家庭教師 小森千佳(54)


「はいは~い!今開けますよぉっと!」

千佳 
「ぇ……」

中から聞えてきた声は明らかに康介のものではなく、千佳が聞き覚えのない声だった。

それからドタドタと廊下を走っているような音が聞こえた後、勢いよくドアが開く。

中から出てきたのは、やはり見覚えのない男性だった。いや、男性というより康介と同じくらいの男子高校生だろうか。


「こんちは!」

千佳 
「こ、こんにちは……」

予想外の出来事に驚き、動揺している様子の千佳。


「千佳先生でしょ?」

千佳 
「は、はい……あの……」


「富田から千佳先生の事は聞いてますよ、とりあえず中へどうぞ。」

そう言って千佳の肩を触り、少し強引に家の中へと千佳を誘導しようとする男。

突然馴れ馴れしく肩を触られた千佳は、戸惑いを隠せなかった。

千佳 
「あ、あの……康介君は、いないんですか?」

鈴木 
「今はまだね。俺達留守番頼まれてるんですよぉ。あ、俺富田の高校の友達で鈴木って言います。」

千佳 
「ぇ……俺達……?」

鈴木 
「あー今ね、集まってるんですよ、高校で富田と仲が良いメンバーで。皆千佳先生の事待ってますよ。」

千佳 
「待ってるって……あの……それってどういう……」

鈴木 
「富田から聞いてるんですよ、千佳先生は可愛くて素敵な女子大生だって。だから皆楽しみにしているんです。」

そんな事を言われても、千佳には何がなんだかよく分からなかった。

しかしよく分からない内に、千佳は誘導されるがままに、鈴木と共にいつもの康介の部屋へと入っていってしまう。

すると鈴木が話していた通り、部屋の中には鈴木の他に、同じく高校生と思われる4人の男達が居た。

男達は千佳と康介がいつも座っていたソファに腰掛けていた。先日千佳と康介が交わった、あのソファに。

鈴木 
「おーい千佳先生が来たぞ。」

鈴木のその一声で4人共がこちらへ顔を向ける。

そして皆千佳の方を見ると、声を合わせて
「おおー」

と少し驚いたようにして言った。


「うお……マジで……」


「おい……写真で見るよりずっと良いな……」


「しかもあの服……へへ……富田が言ってた通りだぞ……すげぇな……」

千佳には男達が何を言っているのかよく聞こえなかったが、何やら千佳の顔や身体を見てニヤニヤしながら呟いているのは分かった。

鈴木 
「今日は家庭教師の日なんですよね?」

千佳 
「ぇ……えぇ、一応……」

鈴木 
「富田は用事があるから少し帰るのが遅れるって言ってました。俺達とここで待ってましょう。」

千佳 
「は、はぁ……あの、でも……」

鈴木はあっさりとそう言ったが、この部屋には今、女性は千佳ただ1人であり、他は高校生とはいえ男性ばかりだ。

それに部屋の中だから透けにくいとは思うが、こんな大胆な服装のまま、康介以外の男達に囲まれるというのはやはり抵抗がある。

しかし今この部屋に流れている空気は、それを断れるような雰囲気ではなかった。

鈴木 
「ささ、千佳先生もソファに座って。何か飲みます?富田に冷蔵庫の中の物は好きに飲んで良いって言われてるんですよ。」

千佳 
「あの、私やっぱり……」

鈴木 
「遠慮しないでいいですよ、ほらここに座って。おい、お前は向こうに座れよ。」

向かい合う2つのソファに2人ずつ座っていた男達、その内の1人が鈴木の指示で移動し、その空いた所に千佳が座らされる。

そして残って座っていた男と千佳を挟むようにして鈴木が千佳の隣に座る。

つまり、千佳が座ったポジションは前に3人、左右に1人ずつの男達に囲まれる場所だという事だ。

そんなに大きくないソファに3人ずつ座っているから、隣の人とは肩が触れてしまう程近い。

今の千佳にとってこれ程居心地の悪い場所はないだろう。

鈴木 
「はい、じゃあとりあえず千佳先生もビールね。」

そう言って千佳の前に缶ビールを1本置いた鈴木。

千佳 
「え?ビール?」

千佳は少し驚いたようにしてテーブルの上をよく見ると、ビールの空き缶がいくつも置かれている事に気付く。

千佳 
「あの……皆、まだ高校生だよね?」

ビールの空き缶を見て思わず千佳が言ったその言葉に、ここにいる男達全員がどっと笑う。

鈴木 
「ハハッ、それはそうだけどさ、酒ぐらい高校生でも皆普通に飲んでるでしょ?。千佳先生は飲んでなかったんですか?高校の時。」

千佳 
「わ、私はそんな事してないけど……でも……普通はダメなんじゃ……」

千佳は康介と初めて会った時も同じような会話をした事を思い出す。
あの時は康介も当たり前のようにビールを飲んでいた。

そう考えると、そんなルールを真面目に守っていた自分がおかしいのかと思ってしまう。

鈴木 
「まぁ細かい事は気にしないで、ささ、千佳先生も飲んで、もう二十歳過ぎてるから問題ないでしょ?」

千佳 
「あの……私お酒はちょっと、そんなに得意じゃないし……それに別に今は……」

鈴木 
「軽犯罪を犯している悪い高校生と飲むのは嫌ですか?」

千佳 
「そうじゃなくて、私はただ、今は別にお酒を飲む気分じゃないだけで……」

鈴木 
「へぇ、そうですか。ハハッ、ホント真面目なんですね千佳先生は。富田が言ってた通りだ。」

鈴木はそう言ってヘラヘラと笑っていた。

千佳 
「……。」

まるで千佳の反応を楽しみながら、少し嘲笑っているかのような鈴木の態度。

そしてこの5人の男達から感じる視線。

千佳は感じていた。

街や電車の中で感じたこちらをチラチラと遠慮気味に見てくる視線とは違う、身体を舐めまわすようにしてネットリと見てくる男達の視線を。

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