女子大生 水野果歩(195)

友哉は留学を途中で止める事にした。果歩はそんな事しないでと友哉に必死に言ってきたが、友哉はそれを断った。

こっちの大学は休学している訳だから来年度までは友哉はフリーターということになる。

でもそれでも良いのだ。友哉にとって今は果歩の事が第一なのだから。

果歩も大学を来年度まで休学する事に。つまり果歩もしばらくフリーターだ。

果歩の心を癒すには時間が必要だった。色々な噂が飛び交う大学に今すぐ復帰するのは難しいと判断したのだ。

そして2人は新しいアパートで同棲する事に決めた。

しかしさすがにこの若い2人がそこまでしてしまうのには、果歩の両親が黙っていなかった。

突然の休学に加え彼氏と同棲しますだなんて、そんな事を許可する親など殆どいないだろう。

説得は簡単ではなかったが、友哉が果歩の実家まで行き、生活費から全てを自分達で賄うという条件でなんとか許可を得る事ができた。

もちろん、ここ数ヶ月で果歩の身に起きた事を両親に話す事などできなかったが、両親は果歩の表情を見て何かを察している様ではあった。だからそれだけに説得は大変だったのだが。

そして始まった同棲生活は、しばらく友哉のアルバイトだけで生活費を稼ぐという状態が続いた。

果歩はまだアルバイトを始められる状態ではなかったのだ。

果歩は私にも働かせてと何度も言ってきたが、友哉はそれを許す訳にはいかなかった。それは、医者にも言われていたから。

そう、果歩は定期的に通院していた。精神科の病院に。

2人でよく話し合って決めた事なのだ。

果歩も自分自身が精神的に不安定である事を自覚していた。

突然夜に号泣し始めたり、食事が喉を通らない程に思い詰めてしまったり。その度に病院で貰った薬を飲んで、落ち着くまで友哉が果歩を抱き締めていた。

そんな事が最初の頃は凄く多くて、何度も2人は同棲を止めて実家に帰る事を検討したが、果歩の両親に心配を掛けたくないという想いと、友哉の何とか2人でこの困難を乗り越えたいという想いで同棲生活を続けてきた。

