、果歩はその電話の最中に相手の男と性行為をしていた。
〝ハァ・・・もう友哉とは会わないから・・・私・・・ぅ・・・私好きな人ができたの・・・今その人とSEXしてるの・・・私今SEXしてるの・・・・・・・・・SEXしてるの・・・〟
〝いいのぉ・・・もっと私を変態にしてください・・・もっと淫乱にしてください・・・もっと調教してください・・・ああああ・・・もうだめ我慢できないっ・・・早くぅ・・・早くSEXしてください!!オチ○チン止めないでぇ!!〟
友哉は電話越しに聞えてきた果歩の声に、耳を疑った。
とてもあの恥ずかしがり屋の果歩が言う言葉とは思えない。
恋人である友哉も聞いたことのなかった、果歩の快感に乱れる卑猥な声。
信じられなかったが、その声は確かに果歩のものであった。
友哉は言葉を失っていた。
自分との行為では、果歩はそんな風に乱れた事などない。
精々控えめな声を上げる程度であったのに・・・。
電話の向こうで自分と電話する果歩を責めながら、笑みを浮かべて勝ち誇っている男の姿が目に浮かぶ。
〝どうだ?お前の女は俺とヤッて感じまくってるぞ?お前にはこんな姿見せた事なかっただろ?〟
男の勝ち誇ったようなそんな声が聞こえてきそうで、友哉は何ともいえない男としての劣等感を感じずにはいられなかった。
まったく知らない男に果歩を寝取られた。
性行為の最中に恋人に電話させるような、そんな男に果歩を寝取られた。
まるで頭を金槌(かなづち)で殴られたような衝撃に、友哉は何も言う事ができず、ただ果歩の喘ぎ声を電話越しに聞き続けるだけ。
この上ない不快感と劣等感を感じているにも関わらず、なぜか耳から携帯を離す事ができなかった。
自分とのセックスでは感じる事のなかった快感に可愛い顔を歪める恋人の表情だけが、頭の中を埋め尽くす。
しばらく果歩のあられもない声が聞こえていた電話はガタガタッ!という音と共に切れてしまった。
友哉
「・・・・・・。」
呆然とした表情で、友哉はしばらく電話のプー・・・プー・・・という電子音を聞いていた。
今まで果歩と築き上げてきた愛情が、音を立てて崩れていくのを感じる。
終った・・・と、友哉はそう思った。
相手の男に対する敗北感、打ちのめされた男としてのプライド、果歩を失ったという悲しさ、寂しさ・・・自分の情けなさ。
その夜、海外という遠い地で友哉は、1人男泣きした。
それ以来、何もかもが順調に思えていた友哉の留学生活は、まったく違う暗いものになってしまった。
深く傷ついた友哉の心は、そう簡単に癒せるものではなかったのだ。
留学先でできた友人には〝そんな女の事忘れた方が良いよ〟とよく言われたが、友哉にはそんなに簡単には割り切る事はできなかった。
果歩の事を本気で好きだった。愛していた。
裏切りやがって・・・もちろん、そんな感情が心から湧いてくる日もあった。
しかし友哉にはどうしても信じられなかった。果歩はそんな女性ではなかったはず。
あの衝撃的な電話の日から数週間後、少しだけ落ち着きを取り戻した友哉は、もう一度果歩へ電話をしてみる事にした。
しっかり話をしたかったのだ。ちゃんとした形での別れの話を。
だが果歩に電話は繋がらなかった。
どうやら着信拒否をされているようだった。
今頃新しい彼氏とイチャついているのかもしれない。
俺の事はすっかり忘れて、新しい彼氏に夢中になっているのだろうと、友哉はそう思った。
電話ができないと分かると、友哉はその場で携帯から果歩のメモリーを消した。
パソコンに入っている果歩とのメールも消したし、机に飾ってあった果歩と2人で撮った写真も破いてしまた。
・・・もう・・・忘れよう・・・
そう決心して、ここでの勉強に集中することにした友哉。
しかし頭ではそう思っていても、心がそう簡単にはいかなかった。
毎日のように果歩が出てくる夢に魘され、食事も喉を通らない。一人でいる時はどうしても果歩の事を思い出してしまう。
勉強になど全く身が入らなかった。
自分はこんなにも弱い男だったのかと…友哉は自分を責めた。
そしてそれと同時に、自分はこんなにも果歩の事が好きだったのかと、思い知らされた。
だが、果歩はもう・・・
