香苗
「もう何なのよあの人、あんな格好で……。」
自室に戻った香苗は動揺覚めやらぬ状態でそう呟いた。
一瞬で目を背けたものの、香苗の頭の中にはバスタオル一枚だけの中嶋の姿が焼きついてしまっている。
小麦色に焼けた肌、太い腕、厚みのある胸板、割れた腹筋。
中嶋の身体は、同じ男性であるにも関わらず、夫である祐二の身体とは全く違うものであった。だから香苗は余計に驚いてしまったのかもしれない。
まさに男らしい身体というのはああいった身体の事を言うのだろうか。
香苗
「……はぁ……」
変に高ぶってしまっている気持ちを落ち着かせようとキッチンでミネラルウォーターをコップに注ぎ、口に運ぶ。
身体の中に入ってくる水の冷たさが心地良く感じる。
その冷たさを体内で感じた時、香苗はようやく気が付いた。自分の身体が異様に火照っている事に。
まるであの盗み聞きをしていた時のように。
香苗
「……イヤ……あんなの見ちゃったから……」
香苗は自分の身体が性的なものに反応し、興奮をし始めている事を自覚せざるを得なかった。
ドク……ドク……と身体の中心から体温が上昇していく。
中嶋の前から離れ自室に戻ってきても、それは全く下降へと向かおうとはしていない。
寧ろ興奮はさらに高ぶっていってしまう。
そして香苗はどうしても想像してしまう。
あの筋肉質で太い腕、あの大きな手に自分の細い腕を掴まれたらきっと逃げられない。
そのまま引っ張られれば、糸も簡単に部屋の中に連れ込まれてしまっていただろう。
そして……
香苗
「……ハァ……。」
熱い吐息が漏れる。
実際の中嶋は香苗にそんな素振りは全く見せなかった。
しかし今の香苗の頭の中は〝いけない〟妄想だけで埋まってしまっていたのだ。
中嶋のような男性。祐二とは全くタイプの違う男性。
あんな逞しい身体を持った男性に抱かれたら……どうなってしまうのだろう……
ジンジンとした疼きを下腹部に感じながら香苗は頭を横に振る。
香苗
「もうイヤ……カレーなんて持って行かなきゃよかった……。」
香苗は自分で分かっている。
もうこうなってしまっては自分は自慰行為を我慢する事はできないだろう。
頭では自分自身に憤りを覚える程後悔しているにも関わらず、身体はそれを明らかに喜んでいる。
中嶋の裸を見た瞬間から入れられてしまったあのスイッチ。そう、あの発情のスイッチ。
あんな事で簡単に自分の中のスイッチを押されてしまうなんて。
香苗
「……ハァ……」
いくら我慢しようとしても我慢できない事は分かっている。
だから香苗はあえて我慢する事をすぐに止めた。
この興奮を発散しなければ、妄想の中の中嶋は頭の中から出て行ってくれない。
ミネラルウォーターをゴクゴクと飲んだ後、香苗はそのまま寝室へと向かった。
香苗
「ァァ……ハァ………ン…ァ……」
夫が出張で居ないからなのか、今日の香苗の喘ぎ声は少し大きめだった。
クチュクチュクチュ……!!
ベッドの上で一糸纏わぬ姿になっている人妻は手を股間で激しく動かしている。
発情したメスの激しいオナニー。それはこのメスが激しい性行為を望んでいる事の証である。
香苗
「ハァ……ンァ…ああ……ンッ…ァ……」
たった5分だ。
中嶋に会ってから、たったの5分後に、香苗は寝室で自慰行為を始めたのだ。
昼間はあれ程はっきりと我欲からの決別を決心していた香苗が、今は異常なまでの性欲にドップリと浸って溺れている。
身体の中で発生したドロドロしたものはあっという間に全身を支配してしまう。
昼間はそんなもの、全く気配すら無かったのに。
暴走し爆発してしまった性欲は、もう自分では止められない。
……本当のあなたは違うでしょ?
……本当は凄くエッチなんでしょ?
……エッチな事をしたくてしたくて仕方ないのでしょ?
そんな言葉を、心の中に居るもう1人の自分が問いかけてくる。
そしてそのもう1人の自分は決定的な一言を香苗に言ってくる。
……もうね、あなたの身体は祐二じゃ満足できないのよ、本当は分かっているのでしょ?
……一生祐二とのSEXだけで我慢できるの?
コメント
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お久しぶりです。
メンメンさんの小説、久しぶりに読みました。
私は結婚していないですけど、旦那(彼)じゃない男性に魅力を感じてしまう主人公の気持ちが少しわかる気がしました(笑)
無い物ねだりっていうか……。真っ直ぐ旦那だけ見ていれば気付かないことでも、ちょっと回りに目を向けた時にカルチャーショックみたいなのを受けることってあるんですよね(>_<)
でも欲情しても関係は持っちゃいけない!!
と思いました☆
自分への戒めにしますね(笑)
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きのこさんお久しぶりです!
コメントありがとうございます。
やっぱり男性も女性も、性的な興奮って非日常的なものじゃないとなかなか感じる事できませんよね。いつかはマンネリ化してしまうと思いますし。
でも現実にそれをやってしまうのは、やっぱり抵抗ありますよね。まぁ抵抗心があるから興奮するのだとは思いますが。
代わりに小説の世界でその興奮を感じてもらうのが官能小説の役割ですね。
そんな興奮できる小説を書けるように僕なりに頑張りたいと思います。