スーツ姿の男性が店に入ってきた瞬間、志乃はその男性に目を奪われた。
「いらっしゃいま……ぇ……」
おそらく身長が180センチ以上あるその男性は一見、芸能人かモデルをやっている人なのかと思うくらいに顔やスタイルが整っていた。
セットされた髪も、高級感のあるスーツを完璧に着こなしも、渋くて清潔感がある。
大学や志乃の周りにはいない、まさに落ち着いた大人の男性という雰囲気。
そして一番印象的だったのはその男性の眼だった。
眼光が鋭くて、近寄り難いようなオーラを放っている。
少し怖いくらい。
それなのに、なぜかその眼に意識が吸い寄せられるような感覚に陥る。
志乃は店内の席に向かう男性を、思わず目で追ってしまっていた。
「ねぇねぇ志乃、今の人、イケメンだったね!でも結構おじさん?ああいうのがイケオジって言うのかな〜、カッコイイ!志乃もそう思わない?」
「ぇ?……う、うん……」
「ねぇ志乃が注文取ってきてよ。」
「えっ!?私が!?」
「私イケメン相手だと緊張しちゃうのよ、ほら待たせちゃいけないから。」
「……うん。」
同じアルバイトの友人である沙耶にそう言われ、志乃は水を持って注文を取るために男性が座る席に向かった。
「……い、いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」
「ブレンドコーヒーを1つ下さい。」
低くて渋い声だった。
素敵な声。
男性の声を聞いて一瞬そんな事を考えてしまい固まる志乃。
「どうかしました?」
「……ぇ……あっ!失礼しました!ブレンドコーヒーですね!か、かしこまりました、少々お待ちください。」
胸がドキドキする。
今までだってカッコイイと思える男性が客としてやってくる事は何回もあったけれど、それ以上の事は何も思わなかった。
でもどうしてだろう、このスーツの男性の前では異常に緊張してしまう。
「はぁ……」
「どうだった?」
「なんか……私も緊張しちゃった。」
「この近くに勤めてる人なのかなぁ?」
「どうだろうね……」
「気になる〜常連さんになってくれたら良いのに〜」
イケメン好きの沙耶は容姿が良い男性客が来ると毎回こんな感じで、志乃はいつもそれを横で聞いていただけだったのだが、今日に限っては志乃もあの男性の事が妙に気になってしまう。
——どうしてだろう……どうしてあの男の人がこんなに気になるの?——
そんな事を考えながら、注文されたブレンドコーヒーを持って志乃は再びその男性の席へと向かった。
「お待たせしました、ブレンドコーヒーです。」
「ありがとう。」
男性は笑顔で志乃にお礼を言った。
優しい笑顔、そして渋くて低い優しい声。
さっきは怖いくらい鋭い眼をしていたのに、急に優しい眼になった。
男性の顔を見つめたまま、思わず胸がキュンとなって顔が真っ赤になってしまう志乃。
——この人……なんだか……——
「……ごゆっくりどうぞ、失礼します。」
そう言って頭を下げると、緊張した面持ちで志乃は足早に男性のテーブルから離れた。
やっぱり不思議とドキドキしてしまう。
どうしてだろう……。
そして志乃は従業員のフロアに戻る途中、ハッとした。
——そういえばあの男の人、なんだか……真田さんに似てる……?——
そう、スーツの男性の容姿や雰囲気が、昨日読んだばかりの官能小説に出てくる、あの真田のイメージにそっくりだという事に志乃は気づいたのだ。
スーツ姿も、顔も、声も、雰囲気も、まるで真田さんがそのまま小説の世界から出てきたみたい。
志乃はその後もその男性の事が気になってしまい、他の接客をしながらチラチラと視線を送ってしまっていた。
そしてしばらくした後、男性はコーヒを飲み終え、店を出ていった。
※
「真田さん、志乃はどうでした?」
「……ん?ああ、君が貴子が言ってた安本君か。」
カフェを出て少し歩いたところで安本に声を掛けられた真田は、その初対面の男にこう答えた。
「気に入ったよ、小松志乃。まだ純粋無垢って感じがとても良い。」
「……そうですか。しかし驚きましたよ、まさかあの真田さんが実在するなんて。」
「ハハ、そういえば君も元々は読者らしいね。
今回は貴子の遊びに付き合ってやってるだけだよ。
君がカメラマンをやってくれてるんだろ?よろしくな。」
「ばっちり撮影してますよ、真田さんと初めて対面する愛美……いや、志乃の表情を。」
「そうか、貴子が喜ぶよ。しかし君には忠告しておかないといけない事がある。」
そう言って、真田の眼が急に鋭くなる。
そのあまりに鋭い眼光に、安本は一瞬ゾクッと背筋を凍らせた。
「……え?なんです?」
「安本君、君は貴子からは報酬を貰ってるんだろ?」
「……貰ってますよ。」
「だったらルールはしっかり守ってもらう、そしてそのルールは俺が作る。」
「ルール、ですか?」
「ああ、まぁ俺の言う事は絶対に守れって事だ、何があっても。俺からの命令は絶対だ。」
——なんだこいつ、随分と上から目線で物を言ってくるじゃねぇか——
「……ま、まぁ金は貰ってるんで、そう言うのであれば従いますよ。」
「それなら良いが、途中で俺や貴子を裏切るような事があれば、君にとってあまり好ましくない事が起きると思っておいてくれ。」
——なに?こいつ、俺を脅してるのか?——
「裏切りって、そんな事しませんよ、仕事ですから、ちゃんとプロとしてやらせてもらいますよ。」
「そうか、じゃあ君を信用するよ、改めてよろしく頼むよ。」
コメント
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更新ありがとうございました~
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ワクワクが止まらない・・・!
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今後の展開が楽しみです。
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なかさん、CKさん、名無しさん
コメントありがとうございます。エロいのを提供できるように頑張ります!
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ドキドキがとまらない☆
更新ありがとうございます