留学し始めた時の勢いが全て止まってしまったような、そんな落ち込んだ日々をしばらく過ごしていた友哉。
しかしそれから数ヵ月後のある日、友哉はある人物からの電話を切っ掛けに、再び動き出す事になる。
それはあの果歩の親友で、今はイギリスに留学していると聞いていた、知子からの電話だった。
そして友哉は今、ハッキリとした気持ちを胸に飛行機に乗っている。
友哉
「・・・・果歩・・・」
窓の外を眺めがならそう呟いた友哉。
そう・・・友哉が今乗っているのは、日本行きの飛行機である。
コメント
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ありがとうございます。
ちょっと照れますが、そんな風に言ってもらえて凄く嬉しいです。
やっぱり男性と女性では感じる箇所が違うんですねぇ。
作者の僕は男ですから、この物語は最後の方になるとエロくないし読みに来る人は減るだろうなぁと思ってました。
実際少し減ってしまったんですけど、それでもかのさんの様に楽しみにしてくださってる方が多くて驚きました。特に女性の方が。
女性はやはり心で感じるというか…エッチシーンよりも、それ以外のシチュエーションやストーリーの流れの方が重要なのかなぁと。
これからも皆さんの意見を参考にして書いていきたいと思います。
水野果歩の物語、最後の結末は賛否両論でるかもしれません(笑)
でもその皆さんの感想も楽しみにして、最後まで頑張りたいと思います。
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コメントありがとうございます。
今まで友哉視点のシーンは殆どなかったですからね、今頃出てきた?みたいな印象を持たれる方も多いかもしれませんね。
富田さんと果歩は感情の波が激しくて、そちらの方が良い意味でも悪い意味でも人間ぽいかもしれません。
ありがとうございます、最後まで一生懸命頑張ります!
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m(_ _)m果歩ちゃんを果穂と誤記して申し訳ありませんでした
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重い内容とのことですが私はむしろここからが本当に楽しみなんです。エロ満載の時は正直女は共感しにくい(理解が難しい)ところもあったので内面に迫ってきた今が佳境だと本当に期待しています。個人的には友哉さんが再登場して(ここからが真の存在意義)果穂をセックス依存症から立ち直らせて女としての尊厳を取り戻していくのでは…?と期待していました。そして富田さんは歪んでいるけれど果穂を深く愛していたことに気づいたからこそ果穂の決断を受け入れ自身も再生していくのでは…と。官能小説と言うより人生ドラマとして期待してしまっています。素晴らしい筆力だと思います。
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友哉は嫌い。果歩に注いだエネルギーが少な過ぎ。個人的には何の魅力も感じない。
富田は、いい意味でも悪い意味でも、精一杯、エネルギーを注いでる気がする。
なんにせよ、すごく面白いので、クライマックス頑張ってください。
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ちょっと重苦しい展開が続いてましたからね。
友哉の登場は、なんか僕も書いていて気分が良いというか、スラスラ書けました。
もう後は一気に完結に向かうだけ(笑)頑張ります。
それにしてもエロが無いのと展開が重いのが影響してるのか、アクセスと人気ブログランキングのポイントが急降下中です(涙)新作も頑張らないと☆
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嗚呼、良かった!!友哉くん登場で。
タブン他の読者とは違う意味で、
前の話が、あれ以上続くのは無理でした…。
富田さんが、サディストでなければアリなんですけどね^^;
友哉くん登場で、物語は急展開していくんでしょうね♪
続き楽しみにしています♪