次の日、友哉は大学に来ていた。
講義に出る訳でもない友哉はただ、果歩が来ているかもしれないという思いだけでここに来たのだ。
時刻はちょうど昼休みの時間。
友哉はいつも昼休みに果歩と知子が行っていた大学の食堂にいた。
日当たり良好なあの席、果歩と知子が楽しそうに会話していた時の姿が目に浮かぶ。
友哉
「・・・・・。」
いつも果歩が座っていた席に腰掛け、窓の外を眺める友哉。
講義を終えた学生達が次々と建物から出てくる。皆明るい表情で、大学生活を満喫しているように見える。
友哉
「・・・はぁ・・・」
もう日本に帰ってきてから何度目のため息だろうか。
果歩の事が気になって仕方ない。それに昨日果歩に自分が拒絶された事も、友哉の悩みをより深いものにしていた。
実際ここで果歩に会えたとしても、何と声を掛けたら良いのかさえ分からない。
友哉は頭を抱えていた。
裕子
「・・・友哉君?」
友哉
「・・・ぇ?」
深刻そうな表情を浮かべていた友哉に声を掛けてきた女学生、それは友哉と果歩と同じ学部にいた裕子だった。
裕子
「あれ?友哉君オーストラリアに留学してるんじゃなかったっけ?どうしてこんな所にいるの?」
友哉
「ぇ?あ・・・いや、まぁちょっと用事があってさ・・・一時帰国してるんだ。」
不思議そうな表情で友哉の顔を見る裕子。
裕子
「へぇ・・・そうなんだ。オーストラリアからわざわざ帰ってくるなんて余程大切な用事なのね?」
友哉
「・・・あぁ・・・。」
裕子は手に持っていたランチプレートをテーブルに置いて友哉の前の席、知子がいつも座っていた席に座る。
裕子
「大学の先生にでも用があるの?」
友哉
「いや、そうじゃないんだけど・・・。」
裕子
「・・・・」
友哉
「・・・・」
裕子は友哉にとって特別仲の良かった友人ではない。
大学内で顔合わせれば挨拶だけしていた程度の知り合いだ。
裕子
「もしかして、果歩ちゃんの事で帰ってきたの?」
友哉
「えっ?」
友哉のその不意を突かれたようなリアクションは、裕子の問いにそうだと言っているようなものだった。
裕子
「そっかぁ・・・でも友哉君と果歩ちゃんって別れたって聞いたけど、そうじゃないの?」
友哉
「・・・いや、まぁそうなんだけどさ・・・。」
裕子の質問に少々ばつの悪そうな様子の友哉。
裕子
「・・・ねぇ友哉君、こんな事言うのはなんだけど、もう果歩ちゃんには関わらない方がいいよ。」
友哉
「・・・え?」
裕子
「私も果歩ちゃん元気ない時あったから、色々気を使ってあげたけど・・・果歩ちゃんってどうやら私が思ってた印象とは違う子だったみたい。」
裕子は少し呆れたような口調でそう言いながら、サンドイッチの袋を開ける。
友哉
「それってどういう・・・」
裕子
「果歩ちゃんてその・・・なんて言ったらいいのかなぁ・・・男の人が好きみたいよ?」
友哉
「男の人?」
裕子
「大学内でも色んな男の子達と遊びまくってるって聞いたし、最近は年上の男のマンションに入り浸ってるって噂もあるし。」
友哉
「・・・・・。」
裕子
「講義が終るとその男らしき人が大学まで高級車で迎えに来てたわ。」
友哉
「・・・迎えに・・・」
裕子の話を聞いて友哉の頭の中にその光景が思い浮かぶ。他の男の車に乗り込む果歩の姿が。
後藤
「そうだぜ友哉!水野にはもう関わらない方がいい。」
友哉
「・・・後藤?」
友哉と裕子の会話に突然割り込んで来たのは、あの後藤だった。
後藤はニヤニヤ笑いながらそう言って、友哉の隣の席に座る。
後藤
「お前みたいな真面目な男に限って、ああいう可愛い顔した女に騙されちまうだよなぁ。」
友哉は後藤の言い回しに少し不快感を感じながらも、後藤の話を聞き続けた。
自分が居なかった間の果歩の情報が少しでも欲しいと思ったからだ。
後藤
「お前水野の裏の顔を知らないだろ?」
友哉
「・・・裏の顔?」
後藤
「あの子すげぇヤリマンって知ってたか?もうビッチもビッチ、超ビッチだから。この大学内だけでもどれだけ穴兄弟がいる事やら。」
イヤらしい笑みを浮かべながら後藤が言った内容に、友哉は言葉を失った。