果歩 
「・・・友哉・・・ありがと・・・。」

友哉 
「ん?・・・何が?」

果歩 
「私と・・・いっしょに居てくれて・・・。」

ベッドの中で果歩は顔上げて友哉を見つめる。

今日も安心できる温もりをお互いに感じながら眠りにつける。それが嬉しかった。

友哉 
「うん・・・でも良かった、果歩大分元気になってきたな。」

果歩 
「・・・友哉のお陰だよ。」

友哉 
「病院の先生もそろそろアルバイト始めてみてもいいかもって言ってたしな。」

友哉の言うとおり、果歩の精神状態は大分回復傾向にあった。

少しずつ笑顔も増え、話す会話も多くなって明るくなってきている。

果歩 
「友哉・・・私友哉の事好きだよ。」

友哉 
「ん?ハハッ、どうしたんだよ急に。」

果歩 
「なんとなく言ってみただけ・・・。」

果歩は布団の中で友哉に抱き締められるのが好きだった。

それだけで、全てが満たされている気がする。友哉からの愛情が身体に染み込んでくるのが分かる。

果歩はそれをしみじみと実感しているのだ。

友哉と果歩はSEXを一切していなかった。

あえてSEXをする必要が無かったのだ。

いつか果歩の心が完治すれば、するかもしれない。

でも今はしなくて良いのだ。

今はこうやって抱き締め合っているだけで2人は満たされているし、これが果歩にとって最高の治療にもなっている。

果歩 
「・・・・」

同棲して最初の頃は、あの男の事を思い出す事が多かった。

あの男の声、匂い、逞しい肉体。

そしてあの強烈な快感。

果歩にとってはトラウマになっている、悦びと絶望が入り交ざった全身が溶けるようなあの快感。

今頃どうしているのだろうと、あの男の事を思う日もあった。

あの暗く冷たい世界で、唯一共存していた人。

・・・あの人は孤独だった・・・

そんな事を思い出すと、決まって果歩は発作を起こしていた。

号泣したり、過呼吸になったり。

その度に友哉に抱き締めてもらっていた。

友哉 
「果歩、大丈夫だよ・・・少しずつ忘れていこう。」

果歩 
「でも・・・私・・・あの人・・・1人に・・・」

友哉 
「果歩・・・仕方の無い事なんだよ。果歩は悪くない・・・果歩は幸せになっても良いんだよ。」

そうやって果歩は友哉の優しさに包まれて、少しずつあの世界の事、あの男の事を心から消していく。

そしてあの男の事を忘れるのと比例するように、果歩の精神状態は回復していった。

ゆっくりと忘れて、ゆっくりと離れていった果歩。

いつしか、あの男の事は遠い世界にいる存在のように感じるようになった。

そう遠い世界に・・・。

しかし・・・あの男は確かに現実世界に存在している。

その事を友哉も果歩も少し忘れかけていたのかもしれない。

縋る者が居なくなってしまった孤独な人間は・・・あの男は、ひとり暗闇の中をさ迷っていたのである。

愛情と安らげる場所を求めて・・・。

その日も果歩は、アルバイトを終えて疲れて帰ってくる友哉のために夜ご飯の仕度をしていた。

今日は買い物に行く日、火曜はスーパーの特売日なので安く食材が手に入るのだ。

そして近頃は果歩の料理の腕も少しずつ上げってきていた。

果歩 
「友哉、今日は期待しててね!絶対美味しいもの作るからっ。」

友哉 
「ハハッ分かったよ、じゃあ期待してる、今度こそな。果歩はあんまり気合入れすぎると失敗する傾向があるからなぁ、気を付けろよ。」

果歩 
「も~今日は絶対失敗しないよ。」

友哉 
「じゃあ昼飯少なめにしとくからさ、多めに作っといて。」

果歩 
「うん、了解!フフッ・・・」

そう笑顔で言う果歩を見て、友哉は嬉しそうにしていた。

・・・よかった、昔の果歩が戻ってきたみたいだ・・・

果歩 
「フフッ、お肉サービスしてもらっちゃったぁ。」

買い物を終えアパートに帰る途中、買い物袋の中を覗きながらニコニコ嬉しそうにしている果歩。

その時、バックに入っていた果歩の携帯が鳴る。

♪~♪~♪~

着信音でその相手がすぐに分かる、友哉からだ。

友哉 【ごめん果歩、今日風邪引いて休みの人がいてさ、その分仕事が多くてちょっと帰り遅くなりそうなんだ。なるべく早く帰れるようにはするから、いいかな?】

果歩 【全然いいよ、でもあんまり無理しないでね。温かくて美味しい料理作って待ってます。】

そう返信メールを送った果歩。

果歩 
「遅くなるのかぁ・・・よし!その分いっぱいご馳走作ってあげよっと。」

携帯を閉じてそう意気込んだ果歩は、少し早歩きでアパートへと向かった。

果歩は友哉のために料理を作る事が本当に楽しいと感じていたし、料理を作っている時が幸せを感じる時間でもあったのだ。

しかしアパートへ帰る途中、果歩は全く気付いていなかった。

後ろからあの男がついて来ているのを・・・。

果歩 
「えっと・・・鍵は・・・」

アパートに着き、バックの中から部屋の鍵を取り出してドアを開ける果歩。

ガチャ・・・・

果歩 
「ふぅ、重かったぁ・・・」

果歩はそう1人呟き、玄関に荷物を置いて後ろ手でドアを閉めようとする。

その時だった。

ガタン・・・

何かがドアに挟まった音。

果歩が下を見ると、そこには人の足がドアが閉まるのを止めるようにして挟まっていた。

果歩 
「ぇ・・・・?」

ゆっくりと目線を上へと持っていく果歩。

そして顔を上げて目の前に居る人物を確認した所で、果歩は目を丸くした。

果歩 
「・・・・ぁ・・・ぁ・・・・」

あまりの驚きに、果歩は声を出す事ができなかった。

そう・・・その人物とは、あの男だったのだ。

富田 
「・・・探したぞ果歩ぉ・・・勝手に居なくなっちゃダメだろ?・・・お前は・・・俺のモノなんだからよ。」



コメント

  1. メンメン より:

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    京香さんこんにちは。

    最後の最後ですね、もう…

    富田さんのサディスティックな部分見れるかはどうかなぁ(笑)

    ありがとうございます☆木曜は休んでしまいましたが、金曜頑張ります。

  2. メンメン より:

    SECRET: 0
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    美桜さんこんにちは。

    表コメの流れが来てますねぇ(笑)

    結構コメント読みたがっている方もいますからね☆

    果歩が心配ですよね、さぁどうなるでしょうか…。

    ちょっと休んでしまいましたが、完結まで頑張りますね!

