その日果歩は憂鬱な気持ちで、アルバイト先であるトミタスポーツに向かっていた。
気が進まない。というより行きたくない。
どんな顔をしてスタッフルームに入っていけばいいのか分からなかった。
なぜなら果歩はつい先日ここのスタッフ全員と身体の関係を持ってしまったのだから。
果歩
「・・・・・・。」
果歩は車両の窓側に立って外の景色を眺めながら、大学での出来事を思い出していた。
〝うわぁマジで水野さんヤリマンだったのかよ〟
〝じゃあそういう事だから水野、明日も頼むな〟
否定したい・・・だけどできなかった・・・なぜならそれは事実であるから・・・
短い間に自分は20人以上の男の人達を受け入れた。それでだらしのない女だと言われても否定できない。
ズーンと心が重くなる。
以前までは電車の窓から外の景色を見るのが好きだった果歩。
季節ごとに変わっていく街の色を見て楽しんだり、遥か遠くの景色を見ながら(あの先には何があるんだろう、今度行ってみようかな)などとワクワクするような気持ちを抱いたり。
しかし今の果歩にはそんな気持ちの余裕などなかった。
果歩は狭い、本当に狭い世界に入り込み、その中で延々と悩み続けている。
暗い世界で狭くなってしまった心の視野は、その出口を見つけられずにいた。
果歩
「・・・はぁ・・・」
果歩は疲れていた。とても疲れていた。
身体ではない、心が疲れきっていたのだ。
自然と涙がポロポロと流れる。
最近は毎日泣いているような気がする。
ふと1人で考える時間があると果歩は必ず涙を流していた。
涙を流して、身体の奥に溜まった不安を外に出そうと、身体が自然とそうしようとしていたのかもしれない。
電車に乗っていた他の乗客達が果歩の方をチラチラ見ている。
女子大生と思しき女の子が一人で涙を流している姿に、この乗客達は何を思っているのだろう。
きっと失恋でもしたんだなと、そう思っているに違いない。
まだ社会人になる前の学生には、恋だけに夢中になれる期間がある。自分にもそういう時期があったなぁと、微笑ましく思っているのかもしれない。
しかしこの1人で泣いている女子大生の心の闇は、周囲の人間が思っている以上に深いものであったのだ。
本当は何もかもから逃げ出したい。だが果歩はトミタスポーツに行かない訳にはいかないのだ。
それは、そこに富田という男がいるから。
果歩がいるこの暗く冷たい世界に、唯一他に存在しているのは富田という存在だけだ。
自分がこの世界に存在する意味、自分が生きている理由を与えてくれるのは富田だけ・・・果歩は本気でそう思っていた。
すがり付けるのは富田だけで、今の果歩にとって富田に従属する事だけが全て。
それ以外の選択肢は見つからない。
真っ暗闇の中で果歩が見えているのは富田だけなのだから、そうならざるを得ないのだ。
果歩
「・・・はぁ・・・」
スタッフルームのドアの前で、果歩は立ち尽くしていた。
どうしてもこのドアを開ける勇気が、果歩に湧いてこない。
もうこの場で何度ため息を付いただろうか。
すると突然後ろから誰かに声を掛けられる果歩。聞き覚えのある男の人の声だった。
山井
「果歩ちゃん、おはよう!」
果歩
「ぇ・・・あ・・・や、山井さん・・・」
富田と共に果歩の前から姿を消していた男、山井がそこには立っていた。
山井
「どうしたんだよ果歩ちゃん、そんな所に突っ立って。」
果歩
「・・・えっと・・・あの・・・」
困惑した表情の果歩を見て、山井はニヤっと笑みを浮かべた。
山井
「・・・へへ・・・気まずいんだろ?」
そう言って山井は果歩に近づき、突然果歩の臀部に手を回してサワサワと円を描くように触り始めた。
果歩
「ぇ・・・キャッ・・・や、山井さん!?やめ・・・」
果歩は慌ててお尻を触ってきた山井の手首を掴み、拒絶の反応を見せる。
顔を赤くして困惑している果歩に、山井は笑みを浮かべたまま口を開いた。
山井
「へぇ~まだそんな恥じらいの心が残ってるんだ?」
果歩
「・・・山井・・・さん・・・?」
山井
「へへ・・・いいねぇ・・・その方がお客さんも喜ぶよ。恥じらいが無くなったら商品価値なんて無いも等しいからねぇ・・・。」
果歩
「・・・それって・・・どういう意味ですか・・・?」
脅えた様子でそう聞く果歩。山井の言葉に、果歩は再び不吉な予感を感じていた。だがそれがどんな事なのかは全く想像も付かない。
山井
「もうすぐ分かるさ。富田さんがいつもの部屋で待ってるよ。・・・会いたかっただろ?」
果歩
「・・・・・・。」
山井の怪しげな言い回しもあって、富田の部屋に行くのは、なんだか怖かった。
しかし山井の言うとおり、富田に会いたいという強い気持ちが果歩にはある。
富田という存在に引き付けられてここまで来ているのだから。
どこか不安げな表情のまま、果歩は無言で小さく頷いた。
コメント
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優しいお言葉ありがとうございます。
…と、土曜は更新できませんでした(苦笑)
まぁ…遅れてるのは1話分ですから日曜で何とかします(汗)
毎日見に来てくれている方や美桜さんのようにコメントしてくださる方がいるから頑張れるんです。
本当にいつもありがとうございます☆
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お心使いありがとうございます。
寒いですね、僕の住んでいる所は昨日雪が少し積もりました。
ちょっと温かくなったらり寒くなったりで体調管理が難しいですよね、風邪も流行ってますし京香さんもお気をつけください。
最近ちょっと文章と表現のレパートリーが無くなってきてしまっている感じがしますが、本とか読んで勉強したいと思います。
妄想族の僕は、頭の中で想像を鮮明な映像で見る事は得意ですから(笑)しっかり想像させてもらいました(笑)
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コメントありがとうございます。
あ~6話の、最初にコメント頂いた時もおっしゃってましたね。僕的にはあのシーンはシンプルなエッチシーンのつもりではあったのですが、実は一番官能を表現できていたのかもしれません。
ん~難しい…ですねぇ、色々考えながらはやっているのですが、どうしても『ん?』みたいな果歩の心情が出てきてしまっているかもしれませんね。
僕が用意している結末に、皆さん納得してもらえるか分かりませんが、頑張ります☆
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果歩の物語が読めるのは嬉しいのですが。
休みを返上しての記事UPは大変です。
無理しないでくださいね。
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再び寒波到来で寒いですね、風邪引かないように気をつけてください。
更に堕としていきますねぇ(笑)
メンメンさん、文章力あるから“心でイク”のも書けると思いますよ♪
そっ、想像されると恥ずかしいです(〃ー〃)
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゛売り゛かぁ。それって肉便器とはまた違うような…。それならいっそ。「商品」としての口上は果歩の口から自主的に言うように強制したいな。ずっと気になって読んでいるけど。官能小説として1番エロを感じるのは6話の秋絵のくだりだったりするからなぁ。私の場合。
果歩にはもう救いはないのかな。ハッピーエンドは考え辛いし。だって。ここまで来たらいっそ消すか狂わすか(笑)しか幸せはないよーな。
女子ファンが多いみたいだけど。皆、若干果歩にイラっとしながら不幸を密かに期待して読み続けてるのかしらん。