知子が電話で言っていた噂というのは本当だったのか。
もっとも知子は友哉に対してもっと表現を遠まわしにして伝えてくれたが、今の後藤の直接的で下品な表現は友哉に小さくないショックを与えた。
後藤
「あんな大人しそうな顔して大勢の男達に股開いてるんだからなぁ・・・見抜くの難しいから騙されるのも仕方ないわ。友哉も忘れた方がいいって。」
友哉
「・・・・・」
裕子
「え~でも後藤君、私が聞いた話だとその男達の中に後藤君も入ってるんだけど?」
後藤
「はぁ~?何それ!?俺はそんな男じゃないって!こう見えても俺一途なんだぜ?人は見た目で判断しちゃいけないよ。」
裕子
「どうだか・・・でも果歩ちゃんは意外よね、私果歩ちゃんって真面目な子だと思ってたのに。そんなダラしない・・・」
友哉
「もういいよっ!!」
友哉はこれ以上2人の話を聞いていられなくなったのか、突然大きな声を出し席から立ち上がった。
裕子と後藤は少し驚いた表情で友哉の顔を見上げる。
友哉
「・・・ごめん、今日は果歩来てなかった?」
裕子
「う・・・うん、最近はずっと来てないよ。たまに来てもいつも一人で誰とも話さないし・・・。」
友哉
「・・・そうか・・・じゃあ、俺もう行くから。」
後藤
「おいおい友哉、信じられないのは分かるけど、本当にもう水野には関わらない方がお前のためだぞ?」
友哉は後藤のその声を無視してそそくさと食堂から出て行った。
・・・果歩は・・・果歩はそんな女じゃない・・・果歩は・・・
コメント
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いえいえ、そんな謝らないでください。
美桜さんの様にこの小説を褒めてくれる読者さんがいるのは本当に力になっていますし、感謝してます。
これからも気軽にコメント頂けると嬉しいです。
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何か美桜はコメントする勇気が無くなりました。(T_T)
気のきいたコメントを書けずごめんなさい。(ρ_;)
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ありがとうございます。
京香さんの〝SとMの関係は危うい1本の線の上に成り立っている〟って言葉は何となく想像ですが頷ける気がします。
まぁSとMに限らず、お互いに依存し過ぎてしまうと、崩れやすいのかもしれませんね。
例えば恋人以外に友人が居ないだとか、心の内を打ち明ける相手が少ないとか…果歩の場合、知子がいても浮気をしてしまいましたが、知子が居なくなってからはさらに堕ちていきました。
友達に恋人や旦那さんのグチを言っているくらいの関係の方が安定しているのかもしれませんね。
こちらこそいつも丁寧なコメントありがとうございます、感謝しています。
京香さんのコメントのおかげでより深くこの物語を考える事ができている気がします。
もう3月になってしまいました、早いですね。ラストスパート頑張ります。
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富田さんと果歩ちゃんが、うまくいってほしい読者さんには、微妙な感じがしちゃうんでしょうが…
SとMの関係は危うい1本の線の上に成り立っている分、少し踏み外しただけで、もう元には戻れない。
友哉君にしか果歩は救えないと予想しましたが、正解の終わりになるのか…終焉に向けて、
逆に私が答え合わせをしている感じです^^
体の快楽しかしらない堕ちた果歩ちゃんが、大きな愛で包んでくれる友哉君に抱かれて、
本当の快楽(幸せ)に気付いてほしいな…果歩ちゃん♪(←お姉さんな気分です、笑)
やはり性的描写ばかりの官能小説より、様々な人間模様が見える官能小説の方が、私は好きです。
この小説に出会えて、自分の身に置き換えて経験してきた事や考えを、
こうやってコメントできた事も感謝しています。
終盤に向けて頑張ってくださいね♪