香苗の身体は、暗闇の中にあった。
手足はどこかに触れる事も、掴まる事もできずに、どうバランスを取ったら良いのか分からない。
ただ、身体全体が急降下していく感覚だけが続く。
これだけ長い距離を落ち続けているのだから、きっと地面に到達した時には命は無いだろう。
でも視界は真っ暗で、いつ地面に叩きつけられるのか、いつ自分が死ぬのかは分からない。
5秒後なのか、10秒後なのか、1分後なのか、それとももっと先なのか。
何時訪れる分からない死刑執行に脅える死刑囚は、これと同じような恐怖感を味わっているのかもしれない。
怖かった。
怖くて怖くて堪らない。
……イヤ……死にたくない……1人になりたくない……ひとりは嫌!……
……誰か……誰か助けて!……祐二……
香苗
「……ッ!!」
突然その場で起き上がった香苗。
香苗
「……ハァ……ハァ……」
乱れた呼吸。
どこにも触れる事ができなかった身体が、何かに支えられている。
自分は地面に叩きつけられて潰れてしまうのだと思っていたのに、足腰に伝ってくるのは固い地面ではなくて、何か柔らかく心地の良い物だった。
白い光が眩しくて、なかなか目が開けられない。
もしかしてここは〝あの世〟なのかもしれない。
……私……ひとりぼっちに、なっちゃったの……?
香苗
「……ここは……?」
今香苗がいる場所、そこが寝室のベッドの上だと気付くのには、しばらく時間が掛かった。
香苗
「……ん……はぁ……」
額に滲んだ汗。体温が少し高くて、身体が重い。
ダメだ、まだ意識がはっきりしない。
これが現実の世界なのか、夢の世界なのかが分からない。
そんな香苗を呼び覚ましたのは、匂いだった。
少しだけ開いていたドアの方に目を向ける。
確かここは香苗が住んでいたマンションと同じ部屋。
そうだ、あの人と暮らしていた部屋と同じだ。
匂いはそのドアの向こうから漂ってきていた。
しばらく深呼吸を続けて息を整えてから、ベッドからヨロヨロと立ち上がった香苗は、ゆっくりとした足取りで寝室を出た。
何かが焦げたようなこの匂い。なんだか前に嗅いだ事があるような。
ううん、違う。前はもっとボンヤリとした匂いだった。今回はそれがハッキリしている。
そしてそんな香苗の耳に、今度はハッキリとした声が届く。
「熱っ!はぁ、上手くいかないなぁ。」
それはキッチンの方から聞えた。
香苗
「え……?」
ひとりぼっちの世界に来てしまったのだと思い込んでいた香苗は、人の気配を感じて驚き、小走りでキッチンへと向かった。
祐二
「おお香苗!起きてきたか!朝飯作ろうと思ってやってたんだけどダメだな!あ~あ、真っ黒だ……。」
そこには着慣れないエプロンを身に着けた、祐二が立っていた。
コンロの火にかけられたフライパンからは煙が出ていて、中の物は黒く焦げてしまっている。
祐二
「たまたま香苗より早く目が覚めたから、偶には俺が作ってやろうかと思ってさ。でもやっぱりダメだな。俺料理の才能ないわ。」
香苗
「……祐二……?」
こちらに笑顔を向けてくる祐二を、香苗はボーっと見つめていた。
祐二
「ん?どうしたんだ?まだ寝ぼけてる?香苗、いつも目覚め良いのに。昨日レストランでワイン飲んだからか?」
香苗
「……私……」
過去の記憶が混乱する。
祐二と行ったレストラン。桜並木。
中嶋の不気味な笑み。
祐二と義母の驚いた顔。
そしてあの絶望感。暗闇の世界。
香苗はもう、何がなんだか分からなくなっていた。
でも、今自分の目の前には祐二がいる。それだけは確かだった。
私が愛する人。
一番大切な人が目の前にいて、その人がこちらに笑顔を向けている。
祐二
「それより香苗、悪いんだけどさ、朝飯作ってくれないか?俺が作ったこれ、たぶん食えないからさ。」
自嘲気味に笑いながらそう言った祐二。
香苗は、そんな祐二に思わず駆け寄り、そして抱きついた。
祐二
「おっと!……急にどうしたんだよ香苗。」
愛する人に抱きついた。
愛する人の体温、
愛する人の鼓動を感じる。
祐二の存在を感じて、香苗は自分が生きているのだと、ここが現実世界なのだと実感した。
香苗
「祐二……私をひとりにしないで……お願い……お願いだから……」
香苗は涙を流しながら、祐二の胸の中でそう言った。
祐二
「香苗……?」
祐二は少し驚いているような顔をしていたが、香苗が涙を流しているのに気付くと、そっと香苗を抱き締めた。
祐二
「どうしたの?悪い夢でも見てた?」
香苗
「ぅぅ……祐二……ぅぅ……」
祐二
「大丈夫、俺はずっと香苗と一緒にいるよ。香苗をひとりぼっちになんか、絶対させないから。」
祐二の声は、凄く穏やかだった。
祐二が声が身体に染み込んでくると、不思議と心が温かな安心感に包まれていく。
もう離れたくない。
失いたくない。
この人とずっと一緒にいたい。
香苗の涙はなかなか止まらなかったし、祐二に抱きついたまましばらく離れようとはしなかった。
祐二にはどうして香苗が泣いているのか、分からなかった。
それでも祐二は香苗の気持ちをしっかりと受け止めている。
言葉では伝わらない何かを、祐二は香苗から感じ取っていたのかもしれない。
コメント
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もし自分の理解力,読解力がないただの勘違いならすみません。
これってつまり夢オチってやつですか?
