官能小説 人妻 吉井香苗(9)

香苗 
「や……やだぁ、中嶋さん酔ってるんでしょ?」

一瞬言葉を失っていた香苗だったが、そう言って中嶋からの問いをはぐらかした。
わざとクスっと笑い、お酒の入ったグラスに口を付ける。

しかし大人の女性として中嶋からの少しセクハラじみた言葉を軽くかわしたつもりだった香苗だが、顔は先程までより赤くなっていて、内心の動揺を隠せていなかった。

耳の先が熱い。

なんとなく、こんな事で動揺している自分を中嶋に気付かれたくなかった。

中嶋 
「へへ……冗談ですよ。でも奥さんは可愛らしい方だなぁ、これくらいの事で赤くなっちゃってさ。」

香苗 
「も、もう!からかわないで下さい中嶋さん。恭子さんに聞かれたら怒られますよ。」

あっけなく動揺を見事に見抜かれた香苗は、さらに顔を赤くして中嶋にそう言った。

中嶋 
「別に構いませんよ、恭子は俺がこういう男だって知ってますから。」

中嶋の言うとおり、香苗はこの程度の事で顔を赤くしている自分がどこか恥ずかしかった。

結婚する前までは普通に何気なく男性とも話していたし、飲み会などの席では男性陣から下品な言葉も飛んでいたけど、その時は別にそれに反応する事なんてなかった。

でも結婚してからは、めっきり旦那以外の男性との関わりは無くなっていたため、やはりそういったモノへの免疫力が下がっていたのかもしれない。

……もういい大人なのに……

中嶋 
「ところで奥さんは、スポーツジムとかに通っているんですか?」

香苗 
「……え?いえ、特にそういうのは。」

中嶋 
「へぇ~そうなんですかぁ……でも凄くスタイル良いですよねぇ、よく言われるでしょ?」

そう言った中嶋の少し充血した目が、香苗の身体を下から舐めるかのように視線を送ってくる。

香苗 
「ぇ……?」

女性なら多くの者が感じたことのある、男性からの胸や腰への視線。

学生時代も社会人時代も、多くの女性がそうであるように、香苗もよくそれを経験していた。

もちろん、時にそういった男性からの視線に嫌悪感を抱く時もあった。しかし中嶋のそれからは不思議と全くそういったものを感じない。

それがなぜなのか、今の香苗にはよく分からなかったが、とにかくその視線に反応しているのか、胸の鼓動が異常に速くなっている事だけは確かだった。

香苗 
「ま、またそんな事言って……いつも会う女性にそんな事言ってるんですか?」

香苗は顔を赤くしたまま再び中嶋の言葉をはぐらかすように、そう言い放つ。

中嶋 
「奥さんを見て素直にそう思ったから聞いたんですよ、ホントに旦那さんが羨ましい。でも興味あるなぁ……旦那さんはどんな方なんです?」

2人きりになってからの中嶋との会話に、驚くぐらいに緊張している自分がいる。
それに対して中嶋は凄く冷静に見えた。
やはり女性との会話に慣れているのか。中嶋の態度からは凄く余裕を感じられた。

香苗 
「夫……ですか、うちの夫は……」

ガチャッ……

香苗がそう言いかけたところで、リビングのドアが開いた。

恭子が戻ってきたのだ。

恭子 
「フフッ香苗さん、英治が変な事聞いてきませんでした?」

恭子がソファに腰を下ろしながらそう言うと、素早く中嶋がそれに反応する。

中嶋 
「変な事なんて聞いてねぇよ。ねぇ奥さん?旦那さんの話をしてたんだよ。」

香苗 
「え?えぇ……。」

中嶋のちょっとした嘘に、なぜか反射的に歩調を合わせてしまう香苗。

恭子 
「へぇ……あ、そういえば香苗さん、祐二さん遅いですね、もうこんな時間なのに。」

恭子にそう言われて時計を見ると、もう時計の針は11時を回っていた。

香苗 
「あらホント、途中からでも参加できそうだったら連絡してって言っておいたんだけど……忙しいのかな。」

中嶋 
「残念、旦那さんがどんな人なのか一目いいから見たかったなぁ。また今度紹介してくださいよ。」

香苗 
「……えぇ、またぜひ。」

気付いた時には、中嶋の表情は元に戻っていた。

恭子が帰ってくるまではまるで品定めでもされているかのような、ネットリとした笑みと視線を送ってきていたのに。

恭子 
「でも休日出勤なのに随分遅いですね、何かあったんですかね?」

香苗 
「う~ん……電話してみようかな。ちょっと……うん。」

祐二は今日突然の出勤であったし、確かに休日の出勤でこんなに遅いのは珍しい。

どうしたんだろう?と、少し気になった香苗は、携帯片手に席を外し、リビングを出た。

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