あれから、どうやって自分のアパートまで帰ってきたかはよく覚えていない。
富田家の門を出てからはずっとすすり泣きながら俯いていた。
涙でクシャクシャになった顔を周囲の人達に見られないように、いつもは窓の外の景色を眺めている電車の中でもずっと床を見つめていたりしていた。
そしてアパートの部屋に帰ってきてすぐにベッドに倒れ込み、今度は我慢せずに涙を流す。
千佳
「ぅ……ぅぅ……」
康介と知らない女の子が裸で抱き合っている。
その映像が頭の中からなかなか消えてくれなかった。
嫉妬と悲しみが千佳の胸を締め付ける。
自分と同じように身体の全てを康介に捧げている女の子に対する嫉妬。
自分がしてもらっていたのと同じように女の子を抱いている康介を見て、今まで幸せを感じていた康介との思い出が全て悲しみへと変わってしまった。
そしてその悲しみは、今の千佳には受け止められない程大きいものだった。
苦しい想いを涙に変えて吐き出しても全然間に合わない。
辛い、辛すぎる。
しかし辛くても、千佳には康介を怒る権利はない。
そう、千佳は康介の恋人ではないのだから。
今までは自分の気持ちにずっと嘘をついて誤魔化してきたのが、今日その現実を目の当たりにしたというだけ。
嘘をついていたのは康介ではなくて自分自身。
千佳が今まで感じてきた幸せは、ただの〝恋人気分〟だったのだ。
千佳
「ぅぅ……康介君……ぅ……」
……耐えられない……耐えられないよ……
康介がいない世界なんて耐えられないし、考えられなかった。
今日見た事が全て夢だったらどんなにいいか。
そしていつものようにあの部屋に行って、康介の面白おかしい話を聞いて、ふたりで笑って過ごすんだ。
……康介君に抱きしめてもらいたい……私だけを見つめて抱きしめてもらいたい……
康介が恋しかった。あの温かい腕の中が恋しい。
……でも今はきっと、あの女の子がその温かさを感じているんだ……
その日、千佳は夜中までずっと泣いていた。
食事も取らずにただ枕を濡らし、涙が枯れるまで。
尚子
「そっかぁ、まぁでも、それは宿命みたいなものね。」
千佳
「……宿命?」
次の日、尚子が千佳の部屋に来ていた。
2人とも休みの日だったから食事でもと電話で誘ってくれた尚子。
しかし千佳はとてもそんな気分にはなれなかった。だから食欲がないと伝えたら、尚子は何かあったの?相談ならいくらでも聞くよと、心配そうに言ってくれたのだ。
尚子
「そう、危険な男に溺れた女の宿命よ。」
千佳
「そんな……宿命だなんて……」
尚子
「でも、いつかはその人と離れないといけない時が来るって、千佳も分かってたんでしょ?そういう男だって事。」
千佳
「分かって……たのかな……でも、考えないようにしてたのかもしれない。ていうか、今もちょっと考えられなくて……」
尚子
「はぁ、千佳ってさ、本気で好きになっちゃったんだね、その人の事。」
千佳
「……うん……。」
涙を滲ませながらそう頷いた千佳を見て、尚子は申し訳無さそうにこう続けた。
尚子
「ごめんね千佳、前に相談乗った時に止めればよかったのかな、友人として。私、危険な恋に溺れるのっていいなぁみたいな事言っちゃったし。駄目よね、危険は危険なんだから。傷つくのは千佳だし。」
千佳
「……ううん、尚子ちゃんは悪くないよ……私もう、あの時には康介君の事好きだったから……どうしようもなかったと思う……」
そうだ、千佳は恋に落ちていた。
康介に初めて会ったあの時から。
そして今だって、そこから這い上がれないでいる。
千佳
「私……どうしたらいいんだろう……こんなの……ぅぅ……耐えられない……」
昨日枯れるまで流したというのに、また溢れてくる涙。
自分どんな弱さでも打ち明けられる親友の前だから、余計に我慢できない。
尚子
「千佳……」
尚子は千佳が泣いている姿を見て、どんな言葉をかければ良いのかずっと悩むようにして考えていた。
尚子
「……千佳……もう今日はあんまり考え込まないようにしよ?今は兎に角、千佳の心の傷を癒すことが大事だよ。」
千佳
「……癒す……?」
尚子