もしそうならこれは一番やってはいけないのではないかと。
一読者の分際で生意気言ってすみません。
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ま…まさかの夢オチ?!
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夢?
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なんか文の繋がりが不自然な感じがして、夢だったのがストンとこない感じです(^_^;)
それもアリなのかもしれませんが…
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香苗さん…、ショック過ぎて現実逃避しちゃいましたか!?
こっちが夢とか?
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読みごたえある話だったのにラストでぶち壊した感じ
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夢は一人称で見るもの。全て香苗目線で展開されていたならまだわかるが、中嶋目線の話もある中でこれはありえないと思う。
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かなえの大罪をすべてなしにするのはありえない。ただ全てかなえのゆめならばありかもしれないが、いずれにしても恐ろし女。
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メンメンさん、
長編、お疲れ様でした
以下、感想です。
あー。。
なんて甘い女…
散々やることやっといて
「ひとりはイヤ…」
なんてよく言えるな…。。
不倫するなら
それなりのリスク抱えてほしい。。
たしかに
旦那さんや義母に
あんな場面見せちゃうのが
事実なら酷すぎるけど
でも「夢」で終わらせちゃうなんて
同じ女目線で見ても
この結末は
なんか香苗に甘すぎて
なんらかのお仕置きは必要だったのでは…
って思えてなりませんでした
次回作
楽しみにしてます
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確かに甘いよね(笑)女が嫌いな女だ・・
夢オチにビックリしたけど
私なんか、離婚されてハードSMクラブにでも落ちる、って展開イメージしてた。でも、これじゃツマラないもんね。
メンメンさん、お疲れさまでした。
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残念!
話が盛り上がってただけに、最後にチャンチャンて感じが消化不良気味です。
いずれにせよ長編お疲れさまでした。
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夢なら、よかったぁ♪
あのままだと、あまりに酷ですもんね。
やっぱり、愛する人の体温が一番です^^
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…いゃまだ完結する前からあれこれ批評するのはどうかと。
でも夢オチなら…
残念。
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夢オチなんですかね。
香苗は大罪。
では、男の早い・下手・独りよがりは罪じゃないんでしょかね(^_^;)
私は香苗より夫のが許せません。
お疲れさまです。
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> 一部夢だったという事ですね。
>
> すみません、分かりにくくて(汗)
>
> 香苗と祐二がレストランや桜並木から帰ってきた夜に見た夢という事になってます。
>
> 展開に無理があったかもしれませんね。
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> すみません。分かりにくかったですよね。
>
> 一部分が夢だった。レストランと桜並木から帰ってきた夜に見た夢という事になっています。
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> お返事遅くなってすみません。
>
> ちょっと不自然で分かり難い文章ですよね、すみません。修正する必要がありそうです。
>
> 一応一部分が夢だったというつもりで書きました。
>
> レストランや桜並木から帰ってきた翌日の休日が、夢の休日(祐二と義母に見られてしまう)と現実の休日が繰り返されている、という展開でした……のですが、ちょっと無理がありましたね。
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> コメントありがとうございます。
> お返事遅くなってすみません。
>
> わかり難い文章ですみません。夢だったのは義母が来ると言っていた休日の話だけで、他は現実のもの、という事になっております。
>
> ちょっと文章の繋げ方に無理がありましたね。
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> コメントありがとうございます。
> お返事遅くなってすみません。
>
> 夢は一部分(義母が来る休日だけ)で、あとは現実です。分かりにくかったですね、すみません。
>
> 一応香苗には最終的に天罰?が下りました。いや、一番辛いのは祐二かな……。
>
> という事で、8月から新作連載しますので、そちらも読んで頂けたら嬉しいです。
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> コメントありがとうございました。
> お返事遅くなってごめんなさい。
>
> まだあの時点では完結じゃなかったのです。すみません、まだ続きますとか書けば良かったですね。
>
> 結果的には香苗には結構厳しい結末だったのではと思います。というか、一番厳しいのは夫の祐二ですけど。
>
> 新作は8月からスタートです。またこちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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遅くなってすみません。
コメントありがとうございました。
まだあと完結まで少しありました。すみません分かり難くて……。
1ヵ月休みましたが、8月から新作スタート。こちらも宜しくお願いします。
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遅くなってすみません。コメントありがとうございます。
夢……だったんですけど、その後また現実に戻って、結果的にはバッドエンドで完結してしまいました。
やっぱりハッピーエンドが良いですか。でも不倫・浮気物はハッピーエンド難しいんですよねぇ。
次回作も結末はまだ分かりませんが、また興奮してもらえるように頑張りますので読んでもらえたら嬉しいです。
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遅くなってすみません。
コメントありがとうございます。
確かにそうですね。祐二にも原因はありますよね。
やっぱりSEXは大事です。
結果的には夫婦2人共に罰が下りました……。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。