千佳はその後順調に家庭教師のアルバイトを続けていた。
このアルバイトを紹介してくれた友人の尚子の話通り、富田家が康介の家庭教師に払ってくれる給料は大学生のアルバイトとしてはかなり高額。
それに見合った成果を出すべく、千佳は康介のスキルアップのために一生懸命頑張った。
康介も要領が良いというか、きっと元々勉強はできるのだろう、千佳が教えた事をスムーズに吸収していってくれた。
そしてそんな教師と生徒、千佳と康介の関係も良好だった。
今ではまるで親しい友人同士のように会話をする2人。
その中で相変わらず康介は千佳に対して卑猥な質問や言葉を掛けたりしていたのだが、最初の頃はその度に恥ずかしそうに顔を赤くしていた千佳も、最近はそれにも段々と慣れてきていた。
大体が
「今日何色の下着付けてるの?」
などの割かしソフトな質問だったのだが、毎回康介が勉強に取り掛かるという条件と引き換えに千佳はその質問に正直に答えていた。
もちろん千佳は女性であるのだから、年下の高校生とはいえ、男性にこんな事を教えるのは恥ずかしい事には変わりはない。
それに普通の女性はそんなセクハラ紛いの事を聞かれてたら、その男性に対して嫌悪感を抱くものだ。
しかし千佳がその事に関して、康介に嫌悪感を抱く事は一度もなかった。
それどころか毎回、
「え~またそういう質問?」
と笑顔で言っている千佳は、康介からそのように聞かれる事を楽しんでいるようにも見えた。
〝軽い火遊び〟とでもいうのだろうか。
康介がまだ高校生で若いと言っても、千佳もまだ大学生だ。
それに性的な事に関してはまだ経験が少ない千佳にとって、この康介との少し卑猥なやり取りは、ある意味刺激的でもあった。
SEXの経験が無いわけでないが、それでもすぐに別れてしまった前の恋人と数回程度。
まだ未知である性の世界に、千佳もそれなりに好奇心を持っていたのだ。
興奮と言う程のものではないにしろ、康介からエッチな事を言われて気持ちを高ぶらせてしまっている自分は確かにいた。
でもなぜだろう。
康介に対してだけ、こんなに開放的な気持ちになれるのは。
今までの千佳だったら考えられない。
普通に男性と会話するだけでも緊張していたのに。それは付き合っていた恋人でさえもそうだった。
自分の心を解放できずに、結局別れてしまった。
その経験がある種のトラウマになっていた千佳は、男性に対して臆病なっていたのだ。
でも康介に対してだけは違った。
こんなにも男性に対して笑顔を向けられるのは千佳にとって初めての事だ。
それはもちろん就職活動の面接の時にしていた作り笑顔でもなければ、女友達といる時に見せる笑顔とも違うもの。
心の底からの笑顔、千佳はそれを康介に見せていたのだ。
康介
「……ん?何?俺の顔に何か付いてる?」
千佳
「……えっ?」
横でいつものように問題集を解いていた康介にそう言われて、千佳はハッとして我に返った。
自分でも気付かない内に、真剣に勉強に取り組む康介の横顔を、千佳はじっと見つめてしまっていたのだ。
それを康介に気付かれてしまった千佳は、思わず顔を赤くしてしまう。
千佳
「な、なんでもないよ。あ、もう問題終わった?」
康介
「終わったよ。なんか俺、今までの人生で一番真面目に勉強してるかもなぁ……こんなの俺じゃねぇな。」
千佳
「フフッそれは良い事じゃん。……でもホント康介君って飲み込み早いよね。これなら志望大学、もっとレベル高いところに変えても良いと思うけど。」
康介
「そんなの面倒くせぇよ。あ、でもさ、千佳先生と同じ大学なら行けそうじゃね?」
千佳
「うん、うちの大学受けても康介君なら充分可能性あると思うよ。」
康介
「……あ、でも合格したところで俺が入学する頃には千佳先生はもう大学には居ないかぁ。それじゃ意味ないなぁ。千佳先生来年にはもう就職なんでしょ?」
千佳
「ぇ?……う、うん……そうだよ。」
そう、千佳は今大学四年目。来年からはもう社会人であり、今年が学生生活最後の年なのだ。
つまり、康介の家庭教師をするのも、あと数ヶ月だけだという事。
本当は康介が高校3年生になって、本格的な受験生になってもこうやって勉強をいっしょにやりたい。
でも現実的にはそれは無理だ。恐らく千佳がいなくなったら富田家は別の家庭教師を康介に付けるのだろう。
そう考えると、千佳は少し寂しい気持ちになった。
最近はこの離れの部屋で、康介と2人きりで居る事が当たり前かのように過ごしていた。
そんなはずはないのだが、なぜかそう思い込んでいた。
しかしその時間も永遠には続かないのだと気付いた瞬間、千佳の胸はきつく締め付けられるであった。
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