私の事、どう思ってるの?
そんな事を聞けば、康介はきっと困るだろうと千佳は思っていた。
しかし千佳にそう聞かれても康介の表情は一切変わらず、そして困るどころか、どこか余裕さえ感じる態度でこう答えた。
康介
「どうって……アイツはさ、ただのあれだよ?セフレだよ?」
そう言いながら少し笑みを浮かべながら康介は飲み物を口にした。
千佳は自分の事をどう思っているのかと聞いたのに、康介はそれに答えていない。
だがきっと、康介は女性からこういった事を言われるのに慣れているのだろうと千佳は思った。
そして康介にとって自分は、その多くの女の中の1人でしかないのだと。
康介
「なに?千佳先生って、そういうの気にする方なの?」
千佳
「……気にする方って……私は……」
康介
「じゃあさ、千佳先生はさ……どう思ってるの?」
向かいのソファに座っていた康介はそう言って立ち上がると、移動して千佳の隣に座りなおした。
そして何の躊躇もなく長い腕を千佳の肩に回した。
千佳
「こ、康介君……?」
いつもなら肩を抱かれれば寄り添うようにして康介に身体を預ける千佳だが、今日はやはりどこか身体が強張っている。
康介
「どう思ってる?」
千佳
「……ど、どうって?」
康介
「俺が千佳先生の事をどう思ってると千佳先生は思ってるの?」
千佳の肩をグッと抱き寄せて、耳に息を吹きかけるようにして康介は聞き返す。
千佳
「……私は……それが分からないから……」
康介
「ホントに?分からないの?これだけ長い時間いっしょにいたのに。」
肩に腕を回されて、抱き寄せられて、手を握られて、でもそれを拒否する事がなぜか全くできない。
康介にこうやって身体を触られて顔を近づけられると、やはり胸が熱くなってしまう。
ときめいているとか、そんな初々しくて甘酸っぱい気持ちではないけれど、ドクドクと濃厚な感情が心の奥から溢れてくる感じ。
康介が言ったとおり、2人はこの部屋で長い時間を共に過ごしてきた。千佳にとって、その時間は確かに特別なものだった。
今までの人生で、こんなに楽しくて心が満たされるのを実感する時間は他にはなかった。
それは千佳の中から決して消せない記憶。消せない康介という存在。
数日間苦しんで苦しんで消そうとしても消える事はなかった。それどころかそれは千佳の心の中で大きくなるばかりだったのだから。
千佳
「……」
しばらく千佳が何も答えられずにいると、再度康介はゆっくりと口を開いた。
康介
「特別だよ、千佳先生は。」
千佳
「……特別?」
康介
「そう、千佳先生は俺にとって特別な存在だから。」
そう言った康介は千佳の目をじっと見つめながら真剣な表情をしていた。
千佳はそんな康介と数秒間見つめ合った後、少し顔を赤くしながら俯く。
千佳
「……特別だなんて……言われても……」
それが康介が本心で言った言葉なのかどうかなんて、そんな確信は持てるはずがなかった。
しかしその決して信用しきれない康介の言葉に、千佳の心は大きく揺さぶられていたのであった。
99%嘘だと思っていても、残りの1%の可能性を信じたくなってしまう。
康介
「千佳先生は俺の事どう思ってるの?」
千佳
「……私は……」
康介
「俺の事嫌いになった?」
そう聞かれ、千佳はすぐに首を横に振った。
康介
「じゃあ教えてよ、千佳先生の気持ち。」
康介は千佳を強く抱き寄せ、そしてさらに顔を近づけて返事を待つ。
千佳
「……私……」
康介
「ん?」
間近で見つめ合う2人。
今まで言えなかった言葉が、伝えられたなかった気持ちが、千佳の心から溢れて止まらなくなる。
千佳
「……私……私、康介君の事……す……ン……」
千佳がそれを言いかけた瞬間、康介は千佳の唇を奪った。
康介に抱き締められながらのキス。閉じた千佳の目からは涙が流れていた。
千佳はずっとしたかったのだ。こうやって康介に抱き締められながらするキスを。
そしてしばらくしてからそのキスから2人の唇が一旦離れると、千佳はこう続けた。
千佳
「……康介君……お願い……私だけを見て……」
康介
「……」
それを聞いた康介は無言のままもう一度千佳の唇を奪う。今度は舌と舌を絡める深いキス。
そして千佳はそのままソファの上に押し倒されていった。
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