  3. メンメン より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます。
    そして僕の小説に対してそこまで色々と考えて頂けているなんて…凄く嬉しいです、ありがとうございます。

    そうですねぇ、富田さんは訴えられたら逮捕されるレベルですよね、たぶん。

    富田さんはまさに今で言う肉食系だとは思いますが、同時に物凄く弱い部分も持っている人ですからね。
    その弱さを克服して果歩と上手くいってほしいって思っている人が多いのかもしれませんねぇ。

    ただ、まさるさんの仰る通り、富田さんは果歩にヒドイ事をし過ぎました。
    あれはきっと果歩の心に一生の傷を負わせてしまったと思いますしね。

    作者の僕が最終的にハッキリとした答えを出せるかどうかは分かりませんが、僕なりに登場人物の事を熟慮して書き、完結を迎えたいと思います。

    完結したら皆さんにどんな感想を頂けるかなぁって凄く楽しみにしています。
    まさるさんももし宜しければまた感想コメントなど頂けたら嬉しいです。

    こちらこそ、広大なネットの世界でこのブログを見つけて頂いて、そして僕なんかの小説を真剣に読んで頂けて本当に嬉しいです、感謝申し上げます。

  4. メンメン より:

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    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます。

    このブログを見つけてくれて有り難うございます。そんな風に言って頂けて本当に嬉しいです。

    そうですねぇ僕もできれば3人ともに幸せになってほしいですけどねぇ…できれば…さて…どうなるでしょうか。

    ちょっと1日休んでしまいましたが、完結まであと少しですから頑張ります!

  5. メンメン より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    コメントありがとうございます。

    そう言って頂けると凄く嬉しいです。

    そうなんですかぁ、富田さんみたいな人と…富田さんタイプと友哉タイプでは正反対ですもんねぇ、難しいですよね。
    果歩は若干本能のままに動き過ぎている感じはありますが、どうなるでしょうか…。

    ハッキリとした答え・結論が出せるかどうかは分かりませんが、頑張って書きたいと思います。

  6. 美桜 より:

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    私も習って表コメ。(笑)

    せっかく良い方向に向いて来たのに、果歩はまた苦しむのかしら。(T_T)

    友哉の帰宅は遅いらしいから、何かの助けは期待出来るかな。(ノ△T)

  7. まさる より:

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    毎日かかさずドキドキしながら読んでいます。私は、富田さんより断然、友哉さんとハッピーエンドになってくれたらと思っています。富田さんは女性の弱みにつけこんで女性の全てを思うがままにし、他の男性と数々の性交をさせ肉便器扱いし、今更オレのもんだって?はぁ?って感じです。ちょっとカチンときました。精神科へ通わせるまで追いつめたことは、重罪に値すると思います。
    富田さんと果歩ちゃんがうまくいってほしいと思っている人の気持ちが全く理解できません。草食系の男性が増えつつある昨今、逞しい男性がいいと思っている女性が富田さんを応援しているのではないかと勝手に想像しているわけではありますが、メンメンさんの小説に出てくる富田さんはひどすぎます。生い立ちがどうであれ、人様に迷惑をかけるようなことがあってはならないのです。赤い手首って見たことある人ってどれくらいの割合でいるのだろう。私は身内にいました。このようなことは絶対にあってはならんのです。果歩ちゃんが早く元気になって、ハッピーエンドが迎えられることを祈っています。また、ここまで感情移入することができる小説を作成されているメンメンさんに感謝申し上げます。

  8. 私も。。 より:

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    偶然、メンメンさんの小説と出会いました。毎日楽しみにしています。
    どんどん面白くなっていきます。
    私は友哉くんも富田さんも果歩ちゃんも皆幸せになって欲しいです。

  9. あきこ より:

    SECRET: 0
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    こんばんは。

    ずっとハラハラしながらも、毎日楽しみにしてます。

    友哉みたいな人といれれば幸せなんだろうと思いながらも、実際の私は、富田のような人に惹かれてしまいます。
    友哉のような彼氏と別れて、今、富田みたいな男と一緒にいますが、これで良かったのかとたまに考えます。
    だからこそ、果歩がどんな答えを出すのか、すごく気になってます。

    最初は官能小説目当てで読んでいましたが、いまは普通の小説として楽しみにしてます!
    クライマックス、頑張ってください!!

  10. 京香 より:

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    いよいよ、果歩ちゃんと富田さんの決別の時でしょうか?

    富田さんは、サディストらしく縋らず果歩ちゃんの元を去って行けるのしょうか^^

    最後の最後まで、更新楽しみにしています♪

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