家庭教師 小森千佳(9)

千佳 
「お邪魔しまーす……」

康介 
「来た来た、飲み物用意するからその辺座ってていいよ。先生はお茶でいい?」

千佳 
「う、うん……ありがとう。」

康介はこの前となんら変わらぬ様子で、千佳を部屋に招き入れた。

そして千佳は言われたとおり、ソファに座る。

ふと目を向けた前のテーブルの上には、サッカーのスポーツ雑誌が置かれていた。

それだけ見てみても、なんとなくここは男の子の部屋なんだなと、千佳は感じる。

考えてみれば、高校生とはいえ恋人でもない男の部屋に当たり前のように1人で入っていくなんて、千佳にとっては結構大それた事だ。

康介 
「今日さぁ、すっげぇ暑くない?もう暑すぎて学校行く気失せるわ。」

飲み物を持ってきて千佳の前に出した康介は、何気なしにそんな話題をふってきた。

まるで友達に話し掛けてくるように。

前回余った時間で沢山会話したからなのか、2人の間になんの壁も感じさせないような話し方を康介はしてくる。

千佳 
「うん、暑いよね最近。」

康介 
「あ~海行きてぇなぁこんな日は。今年はまだ行ってないからなぁ。先生はさ、海とか行かないの?」

千佳 
「海?うーん……大学2年の時に友達と行ったっきりからなぁ。でもあんまり、焼けるのが苦手っていうか。」

康介 
「ふーん、先生肌白いもんね。で?先生その時どんな水着着たの?やっぱビキニ?」

千佳 
「え?……うん……一応ビキニだったかな……。」

康介 
「へぇ、どんな水着?何色?」

千佳 
「色は……青とか白のストライプ……みたいな感じだったかなぁ。」

康介 
「へぇ、なるほどねぇ……。」

そう言って康介はニヤニヤ顔で、千佳の身体の方に目線をやった。

千佳も当然身体へのその視線を感じている。

千佳 
「……あの……康介君?」

康介 
「先生ってさぁ、結構オッパイ大きいよね。何カップあるの?」

前回と同様の、康介からの少し卑猥な質問に千佳はまた顔を赤くした。

千佳 
「なっ……そ、そんな事教えません!……もう……康介君ってそういう質問ばっかり……」

康介 
「ハハッ、またこのくらいの質問で恥ずかしがっちゃって、可愛いなぁ千佳先生は。」

千佳 
「もう、からかわないで!……あっ、こんな事話してる場合じゃないよ康介君、今日はさっそくお勉強始めましょ。この前のプリント、康介君が間違ってた箇所もあったから、そこの見直しからね。」

千佳は意識的に話題を切り替えるようにしてそう言うと、鞄からプリントなどを出して勉強の準備を始める。

しかしこれも前回同様、康介はなかなか勉強に取り掛かろうとはしなかった。

康介 
「え~もう始めるのかよ。もうちょっと力抜いていこうよ、のんびりさ。」

千佳 
「そういう訳にはいかないよ。私、康介君とおしゃべりするために来てるんじゃないし。ほら、早く机について。」

康介 
「なんだよ、急に学校の先生みたいになっちゃって。俺さ、今日全然やる気ないんだよね、勉強とか。そういう気分じゃないから。」

そんな事を言われてしまっては元も子もない。

勉強する気がない人に勉強を教えるなんて事は難しい。

これはいくら勉強を教えるのが上手な人でも、相手にやる気がないのではどうしようもない。

千佳 
「……康介君、そんな困るような事言わないでよぉ。それに今しっかり勉強しておかないと来年苦労するよ。」

康介 
「別に苦労なんてしないよ。俺、大学なんてどこでもいいし。いいじゃん先生、勉強教えてなくてもこの部屋に毎回来てくれればうちの家、ちゃんと給料払ってくれるよ。」

千佳 
「え~……でもそういう訳には……。」

康介 
「こうやってさ、勉強よりも先生と色々話している方が楽しいじゃん。」

千佳 
「だーめっ!やっぱり駄目よそんなの。もう……困った子だなぁ……康介君、どうやったらやる気出してくれるの?……あ、そうだ!ご褒美あげようか?勉強がちゃんとできたらご褒美あげる。」

千佳が思い立って出したそのご褒美という言葉に、康介は反応を示す。

ご褒美という言葉をどういう風に受け止めたのか分からないが、康介は少し嬉しそうに笑っていた。

康介 
「へぇ……ご褒美?何々?それってどういうご褒美?」

千佳 
「ん~そうだなぁ……あ、そういえばアレが少し残ってたっけ……。」

千佳は何かを思い出しかのようにそう言うと、持ってきた自分のバッグの中に手を入れて何やらガサゴソと音を立てながら探し始めた。

康介はそんな千佳の行動を不思議そうに見つめている。

千佳 
「これね、私は大好きなんだけど……あ、あった!」

そう言って千佳がバッグ取り出した物、それはキャラメルだった。

千佳 
「これ駅前のパティスリーで作ってる特性のキャラメルなんだよ、スッゴイ美味しいから。お勉強ちゃんとできたらこれ1つあげるってのはどう?」

しかしそれを見た康介の表情は、笑顔から一気に呆れ顔に変わる。

そして康介は乗り出していた体をソファの背にもたれさせて、大きくため息をついた。

康介 
「はぁぁ……なんだよそれ、俺はガキじゃないっての。そんなご褒美で喜ぶわけないだろ……。」

千佳 
「え?駄目なの?これキャラメルにしては結構高いんだよ?」

康介 
「駄目に決まってるだろ。あ~期待して損したわ。」

千佳 
「え~そんな……じゃあ、康介君はどういうご褒美ならいいの?」

千佳は困り果てたような表情で康介に問う。

このままでは家庭教師としての自分の役目を果せない。
給料は出ると言われているのにそんな風に思ってしまうのは、やはり千佳が真面目な性格だからなのだろう。

康介 
「そうだなぁ……例えば……」

千佳 
「例えば?」

康介 
「……先生のオッパイ、何カップか教えてくれるとか。」



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