「そう、ご飯も食べないと身体壊すし、ね?心だけじゃなくて身体まで壊しちゃったら、本当に大変だよ。」
千佳
「……ウン。」
尚子の優しさが嬉しかった。
こんな友達が居てくれて本当によかったと。
尚子
「そうだよ、ゆっくりで良いんだから。しっかり千佳の心を癒して、それから考えよう。……そしたらきっと少しずつ忘れられるよ、その人の事も。」
千佳
「……わす…れる……?」
尚子
「そう、でもゆっくりでいいからね。忘れようだなんて考えなくていいから。」
尚子は千佳が立ち直る為の正しい道を示してくれる。
千佳もそれがきっと正しいのだと思っていた。
康介を忘れる事が、自分が選ぶべき道なのだと。
しかしそんなに簡単ではなかった。
そう、今の千佳にとってはそんなに簡単ではないのだ。自分の心と身体から康介を消す去るなんて事は。
コメント
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コメントありがとうございます。
更新遅くてごめんなさい。12月は少しずつペースを戻せるようにできる限り頑張ります★
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りぃさんコメントありがとうございます。ちょっと遅くなってしまってすみません。
そうですね、まぁ純粋過ぎるというかまだ恋愛経験が足りなくて、どうしたら良いのか分からない混乱状態なのかもしれませんね。結構恋愛に夢中になると、自分の弱い部分が剥き出しになってしまったりするので、千佳のそういう部分を書けたらなぁと思ってます。だからあり得なくはないと思いますよぉ(笑)
更新が遅くなっててすみません。ご期待に応えられるようできる限り頑張ります☆
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愛音さんコメントありがとうございます。
お返事遅くなってすみません。
先日はとても参考になるコメント・感想ありがとうございます。僕自身、あの部分は修正できてよかったなぁと思ってます。
そうですねぇ、千佳は弱い部分を持ってる子ですからねぇ。書き手としては康介のような男性とあのような形で身体の関係を持つには、やっぱり弱い部分を持ってないと展開として難しいかなと考えてます。自分をしっかり持ってる女性だったら康介のような人と付き合ってもないのにSEXはしないと思いますし。
まぁ康介が普通の恋愛ができる人だったら良いんですけど……それだとただの恋愛話になってしまうので。
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続き早く読みたいです(*≧∀≦*)
更新してください(〃^ー^〃)
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更新待ってました☆
千佳ってホント純情すぎる女の子ですね~>_<
あたしなら家庭教師の時間になったらもう一度訪ねて康介くんとしちゃいます(笑)
もしかしたら時間までには女の子帰すつもりかも…と思って。
あり得ないですかね↓↓(汗)
千佳が康介くんとまた会ってどうなるかめちゃめちゃ楽しみにしてます☆
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この間はご丁寧に返信してくださってありがとうございました!
書き直された部分も読ませていただきましたが、千佳が動揺している様子がよく伝わってきました。
前回の展開は千佳にとってはとてもショックな出来事だったでしょうね。
千佳はこれからどうするんですかねー。
曖昧な関係のまま、お互いの気持ちを確認しないままセックスしたのは自分の責任でもあるのに、悲劇のヒロインのように振る舞うのはちょっとなーって思いますが、実際にこういう人はいる気がします。
尚子ちゃんは優しい子ですね^^*
一生懸命千佳が道を外さないように導いてくれてます。
まぁ千佳のことだからきっと尚子ちゃんの言うことなんて聞かないで突っ走るんだろうけど(笑)