康介
「ふ~ん、大学の男?」
千佳
「え……う、うん、そんなとこかな……。」
康介
「フッ、ホントにいるのかよ、そんな男。」
千佳
「ほ、本当だよ……。」
嘘八百。
あまりその事を追求されると困る。
なにせ千佳は普段から嘘など滅多につかないため、慣れていない。
それに感情が表情に出やすいので、嘘をついてもすぐに見破られてしまうのだ。
康介
「そうかぁ、じゃあこれ用意してもあんまり意味なかったかぁ。」
千佳
「……何を?」
康介
「いやさ、千佳先生今日誕生日だろ?」
千佳
「……ぇ……どうしてそれを……」
康介の口から出た意外な言葉に、千佳は少し驚いたような表情をしていた。
確か、康介には自分の誕生日なんて教えた事はないはず。
康介
「履歴書に書いただろ?家政婦のバアさんが何日か前に俺に教えてくれたんだよ。」
千佳
「……そうだったんだ。」
家政婦の山田という女性とは、千佳はいつも挨拶をするくらいでまともに話をした事など殆どない。
それなのに千佳の誕生日をチェックして康介に教えるなんて、なんだか意外に思えた。
康介
「それでさ、これ、今日買ってきたんだけど。」
康介はそう言って、紙袋から可愛らしくラッピングされた小さな箱を取り出して千佳に手渡した。
千佳
「……これ……」
康介
「誕生日プレゼントだよ。別に大した物じゃないけどさ。」
この突然のサプライズに、千佳はしばらく言葉を失っていた。
……うそ……
どういう顔をしたら良いのか分からない。
さっきまで胸が潰れそうなくらい苦しかったのに。
千佳はただ、自分が手に持っている小さな箱をじっと見つめていた。
まさか今日、誕生日プレゼントを康介から渡されるなんて考えもしてなかった。
康介
「俺千佳先生の趣味とか分からなかったらさ、クラスの女子に買い物付き合ってもらって選んだんだ。まぁ気に入ってもらえるか分からないけど。」
千佳
「……ぇ……」
……クラスの女の子と……私のために……?
……じゃあ、駅前で康介君と歩いてた女の子って……
康介
「箱開けてみてよ、色とか趣味に合わなかったら変えてくるからさ。」
千佳が丁寧に包装紙を外し、箱を開けると、中にはブラウンの革のベルトを付けた腕時計が入っていた。
シンプルだけど、オシャレなデザイン。
キラキラと光を反射するその時計は、今までの人生で貰ったどの誕生日プレゼントよりも輝いて見えた。
千佳
「素敵……でもいいのかな……こんな高そうなもの……」
康介
「いいんだよ、別に。ほら、ちょっと腕に付けてみてよ。」
千佳
「うん。」
康介に言われた通り、時計を腕に付けてみる千佳。
サイズはピッタリだし、ベルトの色も千佳の白い肌に凄く合っていた。
康介
「似合うじゃん。」
千佳
「……ありがとう……。」
輝く腕時計を見つめながらそうお礼を言った瞬間、ありがとうの一言だけでは言い表せない感情が、千佳の胸の奥から込み上げてくる。
胸につっかえていた不安が消えた事で、一気に溢れてきたその感情を、千佳は康介の前で隠す事ができなかった。
千佳
「ぅ……ぅ……」
康介
「まぁ彼氏ができそうならこんなのいらない……え……ちょ、千佳先生なんで泣いてんだよ。どうしたの?」
千佳
「ぅ……ごめん……何でもない……ありがとう……康介君からこんな事してもらえるなんて思ってなかったから……」
カフェであんな光景を見ていなかったらこんなに泣かなかったかもしれない。
きっと、え~!ホントに!?ありがとう!康介君って意外と気が利くんだね!くらいで終わってたと思う。
でも、今は苦しみからの反動が大きいのか、涙はなかなか止まらなかった。
康介
「そ、そっか。ビックリしたなぁもう、まさか泣くとは思わなかったわ。俺何か悪い事しちゃったのかと思ったよ。」
千佳
「ううん、ごめん。嬉しいよ……凄い嬉しい。」
康介
「……今日の先生なんか変だな。でもまぁ、気に入ってもらえたなら良かったよ。」
優しい口調でそう言った康介は、少し笑いながら穏やかな表情をしていた。
そしてティッシュを3枚ほど取って千佳に渡すと、それからしばらく千佳が泣き止むのをじっと待っていてくれた